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227、名詞を修飾しているかに見える副詞

 形容詞はその2つの用法として「限定用法」と「叙述用法」があり、名詞(か代名詞)にかかる修飾語としての機能と、自らが文の要素となる機能がありました。修飾語には「形容詞(の限定用法)」と「副詞」の2種類しかありません。その違いは修飾する相手の違いです。
 すなわち「名詞(か代名詞)を修飾していれば、その働きのことを形容詞」と呼び、「それ以外を修飾していれば、それを副詞」と呼ぶと考えることが一番分かりやすいと思います。

 しかし現実の用例を見ていくと、副詞なのに名詞を修飾しているように見えるものもあります。

Even a little kid could carry it up. 小さな子供にでさえもそれは持ち上げられる。
Only Tom knew the answer. トムだけがその答えを知っていた。

 これらは名詞との組み合わせになってはいますが、「名詞を修飾している」と考えるべきでないという立場を私は取っています。名詞を修飾しているのであれば、その名詞になんらかの性質や条件を加えるものであり、上記例文だと「どんな子供」、「どんなトム」を意味内容とするはずですが、そうではありません。「修飾する相手によって形容詞か副詞かを区別する」というシンプルな方針を貫くためにも「副詞が名詞を修飾する場合」などという項目は不要なのです。

evenは単語の意味を強めるために「副えられている」語であり、ある語に対して条件をつけたり説明をくわえたりしているものではありません。

「even」は形容詞としての機能も別にあり、形容詞としての意味は「平らな」とか「等分の」など明らかに名詞を修飾した意味となっています。「even a little kid」の日本語の意味として「小さな子供『でさえも』」というところからしても、「どんな子供」を表す形容詞でないことは明白でしょう。

「only」もまた使い道の広い語ですが、これが形容詞であるときは「唯一の、たった1つの」という意味。

I am only a child. 私はまだほんの子供だ。(onlyは副詞)
I am an only child.  私は一人っ子だ。(only は形容詞「ひとりだけの」)
I am the only child. 私は(あるグループの中で)唯一の子供だ。(onlyは形容詞「唯一の」)

 このように名詞と組み合わせて用いられている場合であっても、これらの副詞は「名詞の中にある形容詞的な意味合い部分」を強めていたりすると考えてください。
only は特に同じ位置でも読み方1つで文意がまるで違うこともあります。
Tom only / had 500 yen. トムだけが500円を持っていた。(他には誰も持っていなかった)
= Only Tom ....
= Tom solely ...
Tom / only had 500 yen.
トムは500円しか持っていなかった。
=Tom had only 500 yen.



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228、文の要素になっているように見える副詞

 副詞は「副える詞(ことば)」との名称が表すとおり自らが主役的に文の要素になることはないと考えてください。参考書によっては「副詞が補語になる例」をあげていますが、それらはすべて「副詞が形容詞に臨時転用されたもの」と考えれば例外はなくなります。

My father is out. 父は外出中だ。

out は副詞(「外へ、外で」)ですが、このような場合は「外にいる状態にあって」という形容詞的意味を表していると見なせばよいのです。

 またこれをSVLという第1文型の拡張型で解釈することも可能です。
 つまり
My mother is [ in the kitchen ]. と同形と考えることができ、SV+副詞(句)であり、第1文型ではあるが、省けない副詞(句)を伴っているパターンです。(詳細については「構文」の章の「基本文型」で取り上げます。)

 まあ、英文がどの文型に属しているかの判定は中学・高校の定期試験ぐらいでしか知識の活用場面はないとも言えます。無数に存在する英文を大きく5種類程度の類型におさめながら、1つの英文を覚えたことが他の英文の理解や作文に効果的に活用できるメリットは大きいのですが、どんな英文でも漏れなく5文型のいずれかに収めなければ気がすまないというのも困り者です。

 基本文型を一通り理解しつつ、現実に遭遇する多くのパターンを柔軟に吸収していくというのが一番実践的な態度と言えるでしょう。



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229、Yes/Noについて

 いろいろな副詞の中でかなり特異性の強いものといえるのが、この「Yes/No」でしょう。  今まで見てきた副詞はいずれも何らかの語や部分を修飾したり、意味的に何かを副えていたわけですが、相手の質問に対して返事として用いられている「Yes/No」は、これまでの例と比べて随分特異に感じます。動詞や形容詞、あるいは他の副詞を修飾するような使い方はありませんし、まるで感嘆詞のようにも思えるところがあります。驚きや感情を表す発語が感嘆詞ですので、その意味から言うと

Oh, yes! / Oh, no!

