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224、副詞の位置

225---(1)位置による意味の違いと基本的な考え方

 副詞というのは同じ修飾語である形容詞に比べても位置の自由度が高いといえますが、どこにでも好き勝手に置いてよいというわけではもちろんありません。文章が文頭から語順に従って伝達されていくとき、いつどのタイミングで副詞が現れるかによって聞き手としてその文章の意味が適切に理解されなければなりませんので、そういう「語順に従った情報伝達」の原理に則って、副詞の適切な位置や、位置の違いによる意味合いの差を理解することができるでしょう。

Unexpectedly, he took off his hat quickly.
意外なことに彼は帽子をすばやく脱いだ。

 この例文で「unexpectedly(予期しないことに)」、「off(分離して)」、「quickly(すばやく)」はすべて副詞ですが、それぞれが置かれている位置と意味には次のような関係があります。

 文頭主節と独立したような形で置かれる副詞(この場合 unexpectedly )は、「これから語る内容がどういうことがらであるか」をあらかじめ相手に伝え「聞く構え」を相手に促す効果があります。つまり「これからお話することは予想していなかったことなのですが」という前置きのような言葉です。

 副詞を独立的に文頭に置き、あらかじめ聞く人に話の方向性のようなものを伝えておくというのは、聞き手の頭の中にそのあとの情報が抵抗なくスムーズに注がれる効用があります。文頭に副詞が現れるということは、話者の脳裏にもその副詞が持つ意味、イメージが優先的に現れているということですが、同じ副詞が文末に置かれることもあります。

He took off his hat quickly unexpectely.

 そこに表されている事実は同じですが、言葉が現れる順序が違うことにより次のような意味合いが感じられます。

「彼はすばやく帽子を脱いだんだ。そんなことはまさか予想もしていなかったんだけどね」

 このように話者のイメージとして優先的に浮かんだ背景や事情をまず伝えて置く文頭副詞に対して、文末副詞は「すでに述べたことに追加・補足を行う」という機能の違いがあります。

 しかし、文頭における副詞が文末に置かれても、特定の語だけを中心に修飾しているというより、文の内容全体に対しての修飾が行われていると考えるべきです。

 その点、先の例文の quickly は「took off(脱いだ)」という動詞の「やり方、様態」を表す意味ですので、

He quickly took off his hat unexcpectedly.

と動詞の直前に置かれることはあっても、文頭にまで引っ張り出すときは強調構文としてSVの語順にも影響を与えます。

Quickly did he take off his hat.(副詞 quicklyが強調のため文頭に出た結果の倒置構文)

 動詞部分を中心に修飾する副詞をただ文頭に出してしまうと、文全体への修飾と感じられるため違和感が生まれます。

Quickly / he took off his hat unexpectely. 

 この語順ですと、quickly が修飾する相手としての勢力範囲は hat までであり、unexpectely は含まれません。なので読み方としても

Quickly / he took off his hat / -- unexpectedly.

とquickly の勢力範囲が終わったところで、明確な間が置かれます。つまり

[ quickly ( he took off his hat ) ] unexpectedly.

という修飾関係があるわけです。主節の意味全体を修飾する unexpectely は完全に外に出ており、だからこそ文頭にも文末にも置くことができます。

 もし unexpectedly を文中に置くとどうなるでしょう?

He unexpectedly took off his hat quickly.

 このように動詞と接近した位置にある副詞はその動詞の意味を詳細にするために修飾しているわけですから、「防止を脱いだことが意外だった」という事実を伝えることとなります。先の例文では「帽子をすばやく脱いだ」ことが意外だったのであり、「てっきり脱がないか、いやいやゆっくり脱ぐと思っていたのに」という予測が裏切られた事実を伝えますが、unexpectedly が動詞の直前にあると「脱いだ」ことに限って「意外だ」と感じていることになります。(もちろん、これは quickly の直前にどのような間があるかでも変わってきます。)

He took off his hat unexpectedly.

unexpectedlyが文末にありますが、今度は quickly がありません。quickly は unexpectedly より後には通常置けません。なぜなら「意外なことに帽子を脱いだ」という部分に対して「すばやく」を追加するのは情報順序として不自然だからです。「ためらいも見せずさっと帽子を脱いだ」ことが「意外だった」と伝えるなら自然です。もし上記文を口にしてしまったあとで話者が「その様子はゆっくりだった」と追加補足したいと感じたのなら

