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265.構文

 英単語1つ1つの意味が分かっていても、それらをどのように配列することで意味の通る文になるかが分かっていなければ自分の言いたいことは相手に正しく伝わりません。
 これまで「品詞」という単語が文の中で果たす働きの種類について見てきましたが、ここからは意味の通った文章がどのような語順で成り立っているのかを中心に見ていくことになります。

 構文を学ぶ目的は「書かれている英文をどうやって和訳するか」を知ることにあるのではありません。この目的意識を最初に正しく明確にもって臨むことは極めて重要です。英語を学ぶとは「英語が使えるようになる」ことを目指すことです。そして「使える」とは、受動的立場で「音声という実体における英語表現を耳から聞いて、相手の意図を的確に理解する」ことであり、能動的立場で「自らが相手に理解してもらえる順序で英単語を口にできるようになる」ことです。

 最初に日本文を用意してそれを英文に転換するのではないのです。英語話者たちはそんなことをしていませんよね?ということは日本人である私たちであっても「英語が使えるようになる」とは英語話者たちと同様に「最初からいきなり英文が口につく」べきなのであり、自分の言いたいことを先ず日本語で用意しなければ英語にもできないのでは現実の音声会話は行えません。

 英語が話せる人というのは「頭に思い浮かんだ日本語を超高速で英訳している」のではないのです。
 日本人が日本語を話すとき、無意識のうちに瞬間瞬間に思い浮かんだ言葉を口にし続け、結果的に日本語として意味の通った語順となっています。私たちにそれができているのは日本語の言語習慣というものを身に付けているからです。

 同様に英文法を学ぶのは、英語の言語習慣をどうすれば身に付けられるかを知るためなのです。頭のチャンネルを日本語から英語に切り替えた瞬間、その習慣に従ってその都度思い浮かんだ単語を口にしていくだけでちゃんと正しい英文になればよいわけです。品詞を学んだのも、これから構文を学ぶのも、そういう英語の言語習慣をどうすれば身に付けられるのかを知るためであり、どんな訓練をつめばその感覚が身につくのかを具体的に示すのがこの解説の目的です。

 日本人として長年生きて来た私たちの頭の中には「日本語」という文化、言葉のチャンネルがすでに存在します。ですからそれとはまた別に「英語」という文化、言葉のチャンネルを新たに構築していくのです。あなたが英語を聞き取ったり話したりするとき、頭の中のチャンネルを切り替えるだけでストレスなくリアルタイムに英語話者に変身するのです。

 目指すのはあくまでも「実技の習得」ですから理論・知識を正しくふまえつつも、一番大切なのは練習、訓練です。「分かった」だけで満足してはいけません。「できるようになった」と自覚されるまで実際に音声を出して訓練を重ねてください。
 そして「できるようになった」あとは理論は忘れてよいのです。言語技能の習得はスポーツと同じです。初歩的段階では理屈を学び、なぜそうするのかを納得する必要がありますが、その次の段階では実際に体を動かし、反復練習を通じて半ば無意識に、とっさに体が適切な反応をするようになっていかなければなりません。

 文法を学ぶのは自らの頭の中に「新たな神経回路を構築する」ためであり、スポーツでいえば実践以前の段階として、正しいフォームを「素振り」によって身に付けるためです。くどいほど何度も繰り返し「英語を学ぶ」ことの意味を具体的に説明、強調しなければならないのは、それだけ多くの学習者が「根本的勘違い」をしているからです。その勘違いを是正しないうちは英語学習が「和訳テクニック」という極めて非効率で実用性に乏しいものに終わってしまうのです。

 日本の学校英語を通じてでも学習者の構え1つ違えば非常に高度な技能を身に付けられるようになるものなのです。
 また教える立場にある方は、「英語を教える」というのは学習者の技能開発をすることなのであり、「どう和訳するか」を教えることが目的ではないことを肝に銘じてください。英語教員というのは「スポーツ理論の解説者」なのではなく「スポーツ技能のコーチ」であるべきなのです。



