前の項目へ もくじに戻る 次の項目へ

276. 第5文型(S+V+O+C)

 この文型で述語動詞となるのは「不完全他動詞」です。
目的語を取りますので他動詞ですが、さらに補語も取ります。
自動詞文型のSVCC「主語」の姿形や状態を表すものでしたが、SVOCのCは「Oを主語としたときの述語」のような関係にあります。そういう働きの違いからSVCのCを「主格補語」、SVOCのCを「目的格補語」と呼び分けます。

 最も基礎的な例文としては目的格補語に名詞か形容詞が来る形です。

We call him John. 私たちは彼のことをジョンと呼ぶ。
S V O C himJohn の間に「he is John」の関係がある。

He made me angry. 彼は私を怒らせた。
S V O C me angry の間に「I was angry」の関係がある。

 このように第5文型の動詞は「OがCだと~する」の言い回しに当てはまるものです。

 We call him. だけで打ち切った場合ですと「私たちは彼(の名)を呼んだ」の意味になりますが、話者は、その文に何かを付け加えたというより、最初から「彼をジョンと」という意味を伝えようとして言葉を始めています。つまり「OC」の組み合わせを口にする予定が冒頭からあるわけです。

 He made me ですと、ここで言葉を打ち切ること自体が不自然なので、話者が冒頭から「me + angry」というOCを文に組み込む予定をもって「made」を使っていると理解できるでしょう。

 
言葉による情報伝達は常に冒頭部分から順次伝えられていきますが、すでに聞こえてきた情報が何を意味するのかについての判断は、述語動詞だけからはまだ最終的な決断が下せず、さらに次にどんな目的語が来るのか、そのあと補語が続くのかまでまたなければならないということになります。

I made

 とだけ聞こえて来た時点では「『私』が何かを作った」という意味の言葉になるのか、「誰かに何かを作ってあげた」になるのか、あるいは「OC」と続いて「誰か(何か)を~にした」となるのかはわかりません。
しかし聞き手側としても、それら複数の可能性をあらかじめ理解しており、次の言葉が順次現れるにつれ、それら複数の可能性から徐々に意味を絞り込んでいくように言葉を聴いています。

 基本としてわずか5種類の文型に十分習熟するだけでも、そういう言葉の展開に対する適切な予測をする能力が身につきます。すべての英文を例外なく5文型のどれかに当てはめようとすることはよくありませんが、5種類の典型的なパターンの理解は文章の構造を正確に把握し、話者の意図を正しく理解するうえで極めて重要です。特に中学から高校初級段階では、第1から第5までの典型的な例文をしっかり口に慣らしておくことは、読む力だけでなく、聞き取る力や話す力、そして書く力の基礎的な裏づけになります。英文の基本構造を知ることで、自分が書いている英文が「意味として成り立ち、相手に伝わるのか」を客観的に分析することもできます。

 常に文全体での意味を考えてください。前後関係や話の流れなども踏まえて話者の意図を汲み取る必要があります。

 上の2つの文は意味を考えなければ同じ構造であるかのようにも見えますが、(1)の「hard」は「熱心に」という意味の副詞であり、述語動詞 studied を修飾するものです。文型としてはSVOです。
 それに対して(2)は「その卵を固くゆでた」であり、こちらの「hard」は「固い」という意味の形容詞。そして「the egg was hard」という関係が組み込まれており、文としてはSVOCです。(1)では「English was hard」の意味は組み込まれていません。

 SVOCは「OがCであるようにVする」、「Oに対してVした結果Cにする」などの意味を表すもので、文の冒頭から話者は「OとCの関係」を表現する予定を持っています。CはSVOへの単なる追加ではないのです。
その点(1)の例文は「He studied English」で1つの事実が完結しており、それに対する「補足・追加情報」として「hard(熱心に)」が付け加えられています。

 (2)の「hard」は和訳だけから考えてしまうと「固く茹でた」であり、副詞に感じてしまう人もいるかも知れません。しかし「固く」は「茹でる」という行為を修飾するものではなく「茹でられた卵」の状態を表します。つまり「その卵が固くなるように茹でた」と言いまわすことも可能です。

