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「to不定詞」は「前置詞to+原形動詞」の組み合わせになっていますが、原形動詞の意味を修飾する副詞を間に割り込ませた形を「分離不定詞(分割不定詞)」と呼びます。
例えば「to sing」というto不定詞と「beautifully」という副詞を同時に用いようとするとき次の言い方が考えられます。
1, beautifully to sing
2, to sing beautifully
3, to beautifully sing
1は「to不定詞」の直前に副詞を置いた形。
2は「to不定詞」の後に副詞を置いた形。
そして3番目が「to 副詞 原形動詞」として間に副詞を割り込ませたもの。つまりこれが分離不定詞と呼ばれる形です。
この分離不定詞については英語話者の間でも長く活発な議論がなされており、今日でも「分離不定詞は非文法的であり間違いだ」と強く主張する声があります。
しかしその一方で「まったく問題ない」という声も多数存在し、現実の用例としてはごく当然のように分離不定詞が用いられています。
次の分離不定詞の例を見てください。
I want to completely understand what you mean.
(あなたの言いたいことを私は完全に理解したいと思っている)
分離不定詞を避けるとすれば次のような形式がありえるわけですが、まったく同じ意味にはならなくなってしまいます。
a) I want completely to understand what you mean.
b) I completely want to understand what you mean.
c) I want to understand what you mean completly.
(a)の「副詞+to do」の位置は文法的には無難といえますが、読み上げたときのリズムがあまりよくありません。また人によってはcompletely という副詞が直前の want を修飾しているように感じるかも知れません。
(b) の位置に completely を置いてしまうと、これは完全に「completely」が want を修飾することになってしまい文意そのものが変わってしまいます。
(c) のように副詞を不定詞句の末尾に置くことも可能ですが、今度はmeanという別の動詞よりさらに後に回っているため、understandを修飾しているのか mean を修飾しているのかが曖昧に感じられます。
このように分離不定詞を避けた場合、別の問題が発生してしまい、(a), (b), (c) に比べると分離不定詞を用いた最初の例文は意味のまぎれなく、なおかつ読み上げたときのリズムもなめらかです。
しかしあえて分離不定詞を用いるべき根拠に乏しい場合もあります。
To moderately drink is important.
To drink moderatly is important.
どちらも「適量に飲酒することが大事だ(飲酒しても飲みすぎないことが大事)」とまぎれなく解釈できますが、こちらの例ですと無理に分離不定詞を使うとかえってリズムが悪く、不恰好な英文になっています。単純に「to drink」のあとに副詞を添えて何の問題もありませんので、こういう場合は分離不定詞を使うべきではありません。
同じ意味を仮主語を使った形式で表現してみましょう。
It is improtant to moderately drink.
It is important to drink moderately.
こちらも分離不定詞を使っている方がリズムも悪く、あえてそうする理由を感じません。
すなわち分離不定詞を使うべき場面というのは:
1、分離不定詞を使った方が副詞がどの動詞を修飾しているかが明確になる場合。分離不定詞を使わないと副詞と修飾する動詞が極端に離れてしまったり、その間に別の動詞が存在して意味が曖昧になったりする場合。
2、分離不定詞にしたときの方が文を読み上げたときのリズムがよい場合
という最低2つの条件がそろっているときだといえます。
分離不定詞そのものはもう「文法的に間違い」だとは考えられなくなっているので使うときは使ってよいのですが、あくまでも分離不定詞の使用が「適切」だといえる根拠のあるときに限って用いるのが無難だと思います。
文法書などでは分離不定詞を「口語的」などと書かれていますが、ビジネス英語などかなり堅い文体でも場面に応じて抵抗なく用いられているのが現状です。慣れてきますとなかなか便利なものです。
分離不定詞が論議の対象となるとき、英語話者の間で決まって引き合いに出される有名な言葉があります。それは映画「スタートレック(Star Trek)」の導入部分でカーク船長(Captain James T. Kirk)が言う次の台詞です。
“Space: the final frontier. These are the voyages of the starship Enterprise. Its five-year mission: to explore strange new worlds, to seek out new life and new civilizations, to boldly go where no man has gone before.”
