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310. 比較(Comparison)

 2つ以上の対象について、何らかの程度や状態などの優劣や順位を表現するのが「比較構文」です。比較で直接問題となるのは形容詞副詞ですが、文全体として注意を払わなければならないポイントが沢山あります。

 理解の順序としては、形容詞、副詞の「原級(positive form)、比較級(comperative form)、最上級(superlative form)」という3種類の表現方法を知ることから始まり、簡単な例文によって「同じくらい、、、だ」、「より~だ」、「一番~だ」という表現方法を理解し使いこなせるようになることがもっとも基本となります。その基礎理解の上に様々な比較構文を習得していくことになります。これが実に種類が多いのです。ですからこの「比較」の章は少々項目数も多くなることをあらかじめ了解してください。

 ある形容詞や副詞を使う場合、特に比較構文が用いられていなくても、実は背景的に「常識的尺度」との比較が行われていることが非常に多くあります。

 たとえば「大きい(big)」という形容詞が用いられたとき、話者の気持ちの中では無意識にでも「平均的、常識的大きさ」がまず基準として思い浮かべられており、「それと比べて」大きいという比較が隠れているといえるのです。

Your dog is big. 君の犬は大きいね。

 このようにどこにも比較がないように見える文であっても、様々な大きさの犬がいる中で、普通に「犬」と聞いて(話者の脳裏に)思い浮かぶ大きさとの比較がなされているわけです。

He runs fast. 彼は足が速い

 これにしても人が走る速さの平均や常識を基準にしています。
 つまりある形容詞や副詞について「様々な程度、段階」が存在する場合、最初から「暗黙の基準」との比較がなされており、形容詞や副詞は単独でも「相対的な意味」を表していることが多いということに気づいてください。

 その一方で、何かの基準と比較しているのではなく、ある「絶対的な状態」を伝える言葉があります。典型的な例としては「only(唯一の)」があります。

I am the only Japanese in the team. チームで私がただ一人の日本人だ。

 この形容詞「only」は比較対象がまったくありません。「何かに比べるとより『唯一だ』」とは言えないことがお分かりかと思います。このように程度や段階を持たないタイプの形容詞や副詞は、比較級や最上級もありません

 しかしここで注意していただきたいのは、「この形容詞は比較級や最上級がない」という機械的な覚え方はやはり危険だということです。only などはさすがにどのように使われても比較級にして使う場面がありませんが、上の例文の「Japanese」を形容詞として用いた場合、「日本の」という意味では比較級、最上級はありえませんが、日本的な」という意味なら程度や段階を感じることができますので、比較級、最上級による表現もあるわけです。

Bob is an American, but he eats 'natto' every morning, wears 'yukata' in the evening, and is an expert of judo, karate, kendo, shodo, even sado and kado. He is more Japanese than I am.
ボブはアメリカ人だ。でも毎朝納豆を食べ、夕方には浴衣を着用する。さらに柔道、剣道、空手、書道、だけでなく茶道や華道の達人なのだ。彼は私より日本的だ

 このように「形容詞や副詞は比較変化する」と一般化することもできません。決まった形容詞や副詞について「これは絶対に比較変化しない」と決め付けるのでもなく、あくまでもその語が文で表している「意味」に応じて「比較」として用いることの論理性や妥当性を考えなければなりません。簡単に言えば、形容詞や副詞が文中で「相対的な意味」を表しているときは比較級や最上級を持てます。それに対して「絶対的な意味」を表している場合は比較級や最上級になりえないということです。

 比較構文は性質上「論理」を重んじます。比較構文それ自体が論理表現法の1つですからね。ですから冷静に言葉の意味をよく考えて臨む必要があります。
 日常的な会話のほとんどはあまり「大脳」による論理思考を行っておらず、むしろ感覚的に言葉を用いていますが、比較構文は論理に則って物事を表現するものですから、言葉の意味を深く考えず勢いだけでしゃべってしまうと、たとえ英語ネイティブの発言であっても非標準的で無教養な言葉づかいだと批判されることあるのです。