 (1)は study を「勉強する」という自動詞にして「He studied hard.」ということもできます。hardがstudyを修飾しているからこそ、これでも文が成り立ちます。
(2)で「the egg」を取り除いてしまうと「He boiled hard」となってしまい、「hard な姿勢や様子でboil した」では意味が通じません。

 繰り返しますが、SVOCのCは「目的格補語」であり、「O」がどうであるかを表します。OとCの間に「主語と述語」の関係があります。その点「SVO+副詞」の副詞はV(述語動詞)の様子を描写するものであり、Oについては何も述べていません。

 ここまで品詞の章を順に読み進められ、英語の8品詞の区別がしっかりできるようになった方であれば、この2つの例文に含まれる hard も説明不要なほど明確に違いが理解できることでしょう。もし今の時点でこの(1)と(2)の例文について文型の区別に不安があったり、hard の働きの違いが十分に納得できない場合は、是非品詞の復習(特に形容詞と副詞)を行ってください。

 感覚的に慣れるためにもさらにいくつか第5文型の典型的な例文を示しておくことにします:

She named her baby Princess.
彼女は赤ん坊を Princess と名づけた。

We selected Peter chairman.
私たちはピーターを議長に選んだ。

Don't leave the door open.
ドアを開けっ放しにしないでください。

Please keep the door closed.
ドアを閉めたままにしておいてください。

He painted the wall green.
彼は壁を緑色に塗った。

She dyed her hair brown.
彼女は髪を茶色に染めた。

I washed the dish clean.
私は皿を綺麗に洗った。


 練習として次の手順を踏んでください。

  1. 文に含まれる単語それぞれを正確に発音できるようまず確認する。
  2. S,V,O,Cの単位がどれに当たるのか文の意味を参考にして確認する。
  3. 数回ゆっくりと文を音読する。単に文字、単語を読み上げるのではなく、「意味を読んでいる」意識を持って音読する。
  4. 口が慣れたら、原文を見ないで数回英文を口にする。その際も「意味を読む」意識をしっかりと持つこと。これは「和訳を思い浮かべながら読む」ということではなく、自分が口にしようとしている「事実そのもの」をイメージしながら、それを英語によって直接表現しているのだという自覚を持つことです。
  5. 特にOとCについて「OがCであるように」という主語述語の関係を感じつつ、その箇所を発音するようにしてください。

 何か文法事項を学んだら、それを知識にとどめておくのではなく、すぐにそれを使った練習を行ってください。文法学習は訓練の指針です。指針だけいくら学んでも肝心の訓練を行わない限り技能は身につかないのです。



前の項目へ もくじに戻る 次の項目へ

277. 第5文型ではない「S,V,O,C」を含む文

 すでにここまでで5種類の文型について基礎的なものはすべて見てきました。
 これまでの理解の上に、もう少し応用的な例を見ていくことにしましょう。

 第2文型の中で現在分詞が「~しながら」を表す補語として用いられている例があったのを覚えていますでしょうか。

She stood smiling. 彼女は微笑みながら立っていた。

 この「~しながら」の意味を表す補語はSVOに続いても現れます。

I watched the drama crying. 私は泣きながらそのドラマを見た。

 この文は要素として「S、V、O、C」を含んではいますが、「SVOC」の第5文型ではありません。

 第5文型の「C」は「目的格補語」であり、目的格との間に「主語と述語」の関係を持つものでしたね。しかし、今回の例文の「crying」は「drama」とは主語・述語の関係を持っておらず、文の主語である「I」との間にその関係があります。つまり文の要素として

主語+完全他動詞+直接目的語+擬似主格補語

 という特殊な構成になっています。述語動詞が完全他動詞なのですから本来そのあとに補語は必要としません。なくても「I watched the drama.」は完全な文です。ですから最後の擬似主格補語は「必須要素」としてそこにあるのではなく、「補語を追加することにより主語の状態をより詳細に描写する」ものです。

 この文は「SVC」と「SVO」が重なってできたような構造になっており、5種類の文型の基礎理解があって正しく解釈されるものではありますが、どの文型にも属しません。要素として「S、V、O、C」を含んでいるということだけから第5文型だと思い込まないようにしてください。

