英語を学ぶ目標・意義・目的

 英語を学習する目標は、言うまでもなく「英語の習得」です。英語を習得するとは:

 英語が話せる(Speaking)
 英語が聞き取れる(Listening)
 英語が読める(Reading)
 英語が書ける(Writing)

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 という4つの技能領域のすべてについてバランスよく能力を伸ばしていくことを指します。
 なんと、このどこにも「和訳できる」はありません。考えてもみましょう。英語ネイティブは基本的に日本語が分からないのですから英語そのものを学習する「目標」には本来「和訳できる」は含まれていなくて当然なのです。

 ではなぜ学校の授業で多くの場合、和訳が重んじられるのでしょうか?それは教員側が生徒の英文理解を確認する手段として「和訳できるかどうか」を主な手段としているためです。確かに英文の意味を日本語で言い表せるかどうかは英文の理解度の証明の1つになりますが、和訳以外に英文理解を確認する手段はないのでしょうか。生徒が本当に英文の意味を理解しているかどうかは音読させてみれば一目瞭然であり、どこが分かっていてどこで理解につまづいているかまで音声に現れるものなのです。また「和訳できるかどうか」だけに重点を置きすぎると学習者はそれだけを目標に置くようになってしまいます。英語が使えるようになることより和訳することが英語の学習目標であるかのような誤解をしてしまいます。

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 それでは英語学習において和訳は悪なのでしょうか?まったく必要ないものなのでしょうか?
 それもまた違うと思います。私たちは日本人なのですから、母国語である日本語と英語を比較していろいろ気づき理解することもありますし、英語という外国語を通じてはじめてより深く日本語を知ることだってあります。

 つまり「英語を学ぶ目標」とはまた別に「英語を学ぶ意義」として付け加えられるものがあってよいと思います。

  1. 英語という外国語を他山の石として母国語である日本語を客観的に見つめなおす。
  2. 英語、日本語それぞれの論理や表現方法を比較して、互いの文化を学ぶ。
  3. 時に英文を「自然な日本語に直す」という作業を通じて日本語の表現力の向上にも寄与する。
  4. 翻訳や通訳といった実利的な業務に関する素養も培い、異文化間の橋渡しとして自らの存在価値を得る。

 他にもいろいろ考えられるでしょうが、英語学習の「目標」と「意義」は、このようにたてわけて考えていくのがよいと思います。多くの人はすでにこの段階で目標と意義を混同しており、だから目標が達成されないという結果に陥っているのです。

 加えて言いますと「英語学習の目的」も、またこれらとは違ってきます。目的とは、その個人が「なぜ英語を学ぶのか」、「何のために英語を学ぶのか」です。これは人それぞれ違った目的を持っていることでしょう。ある人は受験に合格するため、ある人は仕事のため、また趣味としてなど、千差万別の目的があって構いません。個々人の目的まで1つにまとめる必要などありません。しかし、その人が持つ目的は実現されなければならなりません。どうしたら実現されるのか?答えは簡単。だれにでも共通である目標を達成すればよいのです。目的は人それぞれであっても、目標は同じなのです。

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 「目標、意義、目的」という3つの概念をよく理解し、たて分けることが大切です。一見同じようなこれらの概念の違いを踏まえているかどうかが極めて重要な出発点なのです。そして個々人の目的がなんであれ、「共通の目標を達成できたときは、そのどの目的も 実現される」ということを理解していただきたいのです。英語学習の目標は、あらゆる英語学習の目的にとっての必要条件であるということです。

 なお「目的のない学習」は高い効果が期待できません。単に外国語の勉強が好きで趣味として取り組んでいるだけで楽しいという人はそれで構いません。「趣味として楽しむ」ということだって立派な目的となりうるからです。学習者が自らの意思・希望・願望により目指すものであればどんなことでも目的になりえます。ただ1つ望ましくないのは「やりたくないけどやらなければならない」という種の目的です。

 「受験のため」というのがそれにあたることがままあります。だからそういう消極的な目的を掲げて英語学習に取り組む人は高い効果が得られないことになりやすいのです。

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 これはもう「英語学習」の話題からはずれてしまうかも知れませんが、受験以外にこれといった英語学習の目的を見出せない人はまずそこを改善することから始めなければならないでしょう。「受験にさえ合格できれば、別に英語が話せなくてもいい」という感覚の学習者は、言うなれば「聞く耳持たない受講者」であり、本書どんなに苦心して文法解説しても効果はないでしょう。「(目先の試験で点数を取るために)やらなくていいことはできるだけ省き、どうしてもやらなければならないことだけをやりたい」という考えでいられると、すでに「本当にやらなければならないこと」が見えなくなってしまいます。本書でいくら発音記号の習得を勧めても「発音記号を書けという試験問題はない」からという理由で勝手に学習方法をアレンジされてしまうことでしょう。

 そのような発想で英語を学んでいる方については、どうか自らの人生全体を見渡す気持ちで「受験に合格する目的」から考え直していただきたいと思います。人生におけるとき折々の「小さな目標」は、その向こう側にあるさらに大きな目的への一里塚であり、最終目標をしっかり抱えている人でなければここの小目標は実にむなしいものとなってしまうのです。そこまで本書でお話しようとは思っていませんので、それについてはご自身でよく考えていただくこととしましょう。

 それではこの先に進む前に一度ご自身にとっての英語学習の「目標、目的、意義」を整理してみてください。1枚の紙を用意し、次の項目について実際に自分の言葉で書き記してみてください。誰に見せるためのものでもありません。自分自身をしっかり見つめなおし理解するためです。

1、目標
 どのようなレベルに達したいと思っているのか、できるだけ具体的に書き記してください。洋画を字幕なしで楽しめるようになりたいとか、通訳ができるようになりたい、英語コールセンターのエージェントとして世界各国からかかってくる英語の電話で業務上の質問に答えられるようになりたいなど何でも構いません。

2、目的
 最終的な目標に至るまでの通過点として今当面実現したいと考えている目的を明確にしましょう。いくつあっても構いません。これもできるだけ具体的に書き記してください。

3、意義
 英語学習を通じて付随的にもたらされるメリットにはどんなものがあるでしょうか。思いつく限り何でも書いてください。

 英語学習における「目標、目的、意義」を自分なりに明確にすることで動機を強化し、今自分がどこに向かっているのかを自覚しましょう。これらが明確になればなるほど、今後の本サイトの内容が自分の目指すものの実現にいかに直結しているかを納得していただけることと思います。


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