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230、there/hereについて

 there, here元来が副詞として「そこで、そこへ」、「ここで、ここに」の意味であり、それが名詞に転用され「そこ」、「ここ」としても用いられる場合があります。

 from here to the station のように前置詞 from と結びついていればその here は名詞(=this place)ですが、歴史的にも there/here は「もともと副詞」ですので、理由があって転用される場合以外は副詞として用いられることが優先されます。

 there は「the」と関係があり、「the」は「that」の弱まったものです。そして古い英語の副詞語尾である「-r」がついて there となった経緯があります。

 一方 here は「he(彼)」と語源が共通であり、それに副詞語尾「-r」がついて、語源的意味は「where one puts himself(彼が自分自身を置く場所で)」です。

 日本語では「ここ、そこ」と場所関連の語には「-こ」が共通語尾となっていますが、「そこ」は「其」、「ここ」は「此」と漢字表記することができ、「」は「」を意味しますので英語の there, here の副詞語尾「-r」に通じるところがありますね。

here, there, where と場所に関する副詞は、そういうわけで共通の語尾を持っているのです。

 語源的知識は一見実用的な技能に直結しない「専門的知識」や「トリビア」と受け取られがちですが、実はそうではなく、言葉を感覚として深く実感を伴って使えるようになるためには非常に有効です。

 here, there を日本語の「ここ、そこ」に頭の中で置き換えて理解している限り、英語を使っていても常に日本語のフィルタをかけています。しかし語源的に「here = he + place」、「there = the + place」と感じとりながらこれらの言葉を用いていると日本語への置き換えなしに、ダイレクトにその言葉の意味を実感できます。これは英語ネイティブがその言葉を口にした瞬間無意識に抱く感覚そのものであり、日本人として生まれ育って長年を過ごしたあとでさえも、語源の知識を有効に踏まえることにより、より適切で速やかに「後天的なセミ・英語ネイティブ」のような感性を磨くことができるのです。

 さて there/here の語源を知り、「なぜ there が『そこで(へ)』なのか、なぜhereが『ここで(へ)』なのか」を納得したところで、それぞれの使い方、文法的機能について見ていくことにしましょう。



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231---(1)場所を表す副詞として

 すでに述べたとおり there/here はその語源からして本来副詞です。
 ですから前置詞を伴わないままで、

there:そこで、そこへ
here:ここで、ここへ

を意味します。ただし「そこから」や「ここから」の「from」を含む意味はありませんので、「そこから、ここから」と言いたいときは there/here を名詞に転用し、from there / from here の形を用います。

 またthere/here だけで「そこで、ここで」を表せますが、「この(部屋の)中は」のようにより具体的に場所を絞り込んで表現したいときにも「in here」の言い方が用いられます。

I live here now, but I used to live there before.
今はここに住んでいるが以前はそこに住んでいた。

How long does it take (on foot) from here to the station?
ここから駅までは(歩いて)どれくらいかかりますか?

Oh, it is very hot in here.
わあ、この中はすごく暑いな。

 具体的な場所を示す意味で用いられる there は [ ðɛ́ər ] と明確に発音されます。



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232---(2)Here be S/ S be here.

 本来の「主語+述語」の語順から言えば「S be here.」が基本となります。
(「be」は主語・時制に応じた形を取ります)

Jane is here. ジェーンはここにいる。
Your wallet is here. 君の財布はここにあるよ。

 場所を表す副詞 here が強調として文頭に出るとSVは倒置されますので Here be S の語順となります。文頭に出た here は文末同様に「ここに」という具体的な場所を指し示す意味の副詞である他、一種の間投詞的に相手の注意をひきつける使い方もされます。後者については慣用表現として後で解説します。

Here is Jane. ここにいるのはジェーンだ。ここにジェーンがいる。
Here is a book. ここに一冊の本がある。
Here is the book. (ほら)ここにその本があるよ。

「Jane is here. 」と「Here is Jane.」では、そこに述べられている事実は同じでも、前者が「ジェーンを主題としてまず提示し、ジェーンについていうと、その人はここにいる」という語順となっています。後者は「Here is..」で始まる時点で主語がまだ不明(伝えられていません)。つまり「ここにある(いる)のは、、」という切り出し方に相当すると考えてください。

 固有名詞や the を伴う、何を指しているか話者・聞き手が了解している特定の名詞は Here is S / S is here. いずれの主語としても自然ですが 「a book」のような不定名詞が主語になるときは「Here is V」の形式で言うのが普通です。

