学習環境について

留学しないと英語は上達しない?

 英語が上達するためには英語を話す国に留学しなければ無理なものなのでしょうか?
 確かに経済的・時間的に十分なゆとりがあり、長期に渡って英語を母国語・公用語とする国に滞在できれば、その機会を活用するチャンスはあります。しかし、英語圏に住みさえすれば、何の努力もせず自然に英語が身につくかというと、そう甘いものではありません。

英語学習に最適な国はどこか

 本格的に英語の上達を目指すとき、英語を母国語あるいは公用語とする国に渡り現地で学ぶことは確かに望ましいことだとは思います。しかし、十分な基礎のない人がいきなりアメリカに滞在して大きな効果が期待できるかといえば疑問です。

 外国語を習得するための「実践の場」として、その言葉を話す国に身をおくことのメリットは計り知れません。その言語を使う機会が豊富なだけでなく、言語の背景となる文化に直接触れることは貴重な経験となることでしょう。しかし、私自身、日本を離れてフィリピンという国に居住して(本稿執筆時点において)10年近くになろうとしていますが、「この国にいるからこそ英語や現地語(タガログ語)の上達をした」とは必ずしも思えないところがあります。恐らくは日本国内ほど日本人にとって外国語の学習に最適な国はないのではないでしょうか。

その理由は:

  1. どんな書籍・出版物も容易に入手できる
     日本の書籍流通システムは極めて優れており、大手書店に限らず町の小さな本屋でさえISDN(書籍ID番号)さえ分かれば世界中のどんな書物の取り寄せもできます。日本国外で同様のサービスは必ずしも期待できないものなのです。海外で日本国内の出版物を入手することは容易ではありません。
     海外の書店にあるものはすべて日本国内でも入手可能ですが、日本国内の出版物は必ずしも海外では入手できないものなのです。

  2. 日本人を対象とした教材が豊富である
     日本国外ではたとえば英和辞典1つにしても入手は困難です。携帯に便利な電子辞書なども日本人向けの製品は海外ではなかなか入手できません。
     英語学習教材・参考書についても日本国内では教育関連産業が盛んなので実に豊富にそろっています。和英対訳の映画のシナリオもあれば、日本語・英語字幕を切り替えられるビデオソフトなど、日本国内でこそ入手可能な優れた教材にあふれています
     いざ海外に留学したあとになって日本でしか入手できない書籍・教材が必要になることも珍しくありません。

  3. インターネット環境に恵まれている
     日本のインターネット環境は世界でもトップクラスであり、通信速度も多くの国と比較にならない速さが安価で実現されています。回線の速さと安定度が優れていることのありがたさは日本から出てみると実感されます。
     ビデオストリーミング再生もストレスなく行われますが、これが外国だと場所によってはネット接続料も割高で、速度もかなり昔の日本並みです。インターネットが自在に使えるということは現代において必要不可欠な要素にさえなってきています。それは英語学習においても同様で、オンラインで様々なタイプの辞書、速やかに疑問に答えてくれる様々な情報、リスニング教材として活用できるビデオ類、skypeなどの通信ソフトの使用が極めて容易であることのありがたさはそれが当然である日本国内にいると案外実感できないものです。

 このように日本国内というのは英語学習者にとっては非常に恵まれた環境にあることを知らなければなりません。その中にいるとありがたみが実感できませんが、日本国内にいるからこそ容易に実現可能な学習環境を最大限に活用することをまず考えてみるべきでしょう。

留学について

 もともと留学というのは、特定の学問分野についてある国にいかないと学べないものがあるとき長期的にその国に滞在して学ぶことを指しました。言葉の通じない国で特定の専門分野を学ぶため、現地の言葉はツールとして必須になったわけです。しかし今では日本にいたのでは学べないことなどほとんどなくなっています。

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 英語を学ぶために巨額の費用と時間をかけて英語圏に滞在することがそれに見合った効果を常にもたらすわけではありません。日本の学校教育で十分な成果が得られない根本原因をはきちがえて「海外に行けば自然と上達する」と思い込むのは間違っています。「留学」などと肩肘はらず気楽な「長期観光旅行」というのなら(費用と時間に余裕があるのなら)それはそれでまったくかまいません。きっと異国の文化に肌で触れて得るものは大きいでしょう。しかし、それによって外国語も日本国内にいたときより簡単に上達できると考えているとしたら大きな間違いです。

 何よりも先に「留学する理由、目的」を明確にしなければなりません。日本国内で英語が上達しないというだけでは、たとえ数年間もアメリカに滞在しても大きな成果は得られないでしょう。なぜなら「英語が上達しない」本当の理由が「日本にいるから」ではないからです。そこを勘違いしてはいけません。すでに述べました通り、日本は英語学習にとって極めて優れた環境にあるのです。その恵まれた環境を生かせないのに英語圏に行ったからといって劇的な変化はありえません。

 たとえばある人がアメリカに渡り1年間英語の勉強をしたとしましょう。もしその人が結果として飛躍的に英語の上達をしたとしたら、それは「自分の部屋に帰ってひとりきりになったときの時間」を有効に使ったからです。その日の経験を踏まえて新たに出会った単語を覚え、書籍に向かい、「一人で学ぶ時間」を有効に使ってこそ上達がもたらされます。語学の上達というのは「主体的能動性」によってのみ実現されるものであり、環境から受動的に与えられるものでは決してないのです。これを肝に銘じてください。

 ですから日本国内で能動的な自主学習・訓練のできない人が、たとえアメリカに渡ってもそれが突然できるようになるものではありません。
 日本で十分な基礎を固めてからアメリカの大学で学ぶなどするのはよいでしょう。多くの留学制度では事前に厳しい審査・試験があります。なぜそういうものがあるかといえば「費用と時間をかけて留学してもそれに見合った成果が収められる状態にあるかどうか」を見極めるためです。
 商業主義的な留学斡旋では、英語初心者であっても簡単に「留学」させます。それは留学といっても名ばかりのものであり、「英語の勉強もできる海外旅行」に過ぎないのです。そしてそういう留学の場で通う語学学校は、日本国内の英会話学校となんら違いがなかったりもします。まして一週間や一ヶ月の滞在期間をもって「留学」と呼べるものでしょうか。語学の勉強を考えない普通の海外旅行でさえもっと長期の滞在をする人が多くいます。

 それでも日本を離れて異国の文化の中に身を置くことには多くのメリットがあるでしょう。英語の上達と切り離して考えるとして、実際にその国に行ってみなければ分からない「空気、光」というものがあります。現地の人とのふれあいや、言葉の通じない不便さまでもが貴重な体験となるでしょう。留学だと考えずに気楽な観光旅行の中で、日本に帰ってからの英語学習に向けての強い動機付けとするのは大いに望ましいことだと思います。

 もしすでに今後留学の予定があるのであれば、今から入念な準備を開始してください。現地に渡ったら英語を学ぶのではなく、今学び、その成果を現地で武者修行するという気構えが必要です。そして現地についたら1日たりとも無駄にせず、常に必死に学び続ける覚悟を決めてください。同じ費用と時間をかけても「気楽な観光旅行」とするのか「大きな成果をお土産にする留学」とするのかは、本人の主体的な構え1つにかかっています。

 繰り返しますが「日本国内で十分な基礎を固めてこそ留学は効果を発揮します」。留学することで自動的に英語が上達することなど決してないのです。


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