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274. 「構造上文型」と「意味上文型」

I saw him. SVO
I looked at him. SV+副詞句

 上の2つの文についての文型を考えると「see」は他動詞として目的語をじかに導くことができますでSVOを作っていますが、「look」は自動詞なので目的語を取ることができず「at him」という副詞句がつながっています。

 しかし物の見方をちょっと変えますと「look at」の2語で「他動詞句」を作っていると見なすことも可能です。つまり「look at」と「at」まで抱き込んでしまえば「~を見る」という「を」も意味に含むことができるといえるわけです。

 同様に

I heard the song. SVO
I listen to the song. SV+副詞句

 でも「listen to」で1かたまりの動詞なのだと見なせば、そのあとに目的語を取る「他動詞句」と考えることができます。

 単語ごとの機能を中心に考えた文型を「構造上文型」というのに対して、「自動詞+前置詞」を「他動詞句」と見なして判定した文型を「意味上文型」と言います。

 どちらか片方だけが正しいのではなく、「観点を変えてどちらの見方もできる」ようになることが大切です。

 構造上文型は、文を構成している単語1つ1つの意味や機能をつぶさに踏まえながら、なぜその表現がそういう意味を表すのかを知る上で重要な考え方です。「look at」が「~めがけて視線を向ける」という意味の組み合わせであり、「listen to」が「~へと耳を傾ける」という表現の構成要素まで掘り下げた「英語表現の発想法」を緻密に知ることができる価値があります。

 その一方で「look at」を1単語と同様に見なしてしまう意味上文型によるものの見方は、多くの単語から成り立っている文をよりシンプルで分かりやすく把握させてくれるメリットがあります。

 基本としては、まず構造上文型により、英語表現の「根拠、発想」を理解しましょう。単語ごとのどういう意味が組み合わさってどんな表現を作り出しているのかを丁寧に踏まえることは、「英語的発想」を身に付ける上で大変重要なことです。

 根拠なく「look at」は「見る」、「look for」は「探す」のように丸暗記的な覚え方は一見楽に感じるかも知れませんが、「なぜ」を理解しないままの暗記は大脳の不要な負担を強いることになり、理由のない暗記は忘れやすいものです。

 「look」単独で「視線を向ける」の意味であり、「at(~めがけて)」と組み合わされば「~めがけて視線を向ける=~の方を見る、~を意識して見る」となり、「for(~を求めて)」と組み合わされば「~を求めて視線をめぐらす=~を探す」を意味するという「なぜ」を踏まえることは「自分自身が納得してその表現を使う」ことにつながり、暗記に頼った「他人の言葉」ではなく「自分自身の言葉」として、実感を伴って英語を口にすることできるようになります。

 そういう基本を踏まえた上で、「枝葉だけに目を奪われず樹木全体を見渡す」物の見方も身に付けてください。どちらも大切なのです。

 1つの英文について構造上文型と意味上文型の両方の解釈が可能な場合、「この英文の文型は何か?」と無条件にたずねるべきではありません。もし、何の断りもなしにそういう2通りの解釈が可能な英文の文型を尋ねられたら「構造上文型としては、、、意味上文型では、、、」と両方回答せざるを得ません。

自動詞+前置詞」を他動詞句と見なせる他の例

deal with :~を扱う
get over:~を克服する
stand for:~を表す
depend on:~に依存する
laugh at:~を笑う
reply on:~を頼る

write with/on/about

 「write」は目的語を直後に置いて用いれば他動詞ですが、「ものを書く」という一般的な意味では自動詞としても用いられます。ここで注意したいのは日本語で「何か書くものありませんか?」という言い方を英語でどう表現するかです。この日本語は意味が曖昧であり、文脈によって次のいずれの場合もありうるからです。

1, Do you have something to write with?
2, Do you have something to write on?
3, Do you have something to write about?

 1は、鉛筆やボールペンなどの筆記具を求めている表現。

I wrote a letter with a pencil. (私は手紙を鉛筆書いた)

 の表現を踏まえて「write with」が「~を使って書く」の意味だとわかりますから、「somethingt to write with」は「何かそれを使って文字を書くもの=鉛筆とかペンとか」の意味だと納得されるでしょう。

 2は、すでに筆記具を持っていて、紙などの「そこに書き付けるもの」を求める表現です。こちらは

I wrote my address on a piece of paper. (私は住所を紙書いた)

 を踏まえたものです。

 3は、筆記用具はすでに持ちそろえていて、宿題の作文などを書かなければならないとき「何か文章を書くための話題」を求めている表現です。日本語なら「書くもの」ではなく「書くこと」に当たります。

I wrote about my dream in the future.(私は将来の夢 について書いた)

 上記3種類の表現は「前置詞+関係代名詞+to不定詞」による堅い表現では次のようにもいえます。
1, Do you have something with which to write?
2, Do you have something on which to write?
3, Do you have something about which to write?