 基本は簡単ですが、受験参考書に出てくるような「馬鯨構文」がなぜそういう言い方でその意味になるのかや、「not more/less than」、「no more/less than」など紛らわしい表現について自分自身の実感を伴って使い分けられるようになるまで解説する予定ですので、順序を飛ばさず丁寧に理解を積み重ねていってください。



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311. 比較変化

 動詞には主語の人称や時制に応じた語形変化がありましたし、名詞にも単数形と複数形というものがありました。比較構文で主役的存在となる形容詞副詞については、「原級(positive form)、比較級(comperative form)、最上級(superlative form)」という3つの形があります。

 「原級」というのは形容詞、副詞の基本形であり、単語によっては暗黙のうちに「平均、標準や常識」との比較が意味に含まれていることもありますが、文章表現としては明確な比較対象を設定せずに、主語についての性質、状態、数量などを示すものです。

This bag is heavy. このカバンは重い
He walked slowly. 彼はゆっくり歩いた。

 「比較級」は他者との2つについての比較を行い、いずれか一方が形容詞や副詞についての程度が高いことを表現する形です。

1, This bridge is longer than that one.
この橋はあの橋よりも長い
2, Her sister is more beautiful than she is.
彼女の姉は彼女よりさらに美しい
3, He runs faster than any other student in his class.
彼はクラスのどの生徒よりも速く走る。
4, Will you speak a little more slowly, please?
もう少しゆっくり話してもらえますか?

最上級」は基本的に3つ以上の中での1番を示すものですが、比較対象が必ずしも「他者」ではないことがあります。

1, This lake is the deepest of the three.
3つの湖の中ではこの湖が一番深い。
2, This lake is deepest here.
この湖はこの地点が一番深い。

 1は「3つの湖」の中での順位を表しますが、2の例文は1つの湖だけについて、様々な場所の深さを比べたものです。

  最上級には「the」をつけて表現すると機械的に覚えている人がよくいますが、それは危険です。the がつくというのは本来名詞に対してであり、形容詞にtheがついているのも「臨時に名詞転用」されている(あるいは形容詞の直後に名詞が省略されている)と考えられます。他者との比較の場合は、「1番~な<もの・人>」という名詞を意味に含んだ形となるので the がつきますが、他者との比較をしない場合は形容詞が名詞転用されません。そのまま叙述形容詞としての機能だけを保つため、theが必要ないのです。

3, You look the happiest of the three.
君は3人の中で一番楽しそうに見える(人だ)。
4, You look happiest when you are eating.
君は食べているときが一番幸せそうだ。

 3は他者との比較。しかし4は「ひとりの人の様々な状態の比較」なのでtheはつきません。

5, He runs fastest in his class.
彼はクラスで一番走るのが速い。
6, He wakes up earliest in his family.
彼は家族の中で一番早起きだ。

 5も6も「彼」と「その他」の人たちとの比較ですが、最上級になっているのが副詞です。副詞は最上級になってもそのあとに名詞が省かれているとは考えられませんので、theをつける理由がないのです。
 にも関わらず「最上級だから」という(実はそれだけでは根拠にならない)理由によって機械的に the をつけてしまう人が英語話者にもかなり見られるのも現実です。それが「正しい言葉の使い方」に無頓着な一般人ならまだしも、英会話の講師でさえ、副詞最上級に平然とtheをつけているとなりますと困りものです。


 比較級・最上級には2種類あり、1つは形容詞、副詞それ自体が語形変化をして比較級語尾( -er )を取る場合。もう1つは、形容詞、副詞は原形のままでその前に「more」をつけ、2語で比較級となる場合です。

 後者のことを「迂言形(うげんけい:circumlocutionあるいはperiphrasis)」と呼びます。迂言形とは、修辞法で「1語でも表現できる内容を2語以上を使って言いまわすこと」を指しますが、英語の語形について用いるときは、「1語で表現できる形がないため2語(以上)で表す」形のことも指します。たとえば動詞について「現在形」と「過去形」は1語で表現しても「未来形」という1語の形がなく「will 原形」という2語でそれを表すのも迂言形です。完了相や進行相など「have+過去分詞」、「be+現在分詞」のようになっているのも迂言形の1つです。