He took off his hat unexpectely ---- quickly.
彼はすばやく帽子を脱いだ。その様は実にすばやかった。

と、やはりここで間を置きたくなります。

 副詞の位置が修飾する相手の語に近接しているほど、その語との直接的な修飾・被修飾関係が明確になります。文頭や文末のように「文の重心位置」から離れるほど、特定の語だけに対する修飾ではなく、「一定の範囲についての修飾」と感じ取られます。

 しかし、全く同じ位置にあっても副詞が意味的に影響を及ぼす範囲に大きな差があることもあります。

(a) I don't love him because he is rich. 彼が金持ちだから愛しているわけではない。
(b) I don't love him(,) because he is rude.彼は無作法"なので愛していない

 上の文の「not」は「I love him because he is rich」まで全部について、その事実を否定するものです。つまり

NOT [ I love him because he is rich ] <I からrichまでが一気に読まれる

という関係にあります。事実として「I love him」なのであり、しかしその理由が because he is rich なのではないという意味です。

 一方、下の文は

(NOT [ I love him] )/ [ because he is rude ]

 であり、not の勢力範囲は becauseの前までです。勢力範囲の切れ目をコンマで明確にすることが誤読を回避する工夫として望ましいのですが、このコンマは必ずしも義務的なものではありません。(関係代名詞非制限用法の構文のようにコンマの有無が直接的に文全体の意味を左右するわけではないから)

 修飾関係を図示すると次のようになります:

事実としては「愛している」にも関わらず

I don't love him because he is rich.

で「I don't love」と主節が否定文になっているところが引っかかるかも知れません。もし「愛している」理由が「彼が金持ちだからじゃない」というのなら becauseの前に not を置けばいいと思うかも知れません。それはそれで正しい位置です。しかしそのような位置に not が来るときというのは

I love him(,) not because he is rich but because he is kind.

のように2つの理由を「AではなくBだから」と対比して用いるときの語順です。

I love him(,) not because he is rich.

で切ることもできますが、この場合でも暗黙のうちに「じゃあ何が理由なのか」があとに続いています。

 また上記 (a) (b) の2文の意味的な違いは、文脈前後関係の助けにより「話の流れから聞き手が自然な予測を持って耳を傾けている」という状況や、話者の読み方、文中の区切り方の違いによっても明確になります。逆に言えば読むときの区切り方を間違えば意味も違って伝わるということです。

 最終的な文の意味というのは決して構文や語順などの字面だけで伝わるものではありません。あくまでも「音声として伝達される姿」にこそ意味が込められているのであり、書き表された言葉には「どう音声化して理解すればよいか」を分かりやすくするための工夫が凝らされているのです。単語を覚え、文法を理解しても、「どう音声化するのが適切であるか」を正しく理解していなければ英文の意味を正しく理解・把握することはできません。


 以上を振り返って気づいていただきたいのは、副詞の位置というのは単純に文頭、文末、文中という前後的位置関係のみがその意味を左右するというより、「文の意味の内側にあるか外側にあるか」という「内外位置」の差が重要だということです。
 どの参考書を見ても副詞の位置についての説明は「どんな種類の副詞(文法用語による分類名称)が文頭だと、、、、文末だと、、文中だと、、」と機械的なルールによって意味の差が定められているかのような記述ばかりが目立ちます。様々な事例を分析・分類すれば確かに書かれている通りだといえますが、「英語が使える」ようになることを目指す学習者にとっては、暗記の負担を増すことはあっても肝心の「感覚的養成の指針」が見えてきません。

 書かれた英文も耳から入ってくる英語音声も、頭で理解しているに留まる知識を当てはめてその意味を理解するのではありません。最初は知識による理解を必ず通過しなければなりませんが、その理解が自らの感覚となるまで様々な例文を声に出して、どう読み上げればその英文を意味を適切に伝えることになるのかを模索しつつ練習してください。

 この解説では「文頭、文中、文末」のような場合わけで「どの副詞はどこに置かなければならない」というようなパズル解きのルールを羅列ことをしません。意味から考えてそれぞれの位置に現れるのが自然であると感じるようにしていただきたいのです。

