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312. 原級比較

 形容詞、副詞の原級positive form)を使った比較表現は、2つの対象について程度が「同じ」であることを表現するのが基本となります。

 肯定文で表現すれば「同じ」であることを意味しますが、否定にすれば「同じではない=片方がもう片方に及んでいない」意味となります。

 さらに片方の程度を2倍や3倍などにしたものと同等であると表現すると「倍数比較」になります。



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313. 同等比較

 厳密な論理としては「全く同じ」であることを意味しますが通常は「同じくらい」という大まかな意味に使われます。

This bag is as heavy as that one. このカバンはあのカバンと同じ(くらいの)重さだ。

She runs as fast as he does. 彼女は彼と同じくらい速く走ることができる。

 この構文には2つのasが用いられますが、最初に現れる as副詞で「同じくらい」の意味を表し、後の as は「~と(同じくらい)」を意味する接続詞です。

 つまり語順に沿って考えると次のように意味が伝達されているわけです。

This bag is as heavy このカバンは「同じくらい」重い
<聞き手は「何と同じくらい?」という疑問を感じます。その疑問に答えるのが後に続く部分です。

as that one (is (heavy)). あのカバンが重いのと同じくらいに

 最初の as が現れた時点で「何と比べているかはあとから言いますからね」という合図が送られており、それと呼応して後の as 以下が現れます。すなわち2つの as が意味的な関連性を持ってセットで使われていると理解してください。
 このように別々の位置に配置された2つの語について、前の語が示す漠然とした意味を後の語によって具体化する流れになっているわけですが、こういう関係にある2つの語が果たしている機能を「相関接続」といいます。

 もし最初に現れる asvery だったら

This bag is very heavy.このカバンはとても重い。

 であり、具体的な比較対象を示すことなく「カバンとしての常識的な重さ」に対しての一般比較を表すことになりますが、何か具体的な対象物と比較していることを示すために veryas に置き換わってるわけです。つまり1つ目の as は品詞機能としては very と同じということ。だから副詞なわけですね。

 1つ目の as が「何かと比べて同じ」であることを伝えますが、何と比べているかはその時点ではまだ分かりません。「as ~ as ....」の構文というのは情報の順序として「同じくらい~だ。.....と比べて。」という流れを持ってます。

 後の as接続詞であり、省略のない形で表現した場合、「SV」をそろえたが現れます。しかしそれまでに伝えられている内容から判断して同じことの繰り返しになるような部分は省略され、必要な情報だけが as のあとに残される結果、単語しか示されないこともあります。それでもこの構文の as接続詞であり前置詞ではありません。(asにも前置詞としての使い方がありますが、それは「~として」など別の意味、用法での場合です。)

 asのあとには「省略結果」が続くので何を元に省略したのかによって次のような違いもありえます。

1, He loves you as much as (he loves) me.
2, He loves you as much as I (love you).

 「彼は私と同じくらいあなたのことを愛している」という和訳は意味が曖昧であり、「私と同じくらい」が「as me」であれば「as he loves me」の「he loves」が省略された結果であり、「彼はあなたを愛している。彼は私のことも愛している。その2つの程度は同じだ」ということ。
 一方「as I」は「as I love you」の省略結果ですから「彼はあなたを愛している。私もあなたを愛している。その2つの程度は同じだ」の意味です。

 このように as の後が何を省略した結果であるかによって大きく意味が変わってくる場合もありますが、通常は解釈で迷いや誤解が生じないように接続詞 asの後は「省略しすぎない」ように配慮されます。

 1ならまったく省略せず「as he loves me」まで言っても冗漫ではなく、むしろ「he loves you」と「he loves me」という2つの事実を対照的に明確に示すことでより文意が分かりやすくなります。

 2の場合は代動詞 do を使って「as I do」とするのが普通です。この do は「そうする、そうである」という意味であり「love you」の繰り返しを避けたものです。この代動詞が置かれるだけで文構造が非常に明確になり不要な誤解を避けることができます