 詳しくはさらにあとで述べますが、英語の形容詞、副詞の比較級について「短い単語は-erをつけて比較級を作るが、長い単語は more を前につける」と中学などで習うかと思いますが、実は「すべての形容詞、副詞に more をつけて比較級を作ることができる」のです。つまり機械的に more を前に置くことだけで比較級を作るというのは本来間違ってはいないのです。

 しかしだからといって本当にそれをやり、何でもかんでも「more long, more strong, more fast....」のように言うと無教養な英語だと思われてしまいます。厳密にはこれでも間違ってないのですが、習慣として語形変化による比較級がより定着してしまった語については、迂言形の使用頻度が極端に下がった結果として「使われなくなった」わけです。つまり「正しい、間違っている」という基準よりも「使われる、使われない」という(英語文化に属する人たちにとって)「耳慣れているかどうか」がそれを受け入れるかどうかの判断基準となるわけです。

 そのためいつくかの語については、-erを付加した語形変化による比較級と「more+原級」のどちらもそれなりの頻度でいまだに用いられている例もあります。学校で習う「単語の音節数によって-erをつけるかmoreとの組み合わせになるかが決まる」というのは厳密には正しい説明ではありません。より丁寧に説明するとすれば、少々長くなりますが次のようになります:

「moreと原級の組み合わせで比較級とするのは本来すべての場合について正しいのであるが、『習慣的』に-erをつけた比較級の使用頻度が高いものについてはそれが標準と受け止められるようになっており、moreとの組み合わせの使用頻度もいまだに高いものについては、その両方の比較級が存在する。」

 音節が短い単語であっても習慣的に more との組み合わせが今でも普通に用いられている例としては、like(似ている)、right(正しい)、wrong(間違っている)や bored(退屈して)、scared(怖がって)など分詞由来の形容詞があります。これらは例外というより、むしろ本来の用法のまま生き残っている例であり、-er語尾の形の定着を見なかったということです。なお分詞形容詞は、その語形自体がすでに分詞語尾で終わることで意味を伝えているため、それに別の語尾を追加すると「分詞形容詞」としての意味を感じにくくなってしまうため、-erつい以下が避けられたものです。

 形容詞、副詞の比較級が「-er」接辞によるか、「more+原形」によるかの2種類だけならまだ話は簡単なのですが、単語によっては独自の不規則変化をするものがあり、さらに同じ形容詞、副詞が意味によって2種類の比較級語形変化をするものもあります。最初は覚えることが多くて面倒に感じるかも知れませんが、慣れてくるとそういう使い分けがあることが自分でも便利に感じてくるから不思議です。

 大雑把な理解の仕方について説明しましたので、ここからは具体的に、形容詞、副詞の比較変化についてそのパターンを見ていくことにします。パターンとしてまとめてしまうため、原級から比較級、最上級までの変化をここで解説します。

<規則変化:1音節語の場合>

 ある単語を見てそれが「長い」とか「短い」と感じる尺度は何でしょう?
 日本人の多くはその単語を構成している「文字数」で単語の長さを感じ取るかと思いますが、英語的感覚では文字よりも「音節数」が単語の長さの印象を大きく左右します

 では英語話者の一般的感覚として何音節から「長い」と感じるのでしょうか?

 意外なことに「2音節」になるとすでに「長い」と思われるのです。
 「2音節でもう長いなんてこと言ってたら、1音節だけでいったいどれだけの単語が作れるものか?」と思うかも知れませんね。日本語だと1音節だけで何かを言おうとしても最大「50音図」の範囲に収まってしまうので沢山の単語を表せません。
 しかし日本語の母音が5つしかないのに対して、英語は母音だけでも「短母音、長母音、二重母音、3重母音」と合計26種類もあるのです。それだけではありません。日本語の場合、音節は原則として母音で終わり、母音の後から子音が張り付いて音節を構成することがありませんが、英語の場合、母音の前後から子音が吸着して音節を作れます。それも1つの子音だけでなく最大3つもの子音がくっつきますので、それらを考慮すると1音節だけでも膨大な音の組み合わせが可能なのです。