 同じように「主格補語」が追加された「SVOとSVCの2重構文」としては次のようなものがあります。

(a) She left the room happy. 彼女は幸せな気分で部屋を出て行った。

 この「happy」は叙述形容詞であり、「She was happy」の補語にあたる部分です。

(b) She left the room happily. 彼女は嬉しそうに部屋を去っていった。

 こちらは「SVO+副詞」であり、第3文型に修飾語が追加されているだけのもの。happily は述語動詞である「left」を修飾しており「去っていく様が楽しそうだった」ことを意味します。
 (a)の文は例えば彼女が部屋にいたとき何かよい知らせが入り、その時点で彼女は「happy」な気分になり、その状態で部屋を出て行ったということです。
 (b)では「happily」が「left」の説明をしているわけですから「出て行くときの様子がうきうきしていた」とか傍目に見て楽しそうだったなどの意味であり、彼女本人が実際に happy だったのかどうかは別問題です。(実際にそうだからそう見えたのかも知れませんし、第3者が見た印象と本人の気持ちが一致していなかったかも知れません。)

 (a) は「She was happy」と「She left the room.」の2つの英文に分けることが可能ですが、(b) では「She was happily」とはできないという大きな違いがあります。また擬似主格補語は直前に「being」を補うことができます。

He reached the destination tired. 彼はくたくたになって目的地に到着した。

 これも「He reached the destination.」というSVO型と「He was tired」というSVC型が重なってできた文です。最後の「tired」を「being tired」とすることもできますので、「tired」は主格補語です。

 
I gave him my computer brand-new. 私は彼に自分のコンピュータを新品状態であげた。

 なんと今度は「S+V+O+O」にさらに「C」までつながっています。要素としては「SVOOC」です。これも理解としてはSVOO(第4文型)」と「SVOC(第5文型)」が重なったものと考えてください。つまり「私は彼にコンピュータをあげた」というSVOOと「私はコンピュータを新品であげた」という「SVOC」が重ねあわされた構造になっています。最後の「C」は「my computer = brand-new」の関係を成り立たせていますので「目的格補語」ということになります。

 このように5種類の基本を十分理解すれば、その変形や応用となっているパターンに出会っても意味の解釈にはそれほど悩まされることはないはずです。大切なことは「基本5文型というのは、もっとも典型的な代表パターンであり、すべての英文がもれなくこのどれかにきちんと当てはまるわけではない」ということを念頭に置きながら、文型の理解を基本として文の「各部分」の構造を適切に把握することです。



前の項目へ もくじに戻る 次の項目へ

278. 使役動詞の構文

 第5文型の基本としては「C」に名詞形容詞が来ると覚えておいて構いません。
 しかし、OCの間に「主語と述語」の関係が成り立っていることを踏まえると次のような英文も第5文型に含めて考えることができます。

Mother made me stay home all day long. 母は私を一日中家にいさせた。

 この文で「me」と「stay」の間には「私がいる/いた」という主語・述語の関係があります。「stay」は動詞の原形であり名詞でも形容詞でもないのですが、このような文も第5文型と見なすことができます。ただし「典型」ではないのであえて5文型に含めてしまわず、こういう構文もあるのだと別に考えることも間違ってはいません。(少なくとも中学高校の試験で文型判定の問題として取り上げるのは慎重に避けるべきかと思います。)
 ここでは便宜上、SVOCとして扱いながら説明を進めることにしましょう。

 さて「make, let, have」などはいずれも「誰かに何かをさせる」という構文に用いることができ、そういう動詞を「使役動詞」と呼びます。特徴的にCの位置に「原形不定詞」が来ます。

 同じ「させる」ではあっても「make」には「強制」のニュアンスが、「let」には「許可・放置」のニュアンスがあります。「have」については用いられ方によって「依頼」や「恩恵」のニュアンスになることもあれば逆に「被害」の意味を表すこともあります。

Mother made me stay home. いやがる私を無理やり家にいさせた
Mother let me stay home. 私の希望通りに家にいさせてくれた
Mother had me stay home. 母が「家にいてね」と私に頼んだので私は家にいた。