のような使われ方の yes/no を感嘆詞だと見なすことを否定はできないでしょう。そういう見方もあると言えます。

 しかし一般の感嘆詞に比べると「肯定・否定」という論理的意味を明確に帯びており、感嘆詞に分類しようとするとそれはそれでひっかかります。

 no については否定構文で「not any」に相当する形容詞としても用いられます。

I have no money. 私はまったくお金がない。
No students are allowed to enter here. 学生はここに1人も入ってはならない。

 しかし yes にはこれに相当する使い方がありません。「I have yes money.」とも「Yes students are allowed...」ともいいませんね。

 さて、そんなユニークな Yes/No についての最も基本的な理解の方針として、「あとに続く文の内容を先行して提示する働き」と考えてはどうでしょうか。文頭に置く独立副詞の一種と見なすこともできます。

 日本人は英語での Yes/No を単純に日本語の「はい/いいえ」に対応させがちのため、それがもとで失敗することがしばしばあります。

He is not a student, isn't he? 彼は学生じゃありませんよね?
No, he isn't.  はい、違います。
Yes, he is. いいえ、学生ですよ。

 このように否定疑問に対する答えとして Yes/No が用いられると日本語の「はい/いいえ」と対応が逆になってしまいます。「はい/いいえ」の習慣が染み付いてしまった日本人にとって、とっさに Yes/No を正しく使いこなすのは思いのほか難しいものがあります。

 それに対する対応策をお話しましょう。

 Yes/No を正しく使いこなせるようになるための訓練としての第一歩は、「まったく Yes/No を使わないで返事する」ことなんです。相手の質問形式が肯定であれ、否定であれ、yes/no を用いず、

1、文章で答えるようにする
2、文章の省略形で答えるようにする

 ということから始めます。現実の会話では冗漫なやりとりになりますが、たとえば

A: Are you a student?
B: I am a student.

A: Do you go to school by bus?
B: I don't go to school by bus.

 のように文章全体でまず答えられるようにしてください。このような答え方自体はまったく間違いではありません。ただ相手がすでに分かりきっていることまで言葉に出すという冗漫さが感じられますので、これをしっかりクリアできるようになったら

A: Are you are student?
B: I am.

A: Do you go to school by bus?
B: I don't.

 という要領で答えるようにします。これはもう全く自然な答え方であり、一生これで通しても問題ないくらいです。相手の質問形式に応じて be動詞や do/does などを適切に使い分けた答え方ができれば立派なものです。

 このように「質問に対して文形式で答える」習慣をしっかりと身につけたら、「自分が肯定文を言おうとしているときは、それに先行して Yes を、否定文を言おうとしているときは No を言えばいい」だけなんです。すなわち英語の Yes/No というのはたった1語で肯定文/否定文をあらかじめ代表する働きをします。丁寧な口調での会話なら次のようなパターンがよく観察されます。

A: Do you go to school by bus?
B: No, I don't. I don't go to school by bus, but I go to school by bicycle.

このように
1、No で回答内容が肯定か否定かをまず明確に伝える。
2、I don't という短縮文を添えることにより、No 一語だけで打ち切るぶっきらぼうな印象を和らげる。
3、さらに省略のまったくない文章を述べることで回答内容を明確に伝える。

という3段階で答えることが「丁寧でフォーマルな答え方」のフルコースです。

 言葉の丁寧さというのはどんな言語でも概ね「語数が多いほど丁寧となり、少ないほど丁寧さが下がる」といえます。すなわち、1だけで終わらせる答え方はもっともカジュアルですが丁寧さは低いものとなり、2,3と進むほどフォーマルさの度合いが上がり丁寧な言い方となります。

 日本語とはまったく言語習慣の異なる英語で、最初から Yes/No による返事をさせるのは、実は「非常に高度な要求」なんです。上記のように肯定文、否定文が正しく言えることが先決で、次にその省略文形式が言えること。そしてはじめて Yes/No を習うというのが理にかなった適切な学習順序なのです。

 それを「yes=はい、no=いいえ」と安易に対応させて「簡単な英語」だと思い込んで、間違った使い方が定着してしまったあとになり、それを矯正するのは余分な苦労を伴います。