こちらで復習しましょう

 日本語で「あ」を含む1音節語を言えと言われると「蚊、他、名、歯、間、矢、輪、蛾、、、」とか多少の同音異義語はあってもそれほど多くを思い浮かべられませんね。
 それが英語だと [ ɑ/ɔ ]の母音を含む1音節語としても、pot, lot, slot, plot, shot, shock, clock, lock, spot, not, knot, などなど相当数の語が考えられます。このように思いのほか英語には1音節語が多いのです。

He was proud of having been rich. 彼は金持ちだったことを自慢した。

 この文を構成している7つの単語のうち「having」を除く6つまでがすべて1音節ですよ。
 その和訳である「彼は金持ちだったことを自慢した」では、助詞「は、を」以外はすべて多音節語です。そういう意味では日本人は習慣的に常日頃から「長い単語」を沢山記憶しているのです。

 さて英語の形容詞、副詞が1音節の場合の多くは、語尾に-erを付加することで比較級とします。つまり「語形変化(派生変化)」により比較級となります。このときのスペルについての注意点は名詞の複数形を作るときや、動詞の規則変化での注意点とほとんど同じです。すなわち「-er」をただ加えただけでは「単語の読み間違い」につながる場合、スペルに手を入れて適切な発音を保たせるようにするということです。

hot - hotter - hottest

 「hot」にただ-erを接辞してしまうと「hoter」となり、英語のスペルと発音の習慣に照らすとこれは[ hóutər ]と読みたくなるため、t を重ねて短母音としての読みを保っています。

dry - drier - driest

 これは名詞の複数形や動詞の三単現の-sをつけるパターンと同じ。 studyを「studys」とせず「studies」としましたね。「play」はそのまま plays であったのと同様、gay(陽気な) は-yで終わっていても「母音-y」ですから gayer です。

rare - rarer - rarest

 もとの単語が「発音しないe」で終わっている場合、そのeを「-er」の「e」に兼ねさせてしまいます。つまり -r だけが追加されます。

long - longer - longest

 これは発音に注意。語尾が「-ng」の単語に比較級、最上級の -er, -est がつきますと「g」が発音として現れます。ただ -er の音を加えればよいのではありません。つまり「longer」は[ lɔ́ŋgər ]の音となります。
 ところが同じ「-er」であっても「~する人」が動詞についた場合は、語尾のgは変わりません。つまり「singer」は [ síŋər ] の発音であり[ síŋgər ]ではないのでこのあたり混乱しないように注意しましょう。

 1音節語は英語においてもっとも身近で平易な語に多く現れるものですから、それだけ使用頻度が高く、変化形の定着率も高くなります。またもともと1音節なので、-er/-est が追加されても2音節にしかならず、単語としての読みやすさや「一目見てその単語とわかる」視認性のよさも保たれやすいといえます。そういう理由から、1音節語-er/-est接辞の語形変化による比較級、最上級が標準的となる傾向が強いわけです。

 それでいて、like, true, right, wrong, real など通常は「more/most」をつけて比較級、最上級とする方が普通な語もあります。これらの語も1音節語なので -er/-est を付加する語形変化もするのですが、「more/most+原形」と2語にすることの方が一般的です。

 行き着くところは習慣の問題なので、「-er/-est」が付加された語が、どれほど英語話者の目に馴染んでいるかで決まります。

 

<比較変化:2音節語の場合>

 1音節語では原則的にほとんどが「-er/-est」付加による語形変化で比較級、最上級を作ると考えてよかったのですが、2音節語になりますと、その両方を自由に用いてよい場合がぐっと増えます。それでもすべての2音節語にそれが許される(=一般的である)わけではありません。-erをつける形が好まれるか、more との組み合わせが好まれるかについては、ある程度の大まかな目安のようなものはありますが、非常にばらつきが多く明確な統一性はないともいえますので、逐一辞書で確認することをお勧めします。