 「make」は本来「作る」という意味の動詞ですので、「積極的に働きかけて作らなければその形になりません」。その積極的な働きかけが「強制」のニュアンスにつながります

 「let」はこちらから特に何の働きかけもしないで自然にそうなってしまうままにまかせる意味合いを持っており、だから「相手の希望通りにさせる」という「許可」のニュアンスや、「自然の成り行きにまかせておく」という「放置」のニュアンスにつながるわけです。

 積極的に無理やりにでもそうさせるわけではなく、かといって相手の希望を許可するとか放置した結果そうさせるというわけでもない場合、「have」が広く活躍します。上記例文だと母親が外出する用事があって、母の留守中に宅配便が届く予定があるので「私」に家にいてくれるよう頼んだなどの前後関係があてはまります。強制というわけでもなければ、家にいたがる私の望みを許可したというわけでもありません。

Teacher had the students read the textbook aloud. 先生は生徒たちに教科書を音読させた。

 このように授業の中でクラスの生徒全員に教科書を音読させたという場合も、強制や許可ではしっくりきませんが、have なら自然です。もちろん「嫌がる生徒たちに無理やり」と言いたいなら made、「読ませて欲しいと懇願する生徒たちに許可」したのなら let を使うことも可能です。

 「have」は「持つ、持っている」が本来の意味ですから、使役動詞として用いた場合、「理由に関係なく、ある事実を持つ」ことを意味します。誰かに依頼した結果かも知れませんし、頼んでもいないのに結果的にそうなったのかも知れません。だからその結果に対して「ありがたい」と思えるなら「してもらった」ですし、「ありがたくない」のなら「された」と被害的ニュアンスの日本語が当てはまります。感謝も被害も感じない場合だってあるでしょう。

I had my father cut my hair. ( = I had my hair cut by my father.)
父親に髪を切ってもらった。

 この「もらった」は必ずしも感謝の意味合いとは限りません。その場合もありますが、ただ単に「父が私の髪を切った」という事実があったと特別なニュアンス抜きで述べていることが多いでしょう。

I had someone steal my wallet. ( = I had my wallet stolen by someone.)

 こちらは事実として「誰かが私の財布を盗む」ですから被害のニュアンスを感じるのが普通です。誰も人に頼んで「盗んでいただく」人はいないでしょうからね(笑)。

 このように使役動詞「have」は特別な固定的ニュアンスのないニュートラルな使役動詞です。だからそこに描かれている事実内容や前後関係に応じて「してもらう」や「される」という適切な意味を感じ分けてください。

 「誰かに頼んで何かをしてもらう」という言い方なら「ask 人 to do」という形式が思い浮かぶかも知れません。また「命令して何かをさせる」という意味を「tell 人 to do」で表せることを知っている人もいることでしょう。こちらの構文では「to do」という「to不定詞」が来るのに、先の「make, let, have」を使役動詞にしたときは「原形不定詞(toなし不定詞)」が来ました。なぜでしょう?

 こういうことについて「そう決まっているから」と教えるのは学習者の深い思考をストップさせてしまうものであり、学習者側としてもそれで納得するべきではないのです。こういうことこそ「なぜ?」を考えることで英語の感覚が身につきます。

 これは「不定詞」の項目の中でもまた説明しようと思っていますが、今回の使役動詞の性質とも非常に深く関わる問題なのでここでもお話をしたいと思います。
 「不定詞」というのは一言でいえば「動詞が原形のまま文の中で用いられるもの」のことです。つまり「Come here.」と命令文で使われる動詞の原形も不定詞の1つですし、文語の仮定法現在で「If it rain tomorrow」と言うときの「主語の人称・数に関係なく原形が持ちいられる」述語も不定詞です。
 ここでは使役動詞が述語になって「SVOC」を構成するとき「C」の位置に来る動詞が原形であることを指します。動詞が原形のままで文中に用いられるときというのは、もともと古い英語では動詞を名詞化する方法の1つでした。つまり不定詞というのは動詞を臨時に名詞扱いするものが発端なのです。だからこそ前置詞の「to」と結びついた「to do」という形も生まれたわけですね。

 「to do」は、そういう英語の歴史を踏まえると「~することに向かって」と直訳できます。
ask tell のように「SVOC」の「C」の位置に「to不定詞」を取る場合と、make, let, have のように「C」の位置に「原形不定詞」を取る場合とではどういう違いがあるのでしょうか?