 これまで説明した「as~as...」は比較対象を言葉に出さなければ相手が理解できない場合の表現ですが、文脈・前後関係からすでに何と比較して物を言っているのかが明確な場合は接続詞のas以下をすっかり省略しても構いません。

He runs fast, but I can run as fast (as he does).
彼は足が速い。でも私だって(彼と)同じくらい速く走れる。

 接続詞 as以下の省略については、何と比べているかに関して、文意に誤解や曖昧さが生じない限り、必要最低限の情報さえ残しておけばよいのですが、比較対象によっては、「何を省略するか」、「どこまで省略が許されるか」は様々です。

I cannot run as fast as (I could run) before.(副詞だけが残った例)
私は以前ほど速くは走れない。

She is as intelligent as (she is) beautiful.(形容詞補語だけを残した例)
彼女はその美しさと同等に知的である。

This is not as/so delicious as it looks.(「現実」と「見かけ」の比較)
これは見た目ほど美味しくない。

 ここで同等比較否定文が出てきました。
 否定文では、これまで同様「as ~ as ...」のままでも構いませんが、1つ目の副詞 as の代わりに「so(それほど)」が好まれる傾向があります。これは意味から考えれば不思議なことではないでしょう。

 なお so は肯定文にも用いられますが、その場合「so ~ as...」の構文ではなく単独で「very」の意味になります。それでも「so」が本来も「それほどに」の意味は生きており、何か比較対象が心のどこかで意識されているといえます。

Thank you very much.
Thank you so much.

 現実にこの2つはまったく同様に用いられますが、veryの代わりに soを用いるのは特に女性に多く見られる傾向です。しかし日本語ほど男性言葉と女性言葉が文字の上ではっきり区別されていませんので、男性がveryの代わりにsoを使ったからといって特別な違和感(男性が女性言葉を使っているというような)はありません。

 また同等比較の否定文では、2つの対象の程度が「同じではない」というだけでなく常に前者の方が劣っている意味を表します

This bridge is not as/so long as that.

 といえば必ず「this bridge」の方が「that (bridge)」より短いという意味です。最初の否定部分「not as/so」ですでに「それほどではない」の意味を伝えています。

 なお「as ~ as ...」の構文に用いられる形容詞や副詞が表す意味については少々注意すべき点もあります。

He is old.

とだけ言えば「彼は年を取っている(老人である)」の意味に聞こえますが、

He is as old as I (am).

 はただ単に彼と私が同じ年齢であるというだけの意味であり、彼と私の両方とも若くても構いません。これは

He is three years old.

 という場合の「old」が「年老いている」の意味ではなく単に「ある年齢である」の意味であるのと同じです。同様に heavy, long, tall, fast などが単独では「常識との比較」で積極的評価の意味であっても、「as ~ as ...」の構文では単に「重さがある、長さがある、身長がある、速さがある」という意味でしかない使われ方をすることが多いので注意が必要です。

 しかし、それでもそれら形容詞や副詞の単独での意味に積極的評価を感じてしまうことに抵抗を感じることがあります。

He is as tall as I (am).

 これは2人の身長が同じであることしか意味しないのですが、2人とも「背が低い」ことを特に伝えたい場合

He is as short as I (am).

 と表現されることもあります。他の形容詞や副詞も同様に「程度の低さ」を比較していることを明確にしたいときは「heavy」を「light」に、「fast」を「slow, slowly」にしたりすることもあります。

 ちなみに年齢を尋ねる表現として

How old are you?

 がありますが、これも時に「old」という語に「年寄りである」という積極的評価を感じてしまうことから、わざと

How young are you?