 -er語尾の比較級が好まれる形容詞としては日常性、使用頻度の高いものが多いといえます。

happy - happier - happiest
gentle - gentler - gentlest

 造語的な理由により、-er語尾を取らずmoreとの組み合わせで比較級を作るものがあります。

1、分詞由来の形容詞: touching(感動的な)、worried(心配して)
2、接頭辞 a- のついた形容詞: alive(生き生きした), afraid(恐れて)
3、接尾辞として -ful, -less, -ish, -ous などがついた形容詞:awful(すさまじい), sinful(罪深い), painful(痛みを伴う), painless(無痛の), careless(不注意な), childish(子供じみた), cautious(用心深い)

4、形容詞に副詞語尾の-lyが接辞されたもの:quickly(素早く), loudly(大きな音で)

なおfriendlyは「名詞+形容詞語尾」なので friendlier-friendliestとなれます。

 もともとの単語の構造が「語幹+接辞」で成り立っている語の多くは、さらに-erの接辞の追加でもとの単語構造が見にくくなることを避ける傾向がありますが、その傾向もすべてに当てはまるわけではないので「ルール」だとは思い込まないようにしましょう。

 -er接辞の語形変化とmoreとの組み合わせによる比較級のどちらも取るといわれているいくつかの語についてYahoo検索で「英語のみ、アメリカ国内サイトのみ」の設定で検索をかけてみました。

commoner 約5,530,000件
more common 約75,700,000件

crueler 約333,000件
more cruel 約460,000件

politer 約95,800件
more polite 約1,300,000件

quieter 約14,500,000件
more quiet 約2,080,000件

solider 約6,960,000件
more solid 約7,570,000件

 このようにどちらの比較級もあるといわれる語のほとんどは moreとの組み合わせの方が使用頻度が高い傾向にあるようです。上記で唯一例外だったのが quiet であり、これだけはmoreとの組み合わせよりも単独語形変化の quieter が多くヒットしました。これはおそらく2音節語であっても「二重母音+短母音」の並びが単語全体を短く感じさせている印象が影響しているのではないでしょうか。
 なお「quiet」や「solid」の比較級(最上級も)で語尾の子音文字を重ねないのは、その直前の短母音にアクセントがないからです。これを「quietter」とか「solidder」とはしませんので注意してください。

 

<比較変化:3音節語の場合>

 単語が最初から3音節で成り立っている場合、それだけですでに「非常に長い単語」という印象を与えます。そのため、さらに-erを接辞して4音節にまでなることを嫌い more との2語による迂言形で比較級を作ります。

 ただしこれにも例外があります。単語としては3音節になっていても「unhappy (un-hap-py)」のように2音節語に接頭辞がついただけの語の場合、感覚的には happyhappierになる延長にしか感じられないため、unhappier が抵抗なく用いられます。

 すでにこのサイトを冒頭から順序良くお読みになった方であれば「英文法が人為的に定められたルールではない」ことを十分お分かりのことと思います。
形容詞や副詞の比較級、最上級についても、単純に1音節語は-erをつける、2音節以上はmoreを前に置くというような規則があるのではなく、基本的に習慣上の定着度の問題だということを受け入れられると思います。その上でなんらかの理由・背景によってある種の傾向性が見られるという理解が最も現実的で、かつ実践的なのです。

 

<比較変化:不規則に変化するもの>

 動詞の過去形、過去分詞が原形に-edをつけるだけではなく、独自の変化をするものがあったように形容詞、副詞の比較変化についても不規則変化をするものがあります。

 原級と比較級、最上級の形が大きく異なるものについは特に歴史的背景つまり語源的な理由をさぐることができますが、あえてここではそこまで掘り下げません。語源知識は単語を覚える根拠を与えてくれる有益なものですから興味のある方は、このサイトの「リンク」にある語源辞典などを参照されるのも大いに結構なことですが、形容詞、副詞の不規則変化は全体数もごく限られていますのでこの解説では早めに個々の用法解説などに進みたいと思います。

不規則変化をする形容詞・副詞
原級   比較級   最上級
1,  good/well - better - best
2,  bad/ill - worse - worst
3,  many/much - more - most
4,  little - littler/less/lesser - littlest/least
5, old - older/elder - oldest/eldest
6,  late - later/latter - latest/last
7,  far - farther/further - farthest/furthest