Here is a book. ここに一冊の(と或る)本があります。
A book is here. <あまり用いられない。

この違いは日本語の「は」と「が」との相性に近いものがあります。

 「昔々あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました」というのを 「(或る)おじいさんとおばあさん『は』住んでいました」というと不自然に感じますね。これは物語の冒頭で「あるおじいさんとあるおばあさん」という不定名詞として現れるからです。
 しかし、すでに登場した「そのおじいさん」であれば「そのおじいさんはそこに住んでいました」 もごく自然に響きます。日本人が感じる「不定名詞」と「定名詞」の「は、が」との相性に近いものを英語では Here is S / S is here. の違いに感じます。Here is S/S is here. で不定名詞、定名詞それぞれが主語になった場合を比較してみましょう。

<不定名詞>
Here is a pencil. ここに一本の鉛筆あります。(自然)
A pencil is here. 一本の鉛筆ここにあります。(不自然)

<定名詞>
Here is Jane. ここにジェーンいます。(自然)
Jane is here. ジェーンここにいます。(自然)



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233--(3)There be S / S be there.

 Hereの例で理解したとおり、主語が不定名詞(a pen, a book など)の場合は、There is/are S の形式がしっくりきます。ただし Here と違って、「There is/are S」の構文で文頭に置かれる there は具体的な「そこに」の意味を失います。発音も弱形の [ ðər ] としか読まれません。具体的な場所についてはさらに追加して示してやる必要があり、「そこに1冊の本がある」というのならば

There is a book there. (thereの発音=文頭は[ ðər ]、文末は [ ðɛ́ər ]

とする必要があります。文頭の there は弱形発音ですが、文末の具体的な場所を示す there は強形発音がなされます。

 Hereの場合、定名詞(固有名詞やthe付名詞)は Here is S/S is here いずれのパターンの主語としても(ニュアンスに差はあるが)自然におさまりました。

 しかし There is/are S の構文では、基本的に不定名詞が主語となるのが自然であり、特別な場合を除いて定名詞を主語とするときは「S is/are there.」の形式で表します。

Tom is there. トムはそこにいる。トムがそこにいる。
John and Mary are there.ジョンとメアリーは(が)そこにいる。

There is/are ....の構文で文頭に置かれる there のことを「文頭に置いて事物の存在を漠然と示すthere」といいます。(長い名前ですね。)簡単に「予備の副詞」という用語でも呼ばれますが、名称が何を物語っているかが分かりやすいのは長い名前の方でしょうね。

There はあくまでも副詞なのですが、「There is ... 」は 「This is / That is ...」などと見かけ上形式が似ていることもあり、文の変形では there が主語のような扱いを受けたりもします。つまり

Is there any water in the vase? 花瓶の中に(少しでも)水が入っていますか?

 This is ...が疑問文で「Is this..?」になるように be動詞と there が倒置されて疑問文となっています。この例文で本来主語は any water なのですが、文頭の2語が見かけ上「SV」であるかのように感じられるところから、このようなことが置きます。

 これは付加疑問文でも同様です。

There is some milk in the refrigerator, isn't there?

 There is/are...に先行されて現れる主語は、不定名詞であることが通常ですが、何かを列記する場合には、定名詞も用いられます。たとえば「この仕事ができる人、誰がいたかな?」とたずねられたとして、

There is John. ジョンがいるよ。
There are John, Mary, and Tom. ジョンやメアリーやトムがいるよ。

と答えるような場合です。



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234---(4)慣用表現

 there/hereを用いた表現の中には単語の意味から直訳したものからちょっと離れた意味に用いられるものもあります。there も here もその音自体が人の注意を引き付ける間投詞的な響きを持っているところから単独で「ほら!」に相当する使い方もされます。

Here you are.

 直訳的意味は「ここにあなたがいる」ですが、誰かが自分のいる場所に現れたり、帰って来たりしたとき、この言葉をかければ文脈や状況によって「いらっしゃい」、「ようこそ」、「おかえりなさい」、「ほら来たぞ」などの意味合いになります。
 また「ほら着きましたよ」と目的地への到着を知らせる言葉としても用いられます。
 さらに相手に何かを差し出すとき(特に相手が求めているもの)に使えば「はいどうぞ」、「はい、ここにありますよ」などの意味にもなります。

Here we are.

 you に話者である自分を含ませた表現ですから、目的地への到着を知らせる「ほら着きましたよ」にやはり使えます。

Here he is. / Here she is. / Here they are.