Mother had me stay home.
Mother asked me to stay home.

 「have」を使役にしている上の例文では「母が頼んだので『私は家にいた』」という事実までを意味に含みます。つまり

Mother had< I stayed home><私が家にいた>という事実を母は持った

 という意味上の構成となっています。このように事実の達成」まで意味に含むのが「原形不定詞です。

 一方、「ask」を使って「するように頼んだ」という下の文の場合、この文から分かるのは「母が頼んだ」という事実まで。その結果、私が母の言うとおり家にいたのかどうかまでを意味に含んでいません。だからこそ、「to stay」すなわち「(家に)いる方向へ向けて」と表現されているのです。母が頼んだのは、「私が家にいる方向に向かって」のことですが、結果的にその方向に完全に事態が進んだのかまでは表現されていないのです。

Mother made me stay home.
Mother told me to stay home.

 こちらも同様に理解できます。「made」は目的格補語として原形不定詞「staty」を導いており、それは

Mother made<I stayed home><私が家にいた>という事実を母は作り出した

 という意味を表すものです。
それに対して「tell」を使った表現では「私が家にいるように命じた=<私が家にいる>という方向に向かうように命じた」であり、「told(命じた)」という事実は述べられていますが、その命令を受けて私が実際に家にいたかどうかまでを意味に含んでいません。

 少し変わった使役動詞として「help」があります。使役に用いた場合、「手助けして~『させる』」という意味を表します。

I helped my sister solve the problem. 

 妹が宿題をしているのを助けてやったというような文脈を考えてください。
C」として「solve(原形不定詞)」が来ているということから、「私が手助けした結果として妹は問題を解いた」というところまでの事実を含んでいます。

 日本語だと「私は妹が問題を解くのを手伝ったが、結局妹は問題が解けなかった」と言っても自然な言葉に聞こえますが、英語で次のようには言えません。

I helped my sister solve the problem, but she could not solve it.

 これは「私が手助けして妹は問題を解いたのだが、解けなかった」という矛盾した事実を表してしまいます。「手伝いはしたが、結局できなかった」といいたいのなら、

I tried to help my sister solve the problem, but she could not solve it.

 と「try to」を「help」の前にはさみ、「helpしようとした」と表現するのが適切です。この「try to help」にも「to help」という「to不定詞」が使われていますね?つまり「妹に問題を解かせる方向へと努力はしてみた」というところまでの意味にとどめているからです。

 さて「help」を辞書で引いてみると「help 人 (to) do」というふうに「to」があってもよいという書き方をしているかも知れません。
この help は古い使い方では「help 人 to do」と「to不定詞」をあとに従えたものでした。つまり以前は「助けた結果ちゃんとできた」までの事実を含まないものだったのですが、習慣的に「行為の達成」までを意味に含む使い方が一般化して、それにともない「to」が脱落しました。「to」があってもなくても「どちらでもよい」のではないのです。はっきり言えば「現代英語では常に原形不定詞のみを従えます」。あとに「to do」を従えるのはもう古い英語です。

 help の意味を「助ける」と覚えている人も多いのではないかと思いますが、もともと、この単語は「(邪魔物を)どける、取り除いてやる、避ける」という意味が中心でした。相手にとって邪魔なものをどけてやることで相手は前に進めることから「助ける、手助けする」の意味へと発展したものです。
 「邪魔者をどける、避ける」という help 本来の意味は、現代英語でも慣用表現の中に生き残っています。

It can't be helped. しょうがないね。

 これは help 本来の意味によって表現されたものであり、直訳的には「それは回避しようがないね」であり、そこから「しょうがない、仕方ない」という意味になっています。

最初の「make, let, have」に加えて現代英語では、この「help」も完全に使役動詞として加えてよいと思います。

make 人 do:強制的に(人に)させる
let 人 do:許可、放置によって(人に)させる
have 人 do:[ニュアンスは文脈依存] (人に)してもらう、される
help 人 do:手助けすることによって(人に)させる

 使役動詞に近いものに「get」があります。これは常に「to不定詞」のみを従えますので厳密には「行為の達成」までを意味できないところなのですが、「get」という動詞そのものに「主語の積極性」を強く感じるため、「have」の方が get より間接的な響きを感じることが多くあります。

I got the boy to carry my luggages to my room.
ボーイに部屋まで荷物を運ばせた(運んでもらった)。

 これは事実上

I had the boy carry my luggages to my room.