 「いかなる英文であっても常に語順に従って情報は伝達されていく」という絶対唯一のルールを念頭に置いて考えれば、位置の違いによる意味合いの差も自然と理解されるはずです。



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226---(2)注意すべき位置

 副詞が英語で adverb であり語源的には「動詞に向かう=動詞を修飾する」言葉であることはすでに述べました。ここでは副詞が文の述語動詞部分と密接に関係している場合の位置関係について説明します。

 どんな物体にも「重心位置」というものがありますね。これはものの重さがあらゆる方向に対して均等に配置されるポイントであり、その重心位置を指先で支えれば、その物体は落下することなるバランスが取れるわけです。これは例えての話ですが、もし「文章」が物体であるとすれば「述語動詞」がその重心位置だとイメージできます。文章の腰であり、バランスポイントです。1つの文章がなんらかの意味を表すとき、この述語動詞が文全体の意味を最も大きく左右する重要部分だとも言えます。

 だから否定文では述語動詞を not で否定し、文章全体の意味が否定されるわけです。
 述語動詞というのは「定詞」です。つまり「主語と時制がその形に現れている」動詞ですが、「文法解説サンプル」のページでも書きましたとおり、述語動詞は「助動詞+原形動詞」が合体したり並んで置かれたりする構造になっています。

 述語動詞が現在形や過去形として1語であれば、基本的にその直前に副詞は置かれます。

I often play (the) piano. 私はピアノをよく(頻繁に)弾く
I really like music. 私は本当に音楽が好きだ

 述語動詞が「助動詞+本動詞の原形」に分離しているときはその間に挟まるのが標準位置ですが、意味によっては副詞が助動詞より前に出る場合もありますし、副詞が文末に移動した方が文意が汲み取りやすいこともあります。

I don't often play (the) piano. ピアノをしょっちゅう弾くわけではない。
I don't play (the) piano so often. 

I don't really like music.私はそれほど音楽が好きではない。
<「really like」を否定

I really don't like music.私は音楽が大嫌いだ。
<「don't like」を really が強調

 通常は助動詞の前に出ることのない頻度の副詞などでも、省略文の中では語調の関係で助動詞の前に置かれます。

Does he play (the) piano? / He often does.
彼はピアノを弾く?/(はい)よく弾くよ。

Can't he play (the) piano? / He really can't.
彼はピアノが弾けないの?/(そうなんだ)本当に弾けないんだよ。

You know the answer, don't you? / No, I honestly don't.
君は答えを知ってるんだろう?/いや、正直言って知らないんだ。

 自動詞はその前後のいずれにも副詞を伴うことがありますが、他動詞の場合は前に置きます。つまり他動詞と目的語の間に副詞が割り込むことはしません。(ただし副詞の前後にコンマを打つ挿入は別)

He hastily ran to school. 彼は急いで学校へ走って行った。
He ran hastily to school. 彼は急いで学校へ走って行った。

He strongly hit the wall. 彼は壁を強く叩いた。
He hit strongly the wall.* <この語順は取らない
He hit the wall strongly.  彼は壁を強く叩いた。

 「他動詞+副詞」の組み合わせであってもそれで「動詞句」を構成しているものについては次のいずれの語順も取ります。

He took off the hat. 彼は帽子を脱いだ。
He took the hat off. 彼は帽子を脱いだ。

 しかし目的語が代名詞のときは必ず「他動詞+目的語+副詞」の語順となり、目的語を間に挟みこむ形となります。これも語調の関係です。

He took it off. 彼はそれを脱いだ。
He took off it.* <この語順は取らない

 「自動詞+前置詞」の場合は、当然その間に目的語が割り込むことはあり得ませんが、前置詞と同形の副詞も多いので紛らわしいと感じたら、その動詞が自動詞なのか他動詞なのかを辞書で確認してください。

He got on the train. 彼は列車に乗り込んだ。
He got on it. 彼はそれに乗った。

 また副詞によっては特定の構文を構成し、決まった位置にしか現れないものもあります。

He was kind enough to show me the way. 彼は親切にも道案内をしてくれた。
<enough は修飾する語(形容詞か副詞)の後に置かれる

 用いられる位置について特有の「癖」を持つ副詞として else, alone, even などかなり多くのものがありますが、それらを逐一取り上げることは控えたいと思います。常に辞書で確認し、現実に用いられている例文を通じて慣れていただくのが最も近道です。



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