(参考訳)宇宙、それは最後の秘境。これは宇宙船エンタープライズ号の航海の物語である。未知の新世界を探検し、新たな生命や文明を探し求め、まだ誰もたどり着いたことのない場所を勇敢に冒険する5年間の任務である。
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不定詞は動詞が原形のまま文中に用いられるものですから、toの有無に関わらず、必ず「意味上の主語」が存在します。不定詞の意味上の主語は文中に姿を現していることもありますし、文脈的に当然のものとして省略されている場合もあります。
基本的な考え方として、ある英文が書かれているとき、その英文の「構造上の主語」と不定詞の意味上の主語は自動的に一致します。
I want to eat apples. りんごが食べたい。
この英文は全体としてSVOであり、構造上の主語として「I」がまず登場します。そして構造上の主語が定められると、そのままあとで現れる不定詞(to eat)の意味上の主語もそれであると了解されます。
It is very difficult to master English only in six months. たった6ヶ月で英語を習得するのは非常に難しい。
仮主語の構文ですが、この「to master」の意味上の主語はどこにも明示されていません。それはこの文が一般論として書かれているからであり、一般論である限り、不定詞の意味上の主語は「we」や「everyone, anyone」ということになります。
英文の構造上の主語と不定詞の意味上の主語が一致しない場合、不定詞の意味上の主語を別途明らかにする必要があります。
It is impossible for me to master English only in six months.
直訳すると「私にとって英語をたった6ヶ月で習得するのは不可能だ」となりますが、「for me」によって「to master」の意味上の主語が限定されていますので、この文は一般論ではなく「私について」限った話となっています。「for me」が「to master」の意味上の主語であることをわかりやすく日本語にすると「私がたった6ヶ月で英語を習得するなんて無理なことだ」と表現することもできます。このように言い換えてみると「for me」と「to master」の間に意味の上で「主語と述語」の関係があることがはっきりします。
I want you to eat more vegetables. 君にもっと野菜を食べて欲しい。
今度は「want」の目的語として「you」があり、目的格補語として「to eat」が続いています。
項目280の「ネクサス構文」でも取り上げた形式ですが、目的語の you が「to eat」の意味上の主語となっており「あなたが食べる」の関係がそこにあります。もし you がなければ構造上の主語である「I」がそのまま自動的に「to eat」の意味上の主語として解釈されてしまうので、それが一致しないとき、このようにして意味上の主語を明示しているわけです。
This bag is too heavy for me to carry alone.
このバッグは私がひとりで運ぶには重過ぎる。
「for me」があることで「私が運ぶ」という意味上の主語が明確にしめされています。話の流れから「私が運ぶ」という前提がはっきり了解されている場合は「for me」を省略しても誤解はされませんが、そういう文脈がまったくないところでいきなり「for me」抜きでこれを言うと一般論に聞こえてしまい、「誰にとっても一人運べないほど重い」と解釈されます。
また厳密に言うと「for」によって「to carry」の意味上の主語を明示しなかった場合、この英文の構造上の主語は「the bag」であるため、「バッグが運ぶ」というおかしな意味関係となってしまいます。(235.不定詞の基本用法の中の例文は「不定詞の意味上の主語」についてまだ解説する前だったのであえて、特定文脈で「for me」が省かれたものも出しています。)
This bag is too heavy to be carried only by one person.