 古い(それほど大昔ではありません)英語では「前置詞で文章を終わらせてはならない」という考え方があり、形式として「前置詞+関係代名詞」の組み合わせを前に置くことでそれを解決しましたが、現代英語では「自動詞+前置詞=他動詞句」として文末に置くことはなんら問題とされなくなっています。


 2語以上がまとまって1つの動詞の働きをしていると見なせる例は「自動詞+前置詞」だけではありません。

他動詞+副詞

put on (身につける)⇔ put off(外す)

She put on the ear rings that her husband bought yesterday.
彼女は夫が昨日買ったイヤリングをつけた。

 「on」は前置詞としても使われますので一見「look at」のような「自動詞+前置詞」で構成される句動詞と紛らわしく感じるかも知れませんが、「put」自体が他動詞であり、「on」は「接触した状態に」という意味を表す副詞です。

 目的語が名詞の場合は次のいずれの語順も同様に用いられます。

put the ear rings on
put on the ear ring

 本来「put」自体が他動詞ですから直後に目的語を取り、さらにそのあとで副詞が意味を補うというのが基本の語順ですが、名詞の後に置かれる副詞が名詞を飛び越えて先に現れることで熟語的に他動詞句を構成します。

 「他動詞+副詞」の構成になっている場合は「他動詞+目的語+副詞」と目的語を間に挟みこむ形でも同じ意味を表しますが、目的語が代名詞の場合に限っては常にこの形だけを用います。これは音調的な理由によるものです。

Her husband bought the ear rings for her. She put them on.

 このように「put them on」の語順となり、これを「put on them」とはしません。
 なお「on」が前置詞として用いられている場合は当然「on 代名詞」の語順もあります。

He put the kettle on the table. 彼はやかんをテーブルに置いた。

 この the table が代名詞「it」であったとしても「on it」の語順はそのままで構いません。

 「他動詞+副詞」の例としては

turn on/off スイッチをon/offにする。水道の蛇口を開く/閉める
put off 延期する
make out 理解する
cut off 切り離す
throw away 遠くに投げる、投げ捨てる
give up あきらめる
hand in 提出する
carry out 達成する
bring up 育てる

 など非常に多くのものがあります。
 複数の語が1語の動詞として機能していると見なせるもの句動詞phrazal verb)といいますが、特に3語以上の多くの語群が1語扱いできるものを群動詞group-verb)と呼ぶこともあります。群動詞の中にはそれを構成している単語ごとの意味の組み合わせとして群動詞がなぜそういう意味を表せるのかが納得しやすいものもありますし、そうでない熟語的なものも多くあります。

take advantage of :~を利用する
take care of:~の世話をする
look up to:~を尊敬する (=respect)
look down on:~を軽蔑する (=despise)

 「look up to/look down on」という比喩的な視線の上下が敬意や軽蔑を意味するのは日本語の「見上げる/見下す」に通じるものがあります。

look forward to:~を楽しみにする

 これは注意が必要。特に「~することを楽しみにする」という場合、つい「to do」というto不定詞にしがちですが、この「to」は純粋な名詞しか導きません。ですから「~すること」を導くときは「doing(動名詞)」にする必要があります。

I am looking forward to seeing you again. またお会いできる日を楽しみにしています。

 上の文などつい「to see」としたくなる誘惑がありますが、この「to」は「go to school」などの基本用法の前置詞ですから「seeing(会うこと)」という名詞純度の高い言葉しかあとにつながりません。
 to不定詞が前置詞toのあとに動詞原形がつながるのは現代英語では例外的に見えますが、実はもともと動詞の原形というのは動詞が名詞化した機能を持っていたものであり、そういう古い英語の名残として「to 原形」が今でも用いられています。しかし to不定詞 のtoはすでに前置詞としての意味合いを失って「指標」のような機能しか果たしていないため、現代英語では「to do」の形が前置詞の使い方としては例外的に見えているものです。

catch up with:~に追いつく
keep up with:~に遅れをとらない

 この「up」は「接近して」という意味の副詞(叙述形容詞に転用されていると見なすこともできます)であり、「catch up」は「今離れた(遅れた)状態にあるところから追いつく」意味。「keep up」は「今すでに遅れを取っていない状態にあるところからその状態を今後も保つ」意味です。

run short of :~が不足する
run out of :~を使い果たす

 この「run」は「ある状態に陥る」という変化を表す動作動詞ですが、「今すでに不足した状態にある」とか「今すでに使い果たした状態にある」というなら「be short/out of」と「be動詞」で表現できます。

make the best of:(不利な状況などを)最大限に活用する
make the most of:(有利な条件などを)最大限に利用する

 本来の区別としては「今ある(不利な)状況の中でもなんとか目一杯の工夫をする」などが「make the best of」であり、「今恵まれた状態にあるとき、それを最大限に利用、活用する」意味では「make the most of」という違いがあります。ただしばしばこの2つは区別なく用いられている例もあるようです。