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266.基本文型

 単語を学んでも、それをどういう順序で口にしていけばいいのかが分からないと意味の通った英文を発信することはできません。英語という言語文化を共有している人たちはいったいどんな習慣に基づいて単語を思い浮かべ続けているのでしょうか。それを知り、自らの感覚として取り込むための指針を与えてくれるのが「基本文型」です。

 無数に存在する様々な英文について特定の着眼点に基づいて分類したものが文型であり、中学から習う「英語の基本5文型」というのは特に「述語動詞」の機能によって分類する考え方です。すべての英文が例外なく、たった5種類のパターンに収まるというわけではありませんが、構文の基礎理解としては非常に有効なものだといえるでしょう。

 細かい説明はあとからじっくり行いますが、先にその5種類のパターンというものを見てみましょう。

第1文型:S+V
第2文型:S+VC
第3文型:S+VO
第4文型:S+VOO
第5文型:S+VOC

 文型では「S、V、C、O」という4種類の記号が用いられますが、ざっと全体を見渡してみてすぐ気づくのはすべてに共通して「S+V」が最初にあるということですね。そのあと何もなかったり、C が続いていたり、O が来たり、その両方があったりはしますが、「 S、V 」という記号を含まない文型はありません。

 この「 S 」の記号は「 Subject 」の頭文字であり、すなわち「主語」のことです。主語は単語1語で現れることもあれば、句や節で現れることもありますが、いずれの場合もその英文の「主人公」を明示する言葉です。日本語の「~は、~が」に当たることが多いですが、常に「は、が」で捉えればよいのではありません。そもそも日本人である私たちは日本語の文型など習ったこともないため「は、が」がどんな働きをしているかも十分に理解しておらず、「主語」という概念すら「なんとなく分かった気になっている」に過ぎません。

 英語の習慣として言葉の先頭に「何が、誰が」に相当する情報が来ます。その習慣を話者と聞き手が共有していますので、聞き手は「何が、誰が」を伝える情報が先ず与えられることを期待して耳を傾けるのです。言い換えれば「主語」情報を先ず欲しがる気持ちを持っており、「主語」情報が先ず聞こえてくるだろうという「予測」で構えているのです。これは同じ言語習慣を共有しているからこそ、「自分が物を言うときそうしている言葉の伝達順序を相手も守ってくるだろう」という前提があるからです。そういう前提を話者と聞き手の双方が共通して持っていなければコミュニケーションはまったく成り立ちません。

 現実の言葉のやり取りでは、聞き手の予測・期待通りに「主語」が先ず伝わってくることもあれば、その予測・期待が裏切られることもあります。予測・期待通りであれば、聞き手はその時点で「納得」し、さらに次に続くはずの情報に対しての予測に移ります。しかし主語が聞こえてくると思っていたのにそうではない情報が冒頭から注ぎ込まれた場合は、それに対して「意外」な気持ちを抱きます。その意外な印象は伝えられてくる英文が「通常のもの」ではなく、疑問や命令など「特別な意味合い」であることを理解させるのですが、これは応用になりますので、先ずは最も基本的な「平叙文(普通に「何がどうした」という情報を伝える文)」が伝達される場合を見ていく必要があります。

 冒頭で「何が、誰が」に当たる情報が伝えられたら、その次に現れるのが「結論」です。英語という言語は、できるだけ早い時点で、「肯定なのか否定なのか」、「するのかしないのか」、「現在なのか過去なのか未来なのか」など、伝達される情報内容についての「白黒」をはっきりさせてしまいたい習慣を持ちます。これは日本語と大きく違う点であり、日本語の習慣は文の最後の最後にならないと結論が現れません。

 ということは日本人が英語を話したり、英語に耳を傾けるときは、英語話者に共通している「何が、誰が」→「結論」という順序による情報伝達習慣を自分の中にも持てばよいのです。英単語を全く使わず日本語のままでも、この順序で情報をとっさに思い浮かべてみる練習が英語的発想を取り込む下準備になります。