直訳:このバッグはたった1人の人によって運ばれるには重過ぎる。
こうなっていれば構造上の主語である「the bag」をそのまま意味上の主語として「to be carried」という受動態不定詞とつじつまがあいます。(ただし「誰が運ぶ」が示されないため一般論になります。)
このようにto不定詞が文中にあるときは
1、英文の構造上の主語がそのまま意味上の主語として引き継がれる。
2、構造上の主語と意味上の主語が一致しない場合はそれを何らかの方法で明示する。
というのが原則だと覚えておきましょう。
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前の項目の中で「to不定詞」の意味上の主語について述べました。原則として「文の構造上の主語が自動的に不定詞の意味上の主語として引き継がれる」のであり、「文の構造上の主語と不定詞の意味上の主語が一致しない場合は、なんらかの方法で不定詞の意味上の主語を明示する」ということでしたね。
そういう原則を前の章で解説したのは、「それがあてはまらない場合」をこちらの項目で解説するための前振りだったのです。先に説明した不定詞の意味上の主語についての原則的な考え方は、その通り覚えておいていただいて全く構わないのですが、「一部の熟語的表現は、文の構造上の主語に関係なく、独立した形で用いられる」ことがあります。
「独立不定詞」などという仰々しい文法用語を使わなくても「不定詞の慣用表現」と考えればよいのです。(文法用語ってときどき簡単なことをわざわざ難しそうに表現することがあるので嫌ですよね。)決まり文句的に定着したものに先ず慣れましょう。その上で自然と新たな独立不定詞を自分なりにも使えるようになってきます。
多くは文頭で用いられ、あとに続く主節の構造上の主語と無関係に固定的表現として用いられます。
文頭で主に用いられる例
これらは言葉の切り出しとして主節の前にコンマで切り離して使われることが多くありますが、主節が始まったすぐあとに思い出したように挿入されることもあります。
★To tell the truth, 実を言うと
To tell the truth, I am acrophobic.
実を言うと、私は高所恐怖症なんだ。
この「to tell the truth」は極めてよく耳にする慣用表現です。使い方は容易に想像がつくと思います。日本語で「実を言うと」と切り出すときとまったく同じですからね。文頭で使うのが一番普通ですが、付けたし的に後に添えられることもあります。いずれもコンマで切って独立した形で使ってください。
I am acrophobic, to tell the truth.
僕、高所恐怖症なんだよ、実は。
上の例文はどれも「to tell」の意味上の主語が主節の構造上の主語と一致してはいますが、「I」以外の主語を持つ文があとに続いてもまったく構いません。
To tell the truth, my father is in prison now.
実は、私の父は今牢屋にいるんだ。
★To be frank (with you), 率直に言うと
To be frank with you, I don't like the way you speak.
率直に言わせてもらうと、君の話し方が好きじゃないんだ。
To be frank with you, you'd look better with long hair.
率直に言うと、君はロングヘアーの方が似合うね。
「with you」は省略されることもありますが、先ずは丸ごと覚えてしまいましょう。
日本語で「ぶっちゃけた話が」というのに相当します。どちらかというと話しにくいことを打ち明けるような意味に使われます。
面白いことに語源的にはヨーロッパの「フランク族(Frank)」に由来します。どうやらこのフランク族の民族性はさぞかしざっくばらんだったようですね。
★To be honest (with you), 正直に言うと
To be honest, I am not so sure if I can do it.
正直言うと、私にそれができるかどうか自信がないんだ。
To be honest with you, my mother doest not like you.
正直に言うと、うちの母は君を好きじゃないんだ。
何かを包み隠さず言うときの最も一般的な表現が「to be honest (with you)」でしょう。
★To begin with, まず最初に
To begin with, Teacher had the students listen to an old English song.
まず最初に先生は生徒たちに、ある古い英語の歌を聞かせた。
★To make matters worse, さらに悪いことには、
His father passed away. To make matters worse, he left a large amount of debt.
彼の父が亡くなった。さらに悪いことに巨額の借金を残して亡くなったのだ。
直訳すれば「物事をより悪くしたことには」ですから、何か悪い話がまずあって、それを受けて「それだけではまだ済まなかった」という、もっと悪い話を後に続けるとき使われます。
★To make a long story short, 手短に言うと
To make a long story short, you're broke.
