英語は実技科目

bookstore  英語学習の出発点として英語が「実技科目」であるという認識を持っているかが非常に重大なポイントです。英語の試験としてはリスニングや面接での会話も行われる場合がありますが、どうしても筆記試験を中心に意識が向けられるためか、英語を実技科目と捉えて学んでいる人が非常に少ないように感じます。

 たとえば何かスポーツを習得しようとする場合、基礎段階では「なぜそうするのか」という理屈から理解し、理論的な納得とともに実際の体の動かし方を覚え、あとは正しいフォームを反復練習によって身につけます。スポーツであれば理論より実践が重要であることは誰でも納得できるでしょう。いくら書物によってスポーツ理論をたくさん学んでも実際に体を動かしてみないことには永久にそのスポーツは習得できません。理論は「なぜ、そうするのか」を理解・納得し、経験したことのない体の動きを「どこをどう動かすことで可能になるのか」を最初頭で理解するためのものですが、そういう理論を通じて実際に適切な体の動きができるようになったら、もう理論は忘れてよいのです。あるいは「頭で考える理屈」から感覚として身についた感性」に高まった状態になっていくべきなのです。

music  あるいは音楽にたとえることもできます。歌がうたえ、楽器が演奏できるために音楽理論を学び、楽譜 の読み方・書き方を習いますが、楽譜だけ見て「これはいい音楽だ」と思える人は必ず、その楽譜が実際に演奏された結果の音をイメージできています。上手に歌えるようになるために発声を習うときも、口の中の部位の名称をいくら暗記してもそれが歌の上達になるわけではなく、理論を理解するための知識としてであり、本来の目的は音楽的な発声そのものを身につけることにあります。

 ある音楽を人に伝えるとき、直接歌や演奏を聞かせられればそれでよいのですが、それができないとき、あるいは記録として残したいとき、楽譜という手段が用いられます。実際の言語が音声によるコミュニケーションであり、それが「演奏」にあたり、文字により文章として書き表されたものが「楽譜」に相当します。

 英文が読めるということは、書かれた英文を現実の音声に変換できるということです。単に読めるというだけでなく、適切な区切り方や緩急、強弱を持たせ、その英文を最初に書いた人が実際にどういう音声で何を伝えようとしていたかを再現することなのです。それができるためには「意味に応じた読み方」ができなければならず、文字としては同じ文面でも読み方1つ違えば、伝わる意味もまったく異なることさえあります。

 どう発音すればよいのかも知らない英単語が並んだ英文を、辞書的な単語の意味の置き換えだけで和訳することが「英語を理解」することなのではありません。意味を知らない単語が含まれていても、まずは「英文をどう音声化するか」が第一歩となります。これを忘れない でください。

writing  英文を「書く」ときも同じです。実際の演奏結果を書き残すのが楽譜であるように、書かれた英文もまた「実際の音声」の記録です。現実のメロディをまず思い浮かべたり口ずさんでからそれを楽譜に記すように、英文も「まず口で言う」ことが先に行われるべきであり、「口頭で読 み上げた結果」を文字に書き付けるという順序が大切です。

 このようにちょっとした順序を守るだけで英語は実技科目となります。順序が逆だと技能の上達には結びつかず「実際の演奏がどうなるか想像もしないまま並べられた音符」と同様です。

 歌や演奏が上手でも楽譜が書けないミュージシャンはいます。理論に詳しくなくても上手なプレーをするスポーツ選手もいます。それを英語になぞえるとすれば、単語の正確なスペルは忘れても単語の発音は覚えているようなものです。

 日本語の場合をちょっと考えてみましょう。
 皆さんが何かの話題について日本語で文章を書こうとする場合、恐らく実際に声には出さなくても心の中で「言葉を発して」みて、それを書き付けているのではないでしょうか。そのとき漢字が思い出せないこともあるでしょう。しかし漢字は書けるけど読めないままそれを用いた文章を書くでしょうか?そういう不自然なことを「英文を書く」とき多くの人はやっているのです。

 本気で英語の上達を目指すのであれば、折に触れて「言葉」そのものについて考えてください。日本人が日本語を自在に使えているのはなぜなのか?なぜ自分は日本語が分かるのか?なぜ日本語が話せて聞き取れるのか?など、日常的に当たり前すぎて疑問さえ持たないことの答えが英語上達の秘訣につながることが多くあるのです。

 「当たり前すぎて疑問を持たないこと」---これが案外重要なのです。そういう当たり前のことに改めて疑問を抱き、考え直してみることで本来あるべき言語学習の取り組み方の指針も見えてきます。


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