 Here you are. の「相手が到着した」ことに対する言葉の延長として、「ほら彼(彼女、彼ら)が来たよ!」、「ほらお出ましだ」となることは理解できるでしょう。

Here it is.

 人間ではなく物を主語に取れば、「ほらあった」、「はいどうぞ」、など物主体の表現となります。

Here we go.

 「さあ行くぞ」、「さあ始めるぞ」など。この Here はほとんど間投詞に近いと言えるでしょう。

There you are.

 これも使い道の広い表現で、「なんだそこにいたのか」がもともとの語義の組み合わせに近いですが、相手が何かを言ったのを受けて「ほら私の予想通りだ(言った通りだ)」という意味にもなります。

There you go.

 例えば何か問題を出しますよと前振りがあって「はい、ではいきますよ」と実際に何かが相手に対して始まる合図のような意味。

 文脈やその場の状況によってはもっと使い道があると思いますが、いずれの場合も一応単語ごとの意味の組み合わせを踏まえつつ、かなり柔軟に使われますので、これらの慣用表現は文章まるごと「一種のかけごえ」のようにイメージした方がよいかも知れません。



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235、関係副詞

 「関係詞」としてまとめられる語には「関係代名詞」、「関係形容詞」、「関係副詞」があります。
 いずれも疑問詞に由来する語が接続詞に近い働きを同時に果たすものを指します。
 関係詞が代名詞、形容詞、副詞のどれに当たるのかは、関係詞によって導かれる「節の中の働き」によって区別されますが、関係詞節全体は先行詞である名詞を修飾する形容詞節です。(ただし先行詞を持たない用法では関係詞全体が名詞の働きをする。)

(a) This is the house where I was born. これが私の生まれた家だ。
(b) This is (the place) where I was born. これが私の生まれた場所だ。

(a)では「house」という先行詞(名詞)に「where I was born」という形容詞が後から修飾しています。 その形容詞節の中は「<in the house> I was born 」を表しており、<in the house>という副詞句に where が置き換わっていることから、それが副詞だと分かります。

(b)では先行詞として「 the place 」が省かれていると考えることもできますが、「 where I was born 」で名詞節になっているという解釈もできます。このような先行詞を省いて名詞節になる使い方は that ではできません。それは関係詞それ自体に「場所(where), 時間(when), 理由(why), 方法(how)」という意味の区別がないと意味が把握できないからです。

 語順に従って意味が伝えられていくという観点から言えば、関係詞も本来の疑問詞の意味を残しています。つまり

This is the house これは家だ<どんな家かというと=その家が「どこ」かといえば
where I was born. 私がそこで生まれた
(「どこ」で私が生まれたのか?という問いに答える家ということでもある)

 と「場所についての疑問」を引き出しつつそれを具体的に答えるという流れになっているわけです。

This is the reason これが理由だ<何の理由かというと
why I came here. 「なぜ」私がここに来たのか

A birthday is the day 「誕生日」というのはその日のことだ<「その日」とはどんな日かというと
when someone was born. 誰かがそのとき(日)に生まれた

 中学校などで、特に和訳にしばられた授業ばかりが展開されている(望ましくない)場合など、「関係詞があるときは『後ろから訳せ』」という非常に悪い指導がなされていることがあります。
 最終的な和訳など英文そのものの意味が分かれば自然に正しくできるのです。英文そのものを英語の語順のまま音声を通じて和訳抜きに意味を汲み取れるようになることが先決であり、最も重要な課題です。そういう実践的な技能を修得させる前に「和訳したらどうなるか、どう和訳するか」をテクニック的に教えるのは最悪と言えます。

 関係詞を含む英文はどうしても文全体が長くなりがちです。そういう長い英文をすらすらと読みこなせるためには、自然な言葉の順序にさからって目を後にやったり、また前に戻したりという「自然の理に逆らった」ことをやってはなりません。文全体を和訳したらどうなるかを最初から考えるのではなく、「その英文には何が書かれているのか」という情報そのものを語順のままに汲み取っていくのです。

 そのためには日ごろから直読直解の要領を身につけてください。
 初歩の段階では日本語の助けを借りつつ英文を理解することは仕方ないことですが、それは決して「和訳すること」ではないのです。あくまでも英文をできる限り語順に従って意味を汲み取りつつ、前後でどのような意味のつながりがあるかを把握していくべきです。それを続けることで自然と英語の言葉のつながり方が習得され、どんな順序で言葉を思い浮かべればよいのかが習慣的に体得されます。



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