世界の様々な英語

 学校では英語といえばアメリカ英語イギリス英語があると習うと思いますが、それら2つの英語だけがすべてではありません。英語を(事実上を含めて)公用語とする国はアメリカ、イギリスのほかカナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどがありますし、英語を第2公用語としていたりして通用度の高い国としては、インド、シンガポール、フィリピン、その他多くがあります。

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 世界のどこでも通じる標準的な英語としては確かにイギリスまたはアメリカのいずれかになると思いますが、同じアメリカ国内でも地域差があり、アメリカ標準とされているのは中西部の英語だそうです。初学者にとってアメリカの西側と東側の英語の区別もつきませんし、その必要もありません。またイギリス英語とアメリカ英語ではスペルも少し違うことがある他、文法的な傾向性にも多少の違いが認められます。しかし互いに問題なく通じ合える範囲内であり、どちらの英語でなければならないということはまったくありません。

 英語人口の比率としては英語を話す全人口のうち3分の2をアメリカ英語が占めるとされていますが、もし将来イギリスに移住する計画があるのであれば自分の生活環境に合わせた英語を習得すればよいでしょう。それでもアメリカ英語を習得した人がイギリスで苦労するわけではありません。日本国内でも他県に移り住んでいつの間にか地元の訛りが自分に移ったりしますよね。

 学校では世界のどこの国の人を相手にしても無難に通じるという観点からアメリカやイギリスの英語を標準として教えます。しかし、それだけが「正しい」と思い込んでいると様々な国の英語に接する中で驚くような体験もすることになるでしょう。学校なら間違いとされる英語が実はある国では正しかったりさえするのですから。

 和製英語とされる「エアコン」や「ボールペン」はフィリピンではそのまま通じます。air-con、ball-pen と日本語とまるで同じ表現が普通に使われています。フィリピン独自の傾向としてはトイレのことを CR(Comfort Roomの略)と呼びます( restroom などももちろん通じます)が、CRは他国では理解してもらえません。また冷蔵庫( refrigerator )をアメリカなら fridge と略すところを「ref」という独自の短縮形を用いたりもします。

 「フィリピン標準英語」と呼ばれるものは教養ある人々によって用いられるアメリカ英語とほぼ同じ言語であり、発音も明瞭で大変美しいものです。最近では、遠いアメリカやイギリスに行く代わりに時差も少なく、物価も安いフィリピンに英語留学する人も増えています。フィリピン人は「英語ネイティブ」ではありませんので、語学学校から一歩外に出ると英語以上に現地語が使われてて、英語を母国語とする国ほどには日常生活からも英語が吸収できるとはいえませんが、それでも英語の映画には字幕ながく(必要ないのです)、町中に英語の看板が溢れていますので、日本国内とはまったく違う雰囲気に浸れ るでしょう。なお、マニラ首都圏一般庶民の間では現地語のタガログ語と英語が混在した「タグリッシュ(Taglish)」というユニークな言葉が用いられています。これは日本語に外来語が混じるようなものではなく、文章丸ごと英語に突然切り替わったかと思えばまた突然タガログ語だけになったりするもので、言語学的には「code-switching language」というのだそうです。Uncleを「アンケル」、bicycleを「バイシケ ル」のように「-cle」語尾を[ -kl ]ではなく[ -kel]と読むのもマニラ方言の特徴です。

 フィリピンはもともと現地語があり、そこにスペイン語の影響が強く働いたあとアメリカ軍の進駐により英語が浸透しました。他の多くの国でも英語を第2公用語としている場合は同様の歴史があったりします。

 インドの英語もかなり独特です。
 インド英語は「外国とのコミュニケーション」を目的とした教養のある人たちが話す英語と、それとまったく別に「国内で方言が多すぎて互いに通じ合わないため、国内のコミュニケーションを目的として独自に発達」したインド英語があります。前者の場合は、訛りは感じるものの慣れてしまえばそれほどの違和感なく会話もできるのですが、後者は地方ごとにさらに強い特色があり、同じ英語とは思えないほどの違いがあります。

[ タミル英語 ]
Meester Bharma uaj bhomitting in the bharandah, Sir!
=Mr. Verba was vomitting in the verandah, Sir!

ヴァーマ氏はベランダで吐いていらっしゃいました。

[ ヒンディ英語 ]
It ij terribull. Prejence is por in i-shcool.
=It is terrible. Presence is poor in school.

これはひどい。学校の出席率がとても低い。

[ パンジャビ英語 ]
Go sutterait in the suttereet and ju bill find the house ju bant!
=Go straight in this street and you will find the house you want!