 とかわりません。むしろ get を使った方が、自分から直接ボーイに声をかけて荷物を運ばせたという、主語の積極的働きかけのニュアンスが感じられます。had は(結果的にそういう事実を「持った」という意味ですので) got に比べると自ら直接声をかけたという積極性が言葉に出ておらず、ボーイ側からの申し出に対して、そのようにしてもらったとか、フロントにお願いして間接的にボーイが荷物を運んだなどの意味まで広く含みます。

 このようなニュアンスの違いは「have」が「手の上に物を乗せているだけ」の「持つ、持っている」という意味合いであるのに対して、「get」は「こちらから手を伸ばしてつかまえる」とか「手に入れる」という主語の積極行動を感じさせる動詞であるところから来ています。

getは補語に「to不定詞」を従えるため、使役動詞とは呼べないのですが、現実の用例としては「使役」と呼んでよい使われ方(結果事実の達成まで意味に含んでいる)がされますので、上記4つの使役動詞に添えて覚えておくべきでしょう。

 あと本来使役動詞のSVOCで「C」には動詞原形が来るべきところ、動詞を省いた結果の副詞だけが残ることがあります。

Let me in. 私を中に入れてください。
Let me out.  私を外に出させてください。
Let me through. 通してください。(満員電車で降りようとするときなど)

 これらは副詞の直前に「go, come, move」など移動を表す動詞がもともとあったものが省略・脱落したと考えればよいでしょう。in, out, through など、その副詞それ自体に「動き」を直感的にイメージできるところから動詞が省かれてしまった結果の表現です。

 使役動詞を使ったSVOCの構文で「C」に他動詞の過去分詞を叙述形容詞として置く表現もあります。

I had/got the cake cut into halves.
そのケーキを半分に切ってもらった。(半分に切られた状態にさせた)
<この「cut」は過去分詞

 この場合、OとCの間には「受動態の主語と述語」という関係があります。

I had/got<the cake was cut into halves>.

 make によって「なんとか無理やりそういう結果にさせた」という意味は表せますが、この構文に「let」は使えません。

 放置した結果そうなったという場合は「leave」を使います。

I left the door open. ドアを開けっ放しにした。
I left the question untouched. その問題にはあえて触れずにおいた。

 実は英語ネイティブの中には、これらの構文の理論的背景を知らないまま「leave」と「let」を混同している人が多くいます。つまり let であるべきところに leave を使ったり、その逆だったりという実例にしばしば出会うことがありますが、これはあくまでも俗語的であり無教養な英語の一種ですので真似しないようにしてください。

I left him go. 彼に行かせた。(彼が行くのを放っておいた)
<正しくは「I let him go.」

 let といえば「Let's go.(行きましょう)」の言い方を誰でも知っていると思いますが、この「let's」は「let us」の短縮形です。短縮しない形で書けば、

Let us go.

 であり、短縮形を原則的に書かない文語(書き言葉)ではこう書きますが、読み上げるときは「let us」と書かれていても「let's」と発音してしまって構いません。

 ただし「Let us go.」の「us」が聞き手を含んでいる「私たち」なのか、聞き手を含んでいない「私たち」なのかは文脈から区別しなければならず、後者の場合は「Let's」と短縮できません。

 つまり聞き手を含めて、「一緒に行きましょう」と言っているのであれば「Let us go.」は「Let's go.」でよいのですが、例えばおとぎ話の中でさらわれたお姫様を助け出しにいくため勇者3人が王様に向かって「Let us go.」と言っているような場面では「us」に王様は含まれませんので「私たち3人に行かせてください」の意味ですから「Let's go.」と短縮して発音してはいけません。




前の項目へ もくじに戻る 次の項目へ

inserted by FC2 system