★超初心者・MIDI/DTM入門講座★

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<ピッチベンドを使う>

 まずは左のイベントリストとピアノロールをご覧ください。

 音色が「Overdrive Guitar(オーバードライブギター)」となっていますが、ピアノロールではただC4(ド)の音が4分音符で8つ、2小節に渡って並んでいるだけですね。これを再生するとどんな音になるかまず頭の中で想像してみてください。

 上のMIDIデータです。再生して「想像通り」の音か確かめてみましょう。

  このMIDIデータ(右クリックからDL:SMF/6.45 Kbytes)

 さてどうでしたか?「あれ?全部同じ『ド』のはずなのに音程が変化してる」と思いましたか。
 最初のイベントリストやピアノロールでは「まだ見えていない」情報があるんです。

 ほんとうはピアノロールの下にこういう情報が出ていたのです。
 なにやら曲線的なグラフが4つずつ違う形で見えますね。そしてプルダウンメニューには「130 Pitch Bend」とあります。

 「同じC4(ド)の音が8つ並んでいるだけ」なのにこの「ピッチベンド」というものを編集してあるために最初の1小節は音程が上に変化し、2小節目では音程が下に変化していたわけです。

 ピアノロールの下のウインドウにはこれまで「Velocity(ベロシティ)」という音の強さが出ていましたね。それを編集すると音符ごとに音の強弱をつけられました。
 MIDIでは「Velocity」以外にも色々音の状態を表す情報があり、その1つに「Pitch Bend(ピッチベンド)」というものがあります。「ピッチ」とは「音の高さ」であり「ベンド」とは「曲げる」ですがここでは「変化させる」という意味です。

 楽譜(ピアノロール)上に見える音と実際に聞こえてくる音を違う音程にするのがピッチベンドで、音が鳴っている間に連続的に音程を変化させることができます。それも半音刻みとかだけでなく、半音の半音、そのまた半分のような微妙で中途半端な音程変化を自由に与えられます。

 イベントリストの中に「ベンド幅」という項目がありますね。Domino を開いたばかりのとき「12」となっているかと思いますが、これをダブルクリックしてください。

 すると「コントロールチェンジ」のプロパティ」というウィンドウが開きます。

 「楽器(音色)」を切り替えたときは「プログラムチェンジ」の画面が出たのを覚えてますか。MIDIの用語として「楽器・音色」は「プログラム」であり、音の「位置、音程、長さ」以外の「音量変化、音程変化」など様々な「楽譜には現れない」情報を「コントロールチェンジ」といいます。

 ピッチベンドを使うにはあらかじめ「ベンド幅」を設定しておきます。
 「ベンド幅」とは「ピッチベンド」の信号をシーケンサから音源に送ったとき「どの程度の幅で音程を変化させるか」の「感度」の調節をするもので、目一杯最大の値にしたとき「0から48個分の半音(=2オクターブ)」まで音程変化を設定できます。

 この「ベンド幅」は使用する楽器やフレーズによって適切な値がことなります。
 フレットレスベースなどでは1オクターブも無段階(なめらか)に音程が変化するフレーズがありますが、ピアノではそのような音程変化は構造的にありません。

 では実際にピッチベンドを使ってみましょう。
 「CH01」を選び「音色(楽器)=PC」を「ベース」の中の「Fletless Bass(フレットレスベース)」に変更してください。そして上の図にあったイベントリストの「ベンド幅」が「12」であることを確認します。(もし変更していたら12に設定してください)

 そして「2 Start」の1小節に「全音符」を書き入れます。どの高さの音でも構わないのですが、ここではベースギターの音が1オクターブなめらかに上がる様子を表現しますのでC1としましょう。

 1小節目一杯の長さが本当の全音符ですが、クオンタイズボタンをオフにして音の終わりをちょっとだけ前にずらし短くします。

 そしてピアノロール下の初期状態で「Velocity」の棒グラフが表示される箇所(コントロールチェンジ編集ウインドウ)のプルダウンメニューを「130 Pitch Bend」に変更します。プルダウンメニューの2つ右にある「凸型アイコン」を押すだけでもその状態になります。(アイコンの上にカーソルをしばらくかざすとアイコンの意味が表示されますので「Pitch Bend」と出てくることを確認してください)

 ピッチベンド編集の状態になったら選択ツールに切り替え(鉛筆ツールの状態で右ダブルクリックするだけでも切り替わります)、ピアノロールの全音符の最初の1拍分の長さの範囲をピッチベンド編集ウインドウの中でドラッグすることで選択状態にします。