この通りをまっすぐ行けば探している家が見つかりますよ。
(上記例は「英語の歴史(松浪有 編/大修館書店)」から)

 それではイギリス、アメリカならどこでも分かりやすいかといえばそうでもありません。日本でも標準語は東京地方の言語を基礎としていながら、いわゆる江戸っ子の方言は「100円」が「しゃくえん」だったりするように、たとえばイギリスの首都であるロンドンの下町でも「コックニー英語」と呼ばれる強い訛りがあります。

 ロンドンに留学中の学生が「ビクトリア駅」への行き方をたずねたところ「オウ、ビットーリャスタイション、タイクブス、ヌンバーライト!」と言われて、それが「Oh, Victoria Station? Take the bus number eight.」だと分かるのに時間がかかったというエピソードがあります。

my fair lady

 また映画「マイフェアレディ」では言語学者のヒギンズ教授がロンドンの下町娘のイライザの強い訛りをを矯正するシーンがあり大変面白いでしょう。  他にもオーストラリア、ニュージーランド、カナダなど英語を主に用いている国でもそれぞれの特色ある訛りがあります。どの国でもその国の中ではそれが「標準」なのですから誰も自分が訛っているとは思っていないわけです。

 ちなみにこの映画のタイトル「My Fair Lady」ですが、主人公の女性イライザが、「Mayfair(メイフェア=May5月に市場(fair)が開かれたという由来のある町)」という町の出身で強いコックニー訛りの英語を話します。コックニー英語では「paper」が「パイパー」、「today」が「トゥダイ」のように /eɪ/ の発音が /aɪ/ に置き換わります。すなわち「マイフェアレディ」というのは、Mayfair、メイフェアという地名をコックーニー訛りで発音すると「マイフェア」になるので、「Mayfair 出身の女性」という意味と「My fair lady(私の淑女、上品な女性)」という意味をかけた洒落になっているのです。

 このように世界には様々な特色ある英語が多く存在します。英語を公用語とする国だけでなく、英語を外国語として学びながら用いている人々を含めれば、こちらが期待するような文法的に正しい英語ばかりを使ってくれるとは限りません。現実問題として、多くの人にとっては、英語を母国語とする人とのコミュニケーションに英語が必要になる場面よりも、そうではなく、英語以外の言語を母国語としながら、私たちとの共通言語が英語しかない人たちと意思の疎通を交わさなければならない場面の方が多いかも知れません。そういう機会が多くあることもまた英語が世界的に多くの人に学ばれ、用いられている証拠でもあります。

 私たちは英語学習者として、どこの国の人にも通じる世界標準としての英語を身につけるように心がけるべきですが、様々な癖のある英語を使う人たちともコミュニケーションが取れる柔軟性も備えたいものです。少なくともアメリカ英語やイギリス英語以外の英語を話す人たちを見下すような姿勢を持ってはなりません。自分がこれまで知らなかった英語もまたあるのだという現実を受け入れていくことも重要なのです。

world

第1章の最後に

 いかがでしょうか。いよいよ英語を本格的に基礎から徹底的に学ぶ気構えができあがっ たでしょうか。これまで英語について伸び悩みを感じていた方は、英語の学び方から根本 的に見直す気持ちになっていただけましたでしょうか。あるいは英語を教える立場にある 方は、英語指導の方針について気持ちを新たに考え直してみようと思っていただけました でしょうか。

 この第1巻では英語学習全般についての総論をお話しました。まだ何も個別の内容には 入っていません。

 この先、第2巻では発音の基本について多くの練習課題を通じて学びます。単に英語の 発音記号の読み方を解説するだけではなく、単語やフレーズ、文章といった長い単位につ いても適切な読み方を意味に応じてできるようになることを目指し、多くのビデオ教材も提供します。

 第3巻では文法を中心に英語的なものの考え方、感じ方を身につけるための訓練指針 を詳細に示します。人為的ルールの羅列ではなく、生きた言葉の裏側にある英語話者の心 理をさぐり、自分自身の言葉として英語が口をつくため、あらゆる文法事項について「なぜ」を考えます。

 さらに英語の語源を中心にして英語話者と同様のイメージを英単語から感じ取りつつ、 極めて効率的に膨大な数の英単語を短期間に習得する秘訣を伝授します。

 その他英語学習の効率化に大きく寄与する英文タイピングの練習もあります。
 どうか本書の一連のシリーズを通じて、生涯にわたる確固たる英語学習の方針を得てく ださい。

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