 という言い回しで相手の年齢を尋ねることがあります。
 年齢を尋ねる表現としては「May I ask your age?」のような言い方の方がより一般的で丁寧なのですが、カジュアルな会話の中で、それもチャットルームのような相手の顔が見えず年齢の想像もつかない場面で、「堅苦しくなりすぎず、それでいて失礼にならないように」という気持ちから、この「How young are you?」という尋ね方をしている場面を私自身何度も見ています。

 さて「as ~ as ...」に話を戻しますが、2つの対象について程度を比較するとき、どういう形容詞や副詞を用いるかは「何を特に評価するか」で選択されます。

 2人の年齢をただ比較しているなら「old」でよいのですが、「2人とも若い」という事実を前に出して物を言う場合、

She is as young as he is.

 というのはなんら不自然ではありません。

This bag is as light as that one.
あのカバンも軽いが、このカバンも負けないくらい軽い。

 この表現など、単に「カバンの重量」を客観的に比較しているのではなく、「軽さ」に評価の重点を置いて比較しているわけです。

 比較というのは常に「基準」があってなされます。その基準が「0」をスタートにしていることもあれば「常識的に普通だとされる一定の数量」が基準になることもあります。

 単に年齢を意味するだけの「old」は「0歳」を基準にしているといえますが、2人の老人について「どちらがより老人と言えるか」の比較であることもありえます。

Tom is as old as John (is).

 この文は文脈によって、
1、トムとジョンは同じ(くらいの)年齢だ。
2、ジョンはかなりの年齢(老人)だが、トムも同じくらい老人だ。

のどちらでもありえます。
 1は「0歳」を基準にした一般的な年齢表現ですが、2は文脈によって設定された「まだ老人とは感じられない年齢」が基準になっているといえます。

 このようにいかなる英文であっても文脈・前後関係を踏まえないと正確な意味の解釈はできないということを忘れないでください。
 よく「この英文の意味はなんですか?(和訳してください)」の類のまったく前後関係を示さない質問を見かけますが、そういう質問に対して回答する側は様々な場面設定を想定せねばならず、「もしもこういう文脈だとしたら、、」と、いくつもの回答例を示さなければならなくなります。英文の意味を質問する場合、最低限の文脈を添えることを決して忘れないでください。もしそれが特に前後関係の示されていない切り離された例文である場合や、文法問題として単独で出された文であるなら、そういう情報を添えることが大切です。



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314. 倍数表現

 数量的に把握される形容詞の場合、数量詞を前に置くことで具体的な表現になることはすでに理解されていることと思います。

He is nineteen years old.
He is 180 centimeters tall.
This rope is 5 meters long.
This bag is 10 kilograms heavy.

 これらの表現で数量詞部分は、名詞でありながら形容詞の意味に具体性を持たせる副詞として機能しています(「副詞的対格」と呼ばれる)。

 この表現の延長として、「何かを何倍かすると同じになる」という意味を「as ~ as ....」で表現することができます。これは形式として

数詞 times as ~ as .....

 と表現されます。

This bag is twice as heavy as that one.
このカバンはあのカバンの2倍の重さだ。

 twice は「two times」の一般的な言い方で、「two times」と言うことも間違いではありません。「one time」なら「once」、「two times」なら「twice」という1語で言う方が日常的にはより普通となっていますが、「3倍」の意味では「thrice」を使うよりも「three times」の方が普通です。

 数量詞の部分には単純な整数倍だけでなく、「120%」のようなパーセント表現も可能ですし、分数表現half(半分)などが来ても構いません。

My income of this year is 150% as much as I earned last year.
私の今年の年収は去年稼いだ額の1.5倍だ。

My luggage is only half as heavy as yours.
My luggage is only 50% as heavy as yours.

私の荷物はあなたの荷物の半分の重さしかない。
<「half/50%」を「one third」にすれば「3分の1」の重さになります。

 倍数表現はもちろん副詞の比較にも用いられます。

This car runs three times as fast as that one.
この車はあの車の3倍の速さで走る。

 なお後で述べる比較級による表現でも倍数を表すことができます。

Your bag is three times heavier than mine.
君のカバンは私のカバンの3倍の重さだ。

 

※実はこの「比較級による倍数表現」は論理的に問題があります。

Your bag is 500 grams heavier than mine.
=Your bag is heavier than mine by 500 grams.