 

1、good/well - better - best

 goodは「よい」という意味の形容詞のみとして用いられますが、wellは「元気な」の意味では形容詞ですが、副詞として「よく、しっかり、十分に、上手に」などかなり幅広い意味に用いられます。
 good well も直接の語形変化がなく、語源的には別の単語に由来する better, best が意味的にそれらの比較級、最上級として用いられます。good/well と「better, best」の形が全く似ていないのは先祖が異なるためです。
 同じような歴史を持つ語として「go - went - gone」という動詞変化があります。wentwend という語の過去形ですが、go の過去の意味としてその場に居座った状態にあります。アメリカ俗語では go から単純類推による goed を用いることが現実にありますが、これはいまだ無教養な英語とされます。

I am good at tennis, but he is better (at it), and she is the best of us all.
=I play tennis well, but he plays it better, and she plays best of us all.

私はテニスがうまいが、彼は私以上にうまい。さらに彼女は私たち3人の中で一番うまい。

A: How are you today? 今日の気分はどう?
B: I am not very well yet. あまりよくないんだ。
A: I hope you will soon get better. 早くよくなってね。

2、bad/ill - worse - worst

 goodの反対語がbad, wellの反対語がill であり、bad/ill とも比較級として worse が、最上級として worst が用いられます。「ベスト3」や「ワースト3」という言い方は外来語としても定着しており馴染みがありますね。
 ちなみにこれもアメリカ俗語で bad - badder - baddest と使う例があり、もちろん無教養な英語なので真似るべきではないのですが、「Best Kid(邦題カラテ・キッド)」というかなり前の映画の中で、悪い空手の師範が全米から札付きの「ワル」を探し出し、その不良少年のことを「He is the baddest boy ever.」のように表現していたのを覚えています。この台詞を聞いた瞬間、それが俗語であり、bad の最上級として baddest が標準的でないことは知っているものの、この台詞を「He is the worst boy ever.」と言ったのではまったく雰囲気が出ないと感じたものでした。
 「英語サイトのみ、アメリカ国内のみ」のオプション設定で baddest を検索すると約31,900,000件ものヒットがありますが、これだけ広く用いられてても俗語であり、非標準である事実は変わりません。辞書によっては現実に存在し用いられている baddest を収録しているものもありますが、その解説には「non-standard」と書かれています(http://en.wiktionary.org/wiki/baddest)。

 「具合が悪い」などの意味の ill も、それ自体は語形変化をしないため、比較級、最上級の意味として worse, worst が用いられます。

I feel worse than (I did) yesterday. 私は昨日より気分が悪い。
All the boys were ill but Tom looked the worst.少年たち全員病気だったが、トムが一番具合悪そうだった。

 

3、many/much - more - most

 「多い」という日本語は「数・量」どちらの意味にも用いられますが、英語では「many」は「数が多い」の意味に、「much」は「量が多い」の意味に使い分けられます。しかし比較級、最上級としてはどちらも同じ more, most になってしまいますので形の上では区別がありません。それでも数、量いずれの意味かは重要ですので、前後関係から「many/much」いずれの比較級、最上級なのかを区別しなければなりません。

 many/much とも不定代名詞としての用法もあり、単独で名詞のような扱いを受けて用いられることがあります。(「不定代名詞」の項目参照)

 他の形容詞と組み合わせることで迂言形の比較級、最上級を作る more, most 量的な意味の副詞 much の比較級、最上級です。
 much は形容詞として名詞を修飾する場合と、副詞として動詞、形容詞、副詞を修飾する場合があります。

You have many books but I have more (books). 君は沢山本を持っているが、私はもっと多く持っている。
You eat too much. 君は食べすぎた。
I can't eat any more. もうこれ以上は食べられない。
Who ate the most of the three? その3人で一番沢山食べたのは誰だ?