その他の例:
make up for:~を埋め合わせる(=compensate for)
do away with:~を廃止する(=abolish)
get rid of:~を取り除く (=remove)
find fault with:~のあら捜しをする
lose sight of :~を見失う
be proud of :~を誇りに思う
take pride in :~を自慢する
take part in:~に参加する
などなど。

 句動詞、群動詞を1語の他動詞として扱うことにより文構造がシンプルに把握されますので、意味上の文型判定は実利的なメリットが大きいといえます。一方で、句動詞、群動詞の単語ごとの意味に基づく構造上文型判定は、英語表現の由来・背景を実感できるメリットがあります。


 特に関係代名詞を使った表現では、群動詞を1語の動詞と見なす言い方がよく用いられます。

That is the man (who(m)) she is taking care of.
彼女が世話をしている男というのはあの人だ。

 群動詞が熟語的な性質を強く持つほど、1語扱いされる傾向が強まり、上の例も次のように分割されることはしません。

the man / of whom she is taking care
the man / care of whom she is taking

 このように分割されない理由は、群動詞としてのまとまりよってはじめて意味が伝わるためであり、上記のように分割配置されてしまうと群動詞の熟語的な意味が理解されにくくなるためです。

 熟語性が低く、構成する単語ごとの意味の単純な組み合わせになっている場合は、分割配置も抵抗なく行われます。

the house (which) he lives in
the house in which he lives

 ですから「look at」、「look for」などは句動詞として意味を伝えているため常に連続して用いられます。

(○) What are you looking at?
(×) At what are you looking?

(○)This is the book (which) I have been looking for.
(×)This is the book for which I have been looking.

 句動詞・群動詞というのは広い意味で「live in」など単純な単語の意味の組み合わせに過ぎないものも含みますが、狭い意味では「熟語性が強く、常に連続した語群で用いられるもの」だけを指すことがあります。学習者としては特に熟語性の強い群動詞に注意して欲しいと思います。それは群動詞を構成している単語の意味の単純な組み合わせから群動詞としての特別な意味を推測しにくいからです。

 日本人学習者にとっては「call off」という熟語より「cacel」という1語の方が覚えやすいと感じるかも知れませんが、英語話者の感覚としては「すでになじみのある」 call や off という平易な単語の組み合わせによる群動詞の方が「簡単で口語的」だと感じるものなのです。熟語的群動詞は、日本人にとっては新たな暗記の負担を最初のうちはどうしても感じてしまいますが、多くの用例に触れながら一定期間がんばってそれらを克服すると英語話者と同様の感覚が持てるようになります。英語話者としてはすでに知っている「簡単な単語」の組み合わせだけで表現力が拡大できるわけであり、群動詞を1語で表現できる単語を覚えることの方が「新しい暗記」の負担を感じます。また多くの場合、群動詞で表現できることを1語の動詞で表現すると、より改まった堅い表現に感じます。(ビジネス英語などフォーマルな口調ではそれが好まれる傾向にあります。)

 学校教育では英語の基本文型についての理解を確認するため、文型判定の問題がしばしば出題されますが、そういう問題は「解釈の別れ」のない典型的な例文に限って作成されるべきであり、構造上文型と意味上文型の解釈の違いにより別の文型として判定されるような例は慎重に避けるのが適切かと思います。つまり特に「自動詞+前置詞=他動詞句」の例を無条件に「文型判定せよ」と問うべきではありません。

What are you looking for? 何を探しているのですか?

構造上文型SV (lookは自動詞。「for 名詞」は副詞句)
意味上文型SVO(「look for」で他動詞句。その後の名詞は目的語)

 このような例文について「文型は何か?」と問われれば正解が2つ存在してしまいます。設問の条件として「句動詞は他動詞と見なすこと」などと明記すれば正解はしぼれますが、それを書き添えれば答えを半分以上教えたようなものですしね。「構造上文型、意味上文型のそれぞれを判定せよ」なら緻密な文法理解を確認する問題になりますが、1つ間違えると学習者の意識を「英語が使える」という実用性を重視するものから、文法偏重に陥らせる危険性もはらんでいます。

 緻密な文法理解は、英語に対する深い実感と高い実用性を裏付ける重要な基礎ではあるのですが、学習者が正しい目的意識を失わないように試験問題の作成については十分な注意を配慮を持っていただきたいと思います。




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