 日ごろ、主語を口にしないでも日本語として自然な表現になっているところを「先ず主語を省かずはっきり口にする」ことからはじめ、その直後に最も結論的な言葉を端的に口にしてみることで、英語を話すときや聞き取るときの「心の構え方」が分かってきます。たとえば「昨日テレビを風呂上りに見たんだけど、、」というような日本語になるところを「私は、見た」という2つの情報を真っ先に口にしてから、それではまだ足りない部分を後で順次追加していくという「言葉の思い浮かべ方」を試してみることです。そういう言葉の思い浮かべ方を英語話者たちは習慣としているのです。

 そこまでの要領がわかったら、英単語でも同じことをやってみます。
 「主語( Subject )」として「 I, we, you, he, she...」などをとりあえず後のことを考えずに口にしてみて、それから(実際には主語を口にしながら)その直後に言うべき結論を考えます。その結論となる言葉としては「go, eat, have...」など動詞なら何でも構いません。(主語や時制に合わせた形をとっさに用いられれば理想的ですが、初歩訓練としてはそれにこだわらなくても構いません。)

 英語感覚の練習という観点からいうと、ポイントとなるのは「見た」だけを口にすることであり、そのとき「テレビを見た」と口にしてしまうとそれは英語習慣ではありません。「テレビを」は「見た」の後に続く追加情報であり、結論の伝達ではまだ現れない言葉なのですが、このあたり日本語習慣になじみきった発想からの脱却は案外難しいものです。

 英語で結論を伝える「述語」になれるのは「動詞( Verb )」だけです。文型の「 V 」はこの Verb の頭文字を意味しますが、8品詞の中の1つの名称を文型の「主語」に対する「述語」の意味に用いるのは混乱を招きやすく、事実、そういう混乱に起因した疑問、質問があふれています。

 単語の「品詞」を言う場合は「名詞、代名詞、動詞、形容詞、副詞、前置詞、接続詞、間投詞」という名称でよいのですが、文型の SV を指すときは「主語」、「述語」と言葉を分けることを強くお勧めします。文型の「 V 」という記号にしても本当は「 predicate Verb」というのが省略のない正式な言い方です。「述語には動詞しかなれない」という理由から V が述語を意味する記号になってはいるのですが、文型の部品(「文の要素」といいますが)を指すときは「主語」に対して「述語動詞」と省略のない名称を用いるか略して言うなら「述語」と呼んでください。これは学習者側以上に教える側に立つ人に、特に強く求めたい習慣です。教員側が無頓着に「主語と動詞」なんていう言葉づかいを日ごろからしていると習う側も概念の混乱を来たします。教員は用語の使用について厳密であるべきであり、慎重に「主語と述語」という言葉を用いてください。

 さて「主語」と「述語」が英語情報で最初に伝えられることが理解できたら、「そのあとはどう続くのか?」のお話に入っていきましょう。



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267. 動詞の種類

 なぜ基本文型には5つあるのか?  それは文型というのが、述語として用いられる動詞の種類に基づいているからです。

 文型の理解で最も大切なのが「自動詞 (vi.=intransitive verb)」と「他動詞 (vt.=transitive verb)」の区別です。「自分」と「他人」の1文字目である「自、他」が「動詞」とつながった言葉が自動詞、他動詞ですが、大雑把に説明すると「自分だけがいればできる動詞」と「他人(物も含む)がいないとその行為それ自体ができない動詞」に分けて考えます。

 例えば「眠る( sleep )」という動詞は「何もない部屋に自分ひとりだけ」がいても行うことができますね。しかし「叩く( hit )」という動詞は「叩く側」である自分と「叩かれる側」である相手の両方がそろわないと「叩く」こと自体ができません。このように動作の相手・対象がなくてもできる動詞を「自動詞」、相手・対象があってはじめて行うことのできる動詞を「他動詞」というと理解してください。これは初歩的な仮の理解にすぎないのですが、出発点としてはこの考え方は非常に有効です。

