前回のピッチベンドに続いて新たなコントロールチェンジとして「エクスプレッション(Expression)」を覚えましょう。
左の図では「PC:Strings」と楽器(音色)を「アンサンブル>ストリングス」としました。ストリングスやオルガンのような音の持続性のある楽器の方がエクスプレッションを理解するサンプルとしては適しているからです。
イベントリストの初期状態として「Volume=100」、「Expression=127」となっているのが分かります。
以前にも少しだけ触れましたが、「Volume, Velocity, Expression」はどれも「音量」に関係するものですが使い道、意味が少しずつ異なります。
「Volume」はそのパート(Ch, トラック)の「最大音量」を決めるもので、それに対して Expressionは「設定されたVolumeの最大音量を127」としてどれだけの音を出すかを相対的に表すものです。
そして何よりも大きな違いは「Expressionは音量の時間的変化を表現できる」ということなのです。
たとえばテレビで音楽番組を聴いていると想像してください。
テレビの音量を上げたり下げたりするには「Volume」を調整しますね。そしてその調整されたVolumeの「範囲内」で流れる音楽には強弱があります。大きなボリュームで聞いていれば大きな音は非常に大きく、しかし弱くやさしく演奏される箇所は小さな音量になります。小さなボリュームにしているときは、どんなに大きな音の演奏でも最大Volumeで設定した音よりは大きくなりません。そして弱くやさしく演奏されるときは相対的にさらに小さな音に聴こえます。
これがMIDIの「Volume」と「Expression」の関係と同じです。
左上下の1,2はどちらも先ほどの「Strings(ストリングス)」の音色を使い、曲のスタートから2小節に渡り同じ音が鳴り続けています。全音符2つ分の「タイ」ですね。
1は Expression未編集です。何もグラフのようなものがないかに見えますが、初期状態で Expressionは設定された Volumeの最大値を出すようになっており、よく見ると一番上の127の位置に青い線が真横に伸びています。これが Expressionを表しています。
下の2は Expressionを編集した例です。
「32」という小さな数字から始まり2拍目と3拍目の中間あたりで最大の「127(=Volume 100)」になり、その後また小節の終わりに向けて音量が下がっていきます。弱い音量になったまま次の小節に入り今度はまた違った音量の変化をしています。
1小節目の直線的音量の増減と2小節目のカーブを描いた場合とでどう聴こえ方が違うかを実際に聞き比べてみてください。
上図(1):Expression未編集のデータ
上図(2)Expressionを編集した例
直線的上下とカーブの場合の違いは短いフレーズでは微妙だと思いますが少なくとも(2)のデータでは確かに音量の変化があることが分かりますね。これが「Expression」というものです。
ドラムセットの打楽器や特質上短時間しか音が保持されない楽器については Expressionの効果はあまりありません。
しかし現実の演奏の中でもたとえば Electric guitar にボリュームペダルを用いて「ピッキング直後」の音量を小さく、そしてピッキングしたあとで急速にボリュームを上げてまた下げる、のような奏法もあり、これを「バイオリン奏法」と呼ぶように「立ち上がりの音量」が小さく、それから徐々に音量を上げるストリングス系の打ち込みでは効果絶大です。
「音の持続性」がある楽器ほど Expression の編集が効果的で、かつ必要です。そのような楽器で Expression の手抜きをすると「いかにも打ち込み」という印象を強く与え、音量調整の聞かないオモチャのキーボードの演奏みたいなチープな聴こえとなります。(そういう効果を狙うならいいのですが)
用意された楽器の中には「Slow Strings」のように何もしなくても音の立ち上がりが遅い音色もありますが、そういう場合でも Gate time が長くなってきたら Expressionによる音量変化の編集をしなければなりません。
練習としてストリングスやオルガン、管楽器の音色を使い、1つの音符だけ長くならした状態で様々なエクスプレッションを適用してみて、聴こえの違いを研究してみてください。
Dominoには大変優れた「Expression編集機能」が備わっています。
左の図のように、まず Expression編集をしたい範囲を決め、それから「直線」、「曲線(ゆっくり変化)」、「曲線(急激に変化)」のボタンを押して最初と最後のポイントを結ぶと自動的にそれぞれのタイプの Expression 変化が描かれます。それは即座にイベントリストにも反映され多くのデータが追加されます。
なお Expression も前の Pitch Bend 同様、編集の末尾の状態がそのまま保持されますので、ある音をフェードアウトして聴こえない状態にしてしまったまま別のNOTE(音符)を書き込んでも「音が出ない」ということになりますのでそんなときは焦らずに Expressionを確認してください。(よくあることなんです)