 さてここで日本語の「はい/いいえ」についても再考してみましょう。
 日本語のネイティブとして長年生きてきながら習慣を通じて覚えた言葉だけに、日本語の質問と答えがどういうメカニズムによって行われているかを論理的に考えたことなどないと思いますので。

「はい/いいえ」で答えるタイプの質問は

「<質問内容>?」

 のパターンです。つまり文末に「疑問を表す助詞」である「」を添えるだけであり、英語のようにその場に応じた適切な助動詞を用いて語順を変えて文頭から疑問文であることを伝える方法に比べると実にシンプルです。

 この<質問内容>が肯定であろうが、否定であろうが、末尾に「か?」を添えることで文全体が疑問になります。

 そして「はい/いいえ」は、<質問内容>の「真偽」だけについて「真」なら「はい」、「偽」なら「いいえ」を対応させます。これが日本語の質問と答えのパターンです。

 この日本語式「はい/いいえ」とを完全に一致させて Yes/No が使える質問方法があります。

Is it right to say that<質問内容>? (<質問内容>ということは正しいか?)

 この形式で相手が尋ねてくれれば、質問内容が肯定だろうが、否定だろうが、それに対する返事は常に「はい=yes」、「いいえ=no」でよいのです。すなわち日本語の「か」は末尾にありながらも、英語の「Is it right to say」に相当する働きをしているのです。

(a) Is it right to say that <he is a student>?
(b) Is it right to say that <he is not a student>?

 彼が学生なら (a) に対しては Yes(はい)であり、(b) に対しては No(いいえ)が答えになります。
 彼が学生でないなら、(a) に対しては No(いいえ)であり、(b) に対しては Yes(はい)が答えになりますね。
 このように Is it right to say...? への答えとしては Yes/No が常に「はい/いいえ」に一致対応するのです。

  日本語の「はい/いいえ」は英語の Yes/No よりも「right/wrong」や「correct/incorrect」に対応する語だと考えるのがより正しいでしょう。

He is not a student, right? に対しての返事は Right/Wrong あるいは Corret/Incorrect が日本人にとっても「yes/no」で答えるよりも間違えにくいのです。

Isn't he a student?
に対しても「Right.」と答えれば「相手の考え方が正しい=彼は学生でない」であり、「Wrong.」と答えれば「彼が学生でないという考えが間違っている=彼は学生である」の意味となります。

 このように日本語と英語での質問文の形式そのものが違うため、返事の仕方もそれぞれ独自のものとなっているのです。Yes/No をとっさに正しく使えないと感じる人は、

1、文章まるごと、あるいは短縮文の形式でまず答える習慣を身につける
2、あるいは Yes/No のかわりに Right/Wrong を「はい/いいえ」として用いる

 というのがすぐに役立つ対処法です。

 Yes/Noの話題の最後にちょっと気楽になる話もしておきましょう。
 「Yesと答えるべきところでNoを、NoというべきところでYesを言ってしまう」という、疑問文の構造の差に由来する失敗をするのは何も日本人だけではありません。英語を第2公用語として、英語の通用度については東洋一と言われるフィリピンでも、同様の傾向があります。これは国語であるフィリピノ語(一般に「タガログ語」と呼ばれる言語と実態は同じ)における「はい/いいえ」の使い方がなんと任語とほぼ同じだからです。そういう国語の習慣を引きずっているため、国民全般で広く英語が通じ、インテリ層になればすばらしい英語を使うフィリピン人でも日本人と似た Yes/No の使い分けの失敗をよくやります。

 それだけではありません。なんと英語ネイティブであるアメリカ人でさえ、否定疑問文に対して、同意の意味で思わず Yes と答えてしまうことがあると、アメリカ人の口からも聞きました。このあたり、副詞 Yes/No を感覚的には間投詞のように扱ってしまう感覚が進んでいるのかも知れません。

 Yes/No をいい間違えれば、論理としては逆のことを伝えてしまうので大問題のように思えますが、現実の会話では「言葉以外」にも意味を支えている多くの要素(話の流れ、雰囲気、表情、声の調子など)があるのでほとんど誤解を招いたり、問題を起こしてしまうことはありません。ですからあまり神経質になりすぎる必要もありませんが、ここでお話した練習方法を参考に、いつでも堂々と安心して Yes/No を口にできるようになっておくに越したことはありません。



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