まあ、要するに一言でいえば、君は一文無しになったんだ。(破産したんだ)
不定詞句の中身として「make O C」になっていますね。「長い物語を短くするとしたら」が直訳。
不定詞を使わない「in short」というもっと短い言い方もあります。
★To do (人) justice, (人)を公平に評価するなら
この(人)の位置には評価する対象となる誰かを具体的に入れます。
To do him justice, we have to admit that he has done his best.
公平に評価して、彼は最善を尽くしたと認めなければならない。
To do him just justice, he is not equal to the job.
公平に評価して、彼にはその仕事をやるだけの能力はない。
★To be (more) precise, (もっと)厳密に言うと
I am an Asian, to be preise, Japanese.
私はアジア人だ。細かく言えば日本人だ。
★To return to the subject, 本題に戻ると、余談はさておき、
何か話が一旦本題からそれたあと、仕切りなおして本題にもどるときの前置き。ですからこの言葉が用いられる直前に一旦話が横道にそれたりしているわけです。使用例を提示しようとすると「本題>横道」というかなり長い文脈を提示する必要があるので、これは割愛します。
★Strange to say, おかしな話だが、こういうと妙な感じではあるが、
Strange to say, he didn't feel any pain.
奇妙なことに、彼はまったく痛みを感じなかった。
これはかなり応用が利きます。「srange」の代わりに色々な形容詞を使ってバリエーションが簡単に作れます。
Funny to say, こんなことを言うとおかしいけど、
Sorry to say, こう言っては申し訳ないのだが、言っちゃ悪いが
★Needless to say, 言うまでもないことだが、
Needless to say, life is the most important thing.
言うまでもないが、生命こそもっとも重要なものだ。
strange/needless to say などは「It is strange/needless to say this but, 」から主要な部分が残って慣用的に用いられているものですから、後に続く主節の構造上の主語が to say の意味上の主語と一致しなくても何の不思議もありません。
Sorry to say は「I am sorry to say this but,」の省略形。その背景を踏まえれば、「I」という意味上の主語が最初の時点で存在するので、あとに続く節と完全に切り離されたものであることが納得されるでしょう。
挿入や文末で多く用いられる例:
下の例は主節の情報がある程度伝達された時点で活用されるものです。まったく白紙の状態での前置きとしては使い勝手が悪いこととが理解できると思います。
★, to say nothing of ~, ~は言うまでもなく
★, not to speak of~, ~は言うまでもなく
この2つは完全に互換性があります。
He is fluent in Germany and French, to say nothing of English.
彼はドイツ語やフランス語まで流暢に話せる。英語は言うに及ばない。
★, to say the least (of it), 控えめに言っても
He is frugal, to say the least of it; stingy, to be honest.
彼は控えめに言っても倹約家だ。正直に言えばケチだ。
★, so to speak/say, いわば
★, that is to say, つまり、要するに
「so to」に「speak/say」のどちらをつなげても構いません。概して speak がイギリス式、say がアメリカ式とも言われていますが、さほど明確な違いはないようです。何かを先ず述べ、それをさらに例えとして誇張した言い方で言い直すときの前置きです。「that is to say」とも互換性があります。
He is always reading books. He is, so to say, a bookworm.
彼はいつでも読書している。彼はいわゆる本の虫というやつだ。
★, not to say ~, ~とは言わないまでも
He is different, not to say weird.
彼は人と違う。「奇妙」だとまでは言わないけどね。
先に何らかの評価があり、それを極端な方向に延長するとこういう言葉になるかも知れないが、そこまでのものではないと一歩手前でストップをかける表現。上の例で「weird」は他動詞「say」の目的語として名詞扱いになっているので、「'weird'」と括弧に入れて引用語とした方が厳密には正しいといえますが、そのまま単語を置いても構いません。
まだまだ色々あるとは思いますが、上の例についてまず慣れていただきたいと思います。慣用表現ですから、文法的に細かいところにこだわるよりそのままの形を使ってみてください。ここで紹介した例以外に、「あ、これも独立不定詞だ」と気づくものがあったら独自にメモを加えていけば表現力の幅が広がります。
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