 そして動作の相手・対象を表す言葉を「目的語」といい、英語の「 Object 」の頭文字である「 O 」の記号によってそれを示します。

 英語の動詞に「自動詞」と「他動詞」があるのなら、文型は2つで済むはずですね。つまり「 S+V 」と「 S+V+O 」の「基本2文型」でいいじゃないかと思いたくなります。その考え方は決して間違っていません。事実、あらゆる文を「第1段階として2種類に分ける」のが文型の出発点ではあるのです。

 そして「第2段階」として「自動詞、他動詞」のそれぞれを「完全」と「不完全」に分けます。つまり「完全自動詞 ( Complete Intransitive Verb)不完全自動詞(Incomplete Intransitive Verb) 」、「完全他動詞 (Complete Transitive Verb)不完全他動詞 (Incomplete Transitive Verb) 」の4種類に分類することで文型は4種類に増えます。文型でいう「完全 (Complete)」や「不完全 (Incomplete)」が何を意味するかはあとで説明します。

 「あれ?全部で5つあるはずなのにまだ1つ足りない」と思いましたか?
 そうですね。5種類目の動詞は何かがまだ残っています。これは「完全他動詞」と呼ばれるタイプの動詞の中の「一部」について「授与動詞 (Benefactive Verb) あるいは二重目的語動詞 (Double-Object Verb)」という別名が与えられているものがあり、その授与動詞特有のパターンがあるため、それを追加してやっと5種類がそろうわけです。

 つまり5文型というのは、最初から5つに分けてあるのではなく、まず2種類に別れ、それがさらに2種類ずつに分かれることで4種類となり、最後に1種類が追加されて5種類となるわけです。すなわち横並びに5種類の動詞があるのではなく、図のような関係になっています。

 このように最終的に動詞を5つのタイプに分け、それぞれのタイプごとに独自のパターンの文を作ることから「基本5文型」が説明されるわけです。


 自動詞と他動詞の違いについてはごく大雑把な説明ながら上で述べましたので、それらを更に2つに分けている「完全」と「不完全」の違いについて、やはり大雑把な説明をしておきます。細かいところは各文型の解説で説明しますので今は全体的方針を理解する程度で構いません。

 文型の記号には「S(主語)、V(述語)」のほか「 O 」と「 C 」が見えますね。
 そしてこれもすぐ気づくことですが、「自動詞」の文型には「 O 」がありません。ということは「 O 」がなければ自動詞、「 O 」があったら他動詞と言ってよいわけです。この「 O 」は「Object(目的語)」という意味の記号ですが、動作の相手・対象を示す言葉でしたね。
 動詞全体を「自動詞」と「他動詞」の2種類に大別すると「 S+V 」と「 S+V+O 」の2つの文型に分けることができます。それをさらに「完全」と「不完全」に細分するのですが、ここで「CComplement:補語)」という記号が登場します。つまり「 C まで必要な動詞」が「不完全」なわけです。

 だから

S+V(完全自動詞
S+V(不完全自動詞)+C

S+V(完全他動詞)+O
S+V(不完全他動詞)+OC

 となります。

1、「O」がなければ自動詞、あったら他動詞。
2、自動詞なら「O」は来ない。「O」が来たらそれは他動詞
3、「C」がなければ完全、あったら不完全。
4、完全であれば「C」は来ない。「C」が来たらそれは不完全

 そして最後に

5、完全他動詞の中の一部の動詞は「授与動詞」 という別名があり、独自の文型を取る。

それが

S+V(授与動詞)+O+O

 です。「C」はどこにもありませんから「完全他動詞」の一種であることが伺えますね。授与動詞であれば、それはすべて完全他動詞ですが、完全他動詞が常に授与動詞であるとは限りません。

 さて先に文型の解説で必ず出てくる用語を軽くさらったところで、個々の文型についての解説に進むことにしましょう。



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