 左図ではすでに編集後の様子になってしまっていますが、これは気にしないでください。赤丸のボタン「選択範囲へ直線・曲線を入力」を押してください。

 すると左の画面が開きます。
 開いたばかりのときは0から0へ水平な線になっていると思いますが、右の三角を一番上までスライドさせてください。
 この画面は選択範囲にある音程の変化をグラフで編集するもので、左図右上の赤丸は最大値で「8191」となりますが、同じ最大値でも音程変化の幅は最初に設定した「ベンド幅」の数値によってことなります。今は「12(=1オクターブ)」と設定されていますから最大値で音程変化の幅は1オクターブとなります。

 右下の赤丸の中は今はそのままで構いませんが、「直線」を選んだ状態になっています。
 OKを押してウインドウを閉じます。

 ピッチベンド編集ウィンドウでは選択範囲の中で左図のように青い線が右上がりに変わっています。
 そして最大値の8191のまま右方向に続いています。つまりピッチが1オクターブ「上がったまま」になっているということで、このまま別の音符を入力すると譜面(ピアノロール)に現れる音よりもすべて1オクターブ高い音になってしまいます。

 ピッチベンドをある音符に適用したときは忘れずに「リセット」をしてください。
 つまり変更されたままになっているピッチベンドの数値を「0」に戻しておきます。
 最初全音符を書き込んだとき音符の末尾を少しだけ短くしましたね。これはあがりきったピッチベンドを次の小節に入る前にリセットする隙間を作ったものです。

 次の小節の冒頭部分を鉛筆ツール(選択ツールを右ダブルクリックでまた鉛筆ツールに切り替わります)で0の位置をクリックします。しかし鉛筆ツールのクリックでは正確に0にならないのでイベントリストを見て「Pitch Bend」の一番最後の数字が0以外のときは手入力で0にしてください。

 ピッチベンドをリセットするタイミングは前の音が鳴り終わってからです。しばらく次の音が続かないときは前の音がなり終わってから次の音が鳴り出すまでならどこでもよいのですが、前の音が鳴り終わって直後にリセットしておくのが一番無難です。少なくとも前の音が鳴っている最中リセットすると音がそこで下がって聞こえてしまいますので注意してください。

 上記編集の結果
  MIDIデータ(SMF/6.11 Kbytes)

 今の編集の結果上のMIDIファイルのようになったはずです。「ボン」とベースを弾いてからズルーとフレットで指をスライドさせ音を1オクターブ引き上げている様子がわかりますね。

 ベースの音色でもう1つ別の例を作ってみましょう。

 上の図のように音色を別のベース「Fingered Bass(フィンガード・ベース)」に変更します。ピッチベンド幅12(1オクターブ)のままです。

 さきほどは「1回だけ弾いた音が、弾いてから上昇する」様子を作りましたが今度は2回弾きます。1回弦を弾いたらぐーんと音が上がっていき、1オクターブ上がったところでもう一度音を鳴らします。
 さきほどの1回だけ音を鳴らして音程を上昇させるものを「スライド奏法」、一方こちらの「1回弾いて音程を上昇させ、あがりきった音をまた弾く」ものを「グリッサンド」といいます。

 1小節目が Domino の解説ページの設定に忠実にしたがっていると「8分の1拍子」で短いものになっていますので、一旦「4分の4拍子」に戻すか、2小節目の終わりから入力を始めてください。音符は「1オクターブ」の差でさえあればどこでも構いませんがベースギターらしい音の高さを選びましょう。

 このままピッチベンドの編集をせずに再生してみるとただ「ボン、ボン」と音程の違う音が2つ聞こえるだけです。
 それでは1つ目の音の中で2つ目の音につながる音程変化をピッチベンドで表現しましょう。

 2つのNOTE(音符)を書き込んだらクオンタイズをOFFにして編集の微調整ができるようにします。
 それから1つ目の音の末尾を少しだけ前に詰めて「ピッチベンドのリセット」をする隙間を造ります。

 1つ目の音の長さをピッチベンド編集ウィンドウの中で選択範囲とします。
 選択範囲がないときはさきほどの「選択範囲へ直線・曲線を入力」のボタンは押せない状態になっていますが、選択範囲を作ると押せるようになりますので、押してください。

 先ほどと同様に「左0から右最大の8191」となるように調整します。

 なおウィンドウ左下に「Step」という項目があり今48になっていますね。
 そしてグラフの階段を数えて見ると0を1段目として10段で最大に達しています。これは1オクターブを10に区切った音程変化をするという意味でStep」の値が大きくなるほど階段も粗くなり、値が小さいほど階段の段差が小さくなるためより直線に近くなりスムーズな変化となります

 フレットレスベースのような音程変化の途中で中途半端な音の高さを無段階に通過する場合はこの「Step」の値を下げてやるとよりリアルになります。しかし同時に短い時間により多くのピッチベンド情報が発生するためデータは大きくなります。