君のカバンは私のカバンより500グラム重い。

 このように比較級の前には本来「差分」を現す数量詞が置かれるのが適切な使い方です。その差分である「500 grams」の位置に「three times」を置くというのは「重さの差が本体重量の3倍分」という意味を表すことになるべきところですよね?
 もし物体Bの本体が300グラムだとしましょう。

A is three times heavier than B.

という英文でAの重さは何グラムでしょう?

1、現実に用いられている意味
AはBの3倍の重さだ。
→A=300g, B=900g

2、構造的な論理を踏まえて考えた場合
AとBの重さの差はBの3倍だ。
→A=300g, B=1200g ( 1200-300=900=300x3)

 文構造から純粋に考えると2の計算結果が正しいはずなのですが、実際には1の意味を表します。このように厳密な論理に照らして考えますと「比較級で倍数を表現」するべきではないのです。
 こういう表現形式の矛盾点について英語ネイティブの意見を聞いたところ、ほとんど誰もが「英語は論理的な言語じゃないから」という、なんとも開き直った回答が返ってきました。

 でもそうなのです。よく「日本語より英語の方が論理的だ」などという人がいますが、上記例を見てもわかる通り、思いのほか英語にも論理的欠陥はあるのです。そういう問題はどんな言語にもそれなりに見られるものであり、言語そのものに論理的だとか論理的じゃないという違いはないのです。論理的であるかどうかは、「それをどう使いこなすか」という人間の側にあります

 論理性に問題があるにも関わらず、比較級による倍数表現は特に口語で普通に聞かれます。習慣的に定着した表現ですので、人がこの言い回しを使うことを責めることはできませんが、論理性を重んじて倍数を伝えたいのであれば、「数量詞 as ~ as ...」の方が傷のない表現だと私は感じています。

 

 また倍数表現で特に注意していただきたいのは次のような場合です。

He has three times as many books as I have.
彼は私が持っている3倍も多くの本を持っている。

 なぜこの種類の言い方に注意が必要かと言いますと、日本語では「多く持っている」というふうに「多く」を副詞的に用いるのが普通ですが、英語では「多くの~を持つ」と、many は形容詞としてのみ用いられます。

I have many books とは言いますが、
I have books many. とは言えません。

 ですから

(×)He has books (three times) as many as I have.

 というふうに「many」を副詞として用いることは間違いです。(これが実によく見かける間違いなのです。日本語を先に思い浮かべて、そこから言葉の置き換えで直訳する習慣があるとこの間違いをついやってしまいます。)

 much については、それが副詞として用いらている場合と形容詞になっている場合がありますので、迷ったら基本形から考え直してみるとよいでしょう。

He drinks much beer. (muchは「多くの量の」という形容詞
He drinks twice as much beer as I do.

<日本語では「ビールを2倍飲む」と副詞的に言いますが、英語では「2倍の量のビールを飲む」とあくまでも形容詞としてmuchを使います。

I love you very much. (muchは「大いに」の意味の副詞
I hove you as much as he loves you.

 なお「寸法、重量」を表す表現では「as ~ as ...」や比較級も使わないで倍数を表す方法があります。これは形容詞表現にに対応する名詞形を持つ表現がある場合に限られます。

表現形式としては
<倍数+名詞 of >
となります。

old→年齢age
tall/high→高さheight
heavy→重さweight
long→長さlength
wide→幅width
deep→深さdepth

Your bag is twice the weight of mine.
=Your bag is twice as heavy as mine.
=Your bag is twice heavier than mine.

Your room is three times the size of mine.
=Your room is three times as large as mine.
=Your room is three times larger than mine.




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