4、 little - littler/less/lesser - littlest/least

 little も本来は比較変化をしない単語です。そのため比較級や最上級に「相当する」意味を他の語を当てて補っています。

 「little」がサイズとして「小さい」の意味のときは比較級、最上級として small の変化形である smaller, smallest で代用されます。その意味で littler, littlest を用いるのはアメリカ英語で略式(間違いとまでは見なされないが俗語に近いフォーマルさのない言い方)とされており、これは単純類推による造語です。

 littlerについて wikitionary には次の記述があります:

Some authorities regard both littler and more little as non-standard. The OED says of the word little: "the adjective has no recognized mode of comparison. The difficulty is commonly evaded by resort to a synonym (as smaller, smallest); some writers have ventured to employ the unrecognized forms littler, littlest, which are otherwise confined to dialect or imitations of childish or illiterate speech."

権威ある文献、学者などによっては little の比較級として「littler」や「more little」という表現を用いることについて非標準的であるとされている。Oxfor English Dictionary には「little」の説明として「比較級を持たない」と書かれている。比較級がないことによる不便さを smaller, smallest という同じ意味を表せる語の代用によって回避するか、あるいはlittler, littlest が用いられる。しかし littler, littlest は方言、あるいは子供の言葉や無教養な英語とされる。

 muchの反対語として「量が少ない」や「程度が低い」の意味としての little は比較級 less、最上級 least が使われます。

 「less+形容詞/副詞の原級」で「劣等比較」という程度が劣る意味の表現ができますが、これは論理性重視のため、いかにも頭で考えた匂いが強く、改まった感じや堅い印象を与えます。もちろん、そういう口調として狙って用いることはあります。

Jane is less beautiful than Mary.
=(口語)Jane is not so beautiful as Mary.

 日本語でも同様の事実を次のように色々言えますね。
1、JaneはMaryほど美人じゃない。
2、JaneはMaryよりも美しさで劣る。
3、JaneはMaryと比べ美しさにおいてはひけを取っている
こういう口調の違いから受ける印象さと同じようなものを感じるわけです。

 あと「lesser」というのは「little」の意味として「つまらない(価値が低い)」の意味の場合に限って比較級として用いるのが普通です。他の意味の比較級とも混同して用いられることが現実にはありますが、fewer, less, smaller はそれぞれの使い方ができるのですから、区別した方がよいでしょう。

 (英語ネイティブであっても)意外と混乱が見られるのが「fewer, less」です。

On a Sunday morning, you see ( fewer/less ) cars in the street than usual.
日曜日の朝は、普段より通りを走る車が少ない。

 この場合、「cars」は数えられる名詞なので many, few で多い少ないを表現しますから、「より少ない」の意味では「fewer」が適切です。しかしこの問題は英語ネイティブ向けにも出題されており、必ずしも全員が正解しないからこそ問題になっているわけです。


5、old - older/elder - oldest/eldest

 「old」そのものは規則変化(old-older-oldest)なのですが、家族内の年齢順序について言う場合に限り、elder, eldestbrother, sisterと組み合わせて用いられます。ただしアメリカではこの言い方をすでに古めかしいと感じる傾向があるようで同じことを older brother や big brother ということが多くなっています。elder/older は比較級を使うのに「big brother」だけは「bigger」としないんですね。
 ちなみに弟・妹なら younger brother/sister, little brother/sisterです。

 elder限定用法(名詞を修飾する使い方)のみであり、「He is elder than I (am).」のような使い方(叙述用法)はありません。


6, late -later/latter - latest/last

 日本語で「遅い」というだけでは区別がつきませんが、「時間が遅い」の意味では「late-later-latest」で、「順序が遅い(あとである)」の意味では「late-latter-last」です。

 なお時間的前後関係として「過去から今へ」向かう意味の場合と「今から未来へ」向かう意味の両方があり、前者の使い方としては限定用法で「最近の(late)-より最近の(later)-ごく最近の(latest)」という関係となりますので、latestが「今」に最も近くなります。

(a) This is a late news. 近頃のニュース(=それほど古くないニュース)だ。
(b) This is a later news than that. こちらの方がそれより最近の(新しい)ニュースだ。
(c) This is the latest news. これがつい最近の(一番新しい)ニュースだ。

 「今」に一番近いのは(c)です。

(d) Tom will be late.トムは遅れて来る。
(e) Bob will arrive later than Tom.ボブはトムよりさらに遅れて来る。
(f) Jack will come latest.ジャックは3人の中で一番遅くに来る。

 こちらは未来に向かっているので、「今」に一番近いのは(a)となります。
(d) (e) (f) は同じ日の「何時に来るか」について、その遅さを比較しているかも知れませんし、「何日後に来るか」という遅さの意味かも知れません。

 これが3人が来る「順序」を問題にしているのであれば

(g) Tom will come first.
(h) Bob will come second/next.
(i) Jack will come third/last.