 フレットのあるベースやギターでのスライド、グリッサンドの表現では本当は「半音刻み」の音程変化をしますので「Step」を「42〜43」程度にして階段の段数が12(1オクターブは12半音)にするのがもっとも現実を踏まえた編集といえます。

 このままではピッチが1オクターブ上がったままなので次の小節の冒頭、次の音が鳴り出す前にピッチベンドを0にリセットします。最初鉛筆ツールで0(付近)をクリックしてからイベントリストで0を数値入力してください。




 その際、リセットが次の音符の前にあることを確認してください。左図では前の音符のピッチベンドが最大値になったあと、かつ次の音の前に「0」のリセットがあることが確認できます。

 こうして編集された結果が次の音です。
  MIDIデータ(SMF/6.12 Kbytes)


(ギターをシミュレートすることの難しさ)

 通常MIDI入力に用いる外部機材としてはMIDIキーボードが一般的ですが、MIDI信号さえ送信できればどんな楽器でも打ち込みは可能です。
 MIDIギターというものも存在し、ギターでありながらMidiコントローラとしてMIDI信号をシーケンサや音源に送ることができるものもあります。
 私は鍵盤楽器が苦手でギターなら多少の心得があったため、昔そのMIDIギターを購入(普通のギターにアタッチメントを取り付けるタイプ)して使ってみました。
 音源をピアノにすればギターで弾いた音がピアノの音になってスピーカーから出てくる。ドラムセットにチャンネルを合わせれば弦を弾いてドラム演奏ができるという大変面白いものだったのですが、試しにギターそのもののフレーズを演奏して打ち込んでみました。

 そしてイベントリストを見て仰天しました。
 そこには膨大な数の「Pitch Bend」信号が記録されておりわずか10秒程度のフレーズでもイベントリストは何百行に渡ってピッチベンドが書き込まれていたのです。つまりギターという楽器は常に「音程の揺れ」を発しており、ほとんど「正確な音程」を出している瞬間がないといってよいほど常に音程がこまかくゆれているのです。
 逆に言えば、そういう「人間の演奏によるギターらしさ」をとことん追求してMIDIデータに表すとしたら膨大な数のピッチベンドを細かく打ち込んでいくことになりますが、これはとんでもない手間であり同時にデータとしてあまりに大きくなりすぎます。
 ですから「聴感上違和感のない程度」に多少の妥協をして「ギターらしさ」を表現するというのが現実的でしょう。
 MIDIの打ち込みにおいてギターほど難しいものはないと前に申し上げましたが、それはこのようなギターのメカニズムによるものなのです。

 左図はギターのフレットを指で押さえている様子を横からみたところです。
 ギターはご存知の通り、張られた弦を弾くことで振動させ、その振動をボディや機械的な仕組みで拡大して音にしますが、指でどこかのフレットを押さえた場合、
1、抑えた直後はびりつきのない確実な音を出そうとして指の圧力が高くなり、結果として弦に余分な緊張を与えるため本来出るべき音よりも高めの音がでます。
2、そしてその指の圧力が落ち着くと音程が本来の正しいものに一旦なりますが、ギタリストは半ば無意識に指の圧力を増減し続けるため弦の発する音程は微妙に上下し続け、それが細かいビブラートとなり「ギターらしい」音を生み出します。
3、特にリードギターでメロディを奏でる場合、弦をフレットと垂直方向に故意に引っ張ったりして音の揺れ幅を大きくし表現力を高めることが多くなります。

 チョーキングと呼ばれる奏法では弦を強くフレットの垂直方向に押し上げることで最大で半音2つからそれ以上の音にまで無段階に引き上げることができます。

 このような音程変化をシミュレートする上でピッチベンドは不可欠なものとなります。

 ギターの打ち込みにおいては今述べました通り、実に複雑で細かい音程変化をいかに「忠実に」かつ「余分なデータを抑えて」打ち込むかの板ばさみとなります。たった1つの音の編集に何時間もかかることさえあります。音符だけに捕らわれず何度も繰り返し再生してみて「自分の耳」を頼りに「ギターらしい」音の揺れを根気よくピッチベンドにこめて表現していきます。
 イベントリストに手入力で様々な数値を試行錯誤で入力してはまた変更してなどということは珍しくありません。
 特にソロギターのパートなどではしっかりとデータを作りこむことで曲の表現力が飛躍的に向上しますが、他の楽器と重なって鳴っている伴奏部分までこだわりすぎても「無駄な手間」になることがあります。
 プロはしばしば「聴こえないはずの音」にまでこだわりますが、急所を押さえた編集を最低限行っていくようにすればよいでしょう。

 ただ1つ言えるのは「実はMIDIの打ち込みなのに人に聞かせたとき『ギターは生演奏の録音だね』」と勘違いしてもらったときの嬉しさは非常に大きなものがあり、多くの時間と手間が報いられた気がするものです。



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