 というところです。

 「late」の比較級である「later」は副詞としても使われますが、「latter」は限定形容詞としてのみ用いられます。ですから(h)の「second/next」の代わりに「latter」は使えません。

 対照的に「the former(前者)」と「the latter(後者)」という組み合わせでもよく現れます。


7、 far - farther/further - farthest/furthest

 ほとんどの辞書や解説書には「fartherは距離の意味での比較級、furtherは程度の意味での比較級」という区別が書かれているのではないかと思います。確かに概してそういう用法の区別がなされていると言えるのですが、実はこの「farther, further」の2つの語は歴史的に何の区別もなく、単なるバリエーション、つまりどちらでもよい語とされてきているのです。

Online Etymology Dictionary

There is no historical basis for the notion that farther is of physical distance and further of degree or quality.
(「father」が物理的な距離を表し、「further」が程度や質を意味するという使い分けに関する認識は歴史的に何の根拠もない。)

Wikitionary

Some usage guides distinguish farther and further, with farther referring to distance, and further referring to degree or time. Others, such as the OED, recommend farther as a comparative form of far and further for use when it is not comparative.
However, most authorities consider the two interchangeable in most or all circumstances, and historically they have not been distinguished.

(用法解説書の中にはfurtherfartherの違いについて、fartherは距離に関して用いられ、furtherは程度や時間について用いられると書かれているものがある。またOEDなど、fatherfarの比較級として用い、furtherは比較を表さない意味に使うよう勧めている辞書もある。
しかし専門家の声は、この2つについてほとんどの場合において互換性があるという意見でほぼ一致しており、事実この2つの語が歴史の中で区別されていたことはないのである。)

Online英和辞典では上記英語辞書に比べて少々トーンダウンした書き方になっています。

Yahoo Online英和:

[語法]fartherは具体的な距離に,furtherは程度など比喩的な意味に区別して用いる人もあるが,最近,特に((略式))ではfurtherをすべての場合に用いることが多い.

Excite英和、Goo英和とも:

《★【用法】 副詞と形容詞の場合,通例時間・数量・程度の隔たりには further を用い,空間の隔たりには farther を用いるといわれるが,実際には後者の場合にも further が用いられる傾向がある》

 一方印刷物書籍となっている文法書では「farther/further」について意味上の区別を明確に書いているものが目立ちます。中には意味によって使い分けなければならないと強く言い切った表現になっているものもあるようで、著名な学者やネイティブの監修が入っているにも関わらず首をかしげたくなるところがあります。印刷出版物は原稿執筆から実際の出版までかなりの年月が経ってしまう場合もあり、それに対してオンライン辞書は、よりリアルタイムに現状を記述に反映させやすい差かも知れません。

 多くの文法書が用法の区別を決め付けていることに従っておいて間違いはない(互換性があるのですから)のですが、教える立場にある人はこの2つの使い分けを強制するべきではないと思われます。学生の立場からすればテストを採点する側の人間の認識が「2つは違う!」と思い込んでいたら正しい解答にも×がつけられてしまうことを恐れますので、「相手のレベルに合わせて」区別しておけば無難と言えます。
 ただしある例文で「farther」と「further」のどちらか一方を選ばせるような設問は作るべきではなく、そんな出題をしてくる大学はこちらから辞退し(入っても大したことは学べそうにありませんから)、そんな問題を出す塾は即座に辞めることです。

 以上で形容詞・副詞の比較変化を終わりとします。
次からは、様々な比較表現について見ていくことにしましょう。




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