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021.発音解説の概略

 この章では、一般の英和辞典などで使われている英語の発音記号すべてについて解説する。
 発音記号を正しく読める(発音できる)ことは、一切の文法に先んじて基本中の基本となる最重要事項である。読めもしない単語、読んでも日本語のカタカナ発音で英語話者たちに通じない発音で読んでいる限り、英文に本来備わっている意味の再現にはならず、発音をおろそかにした学習は、外国語の習得とはとても呼ぶことはできない。

 英語を英語本来の発音で読めるということは、個々の音素(発音の最小単位)について正しい発音ができるということに加え、フレーズや文章を意味に応じた読み方で読めるということである。話者(Speaker)がなんらかの意味を相手に伝えたくて、音声によりそれを伝えようとすれば、その心理が文章などの読み方に反映される。つまり「言いたいこと」「音(発音)」には心理的な関係性がある。逆に言えば、不適切な読み方をすれば同じ英文であっても、意味が正しく伝わらないということだ。
 英語を書くとき、読む人が自分の意図を正しく汲み取ってくれるように単語を選び、語順や構文に注意を払う。それと同様に音声にして伝える場合にも、「読み方の文法」とでもいうべき法則性が観察されるのである。

 まずは「音素」を正しく発音できること。これがすべての前提となる。それからその音素を組み合わせて徐々に長い単位で発音できるようになり、単語、句、節、文章と練習を進めていく。

 英語という外国語の発音を学ぶ際は、くれぐれも「カタカナ発音」に置き換えないよう注意する。カタカナで書き表せないからこそ、発音記号というものが存在するのだ。英語に不慣れな者の耳に「ア」という日本語の音に聞こえる発音であっても、それが英語である限り決して日本語の「ア」とは違う音の出し方をしており、練習を積むに従い、「確かに日本語の『ア』とは違う」ということが自分でもわかってくる。
 英語の音素の中にも「日本語に近い音」もある。しかし日本語の音韻体系(発音システム)にはまったく含まれていない音も多くあり、それらについては、「口の中のどの部分をどう使ってその音を出すのか」ということから学ばなければならない。やみくもに英語ネイティブの発音に耳を傾け、聞こえたままをまねようとしても「まね方」を知らなければできないということだ。母国語の発音習得とはまったく違うプロセスを経なければ英語の発音は上達しない。

 発音の解説において、人間の頭部の断面図のような「発音器官略図」を用いて、発音の仕方を解説することがある。これにより、口の中のどの部分をどう使うかを説明しやすくするのだが、最初はちょっと難しい用語も出てきて戸惑うかも知れない。発音器官の名称については、あまり重要ではなく、暗記する必要はない。解説の中でも難しい用語は常にその都度、平易な日本語で説明するので心配はいらない。

 これが「発音器官略図」である。英語の音を正しく出すために用いる身体(といってもすべて頭部、特に口に関係するもの)の部品と名称がかかれており、それらをどう使うかで様々な日本語にはない音が出せる。日本人でもアメリカ人でも人間であれば、基本的に同じ部品をそろえて持っているので、必ず英語の発音は習得できる。しかし、そのプロセスは「リハビリテーション」に似ており、「本当はできるはずのこと」をどうやればいいかを最初は頭で理解し、それから実際に体を動かし、練習・訓練をつんでようやく思い通りに発音器官を使いこなせるようになる。
 通常の生活を営んできた人ならば「歩け」と言われれば何も意識せずとも両足を適切に前後に動かし歩くことができる。しかし何らかの理由で長く歩行をしなかった人が、突然歩こうとしてもうまくはいかない。足をどんなふうに動かし、体重をどういうタイミングで移動させるかなどを「理解」し、実際に練習してやっと歩けるようになる。それまで使っていなかった筋肉を鍛えなければならないこともあるだろう。
 英語という外国語の発音を習得するプロセスもそれに似ており、生まれてから10年以上「出したことのない音」を今から出そうとするのだから、理屈を理解することからはじめるのが適切なアプローチとなる。「英語ネイティブは何も意識せず英語を発音しているのだから、英語圏で長く生活すれば自然と英語の発音も上手になる」という人もいるが、それは間違いだ。英語圏にいれば確かにいつでも周囲には生の実演サンプルがあるわけだが、耳だけを頼りに「Thank you.」のthや、「February」の「f」や「r」が身につくことはない。
 まして日本にいて、実演サンプルを示してくれる英語ネイティブが常にそばにいるわけでもない人は、解説を通じて「英語の音素」の発音を理解することが必要不可欠である。それが分かってから映画でも、CDでも実際の音に耳を傾けると「ああ、なるほど」と思えるのである。あとは経験と訓練だ。



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022.発音記号とは?

 まずは実際に発音記号というものを見てみよう。個々の記号の意味については後ほど詳しく解説するので、ここではざっと発音記号とはどんな形をしているのかを見てみることにする。

(母音に関するもの) ʌ a æ ɑ e ɛ i ɔ o u ə
(子音に関するもの) p b t d f v k ɡ s z ʃ ʒ θ ð l r h m n ŋ j w
(その他特殊記号) ː 第1アクセント符号()、第2アクセント符号 (

 こうしてながめてみると、普通のアルファベットに含まれている文字も多く見えるが、中には英語を表記するアルファベットにはない特殊な形をした文字もいくつかあることが分かるだろう。 [ j ] という文字は通常のスペルでは「July, Jack」などに使われるが、発音記号として使われたときは「J」の小文字ではなく「ローマ字の y に相当する」つまり「ヤ行子音」となるので注意が必要。
 「その他の特殊記号」にあるのは「アクセント符号」と「長音記号」である。

 ここにあげたのは英語の発音を表す単体のシンボルであるが、これらが複数組み合わさって「1つの音」として扱われる(実際には複数の音の連続だが1音扱いにして解説するもの)があり、たとえば
[ ai ]
は、「2重母音」といって「ア・イ」を並べて発音するのではなく「ア」のあとに小さく「イ」を添えて発音し、これで「1拍」となる。辞書によっては、それを「1音扱い」することを明確にするため、
[ ai ]
という表記をしているものもあるが、本サイトでは一般的な辞書の表記法に合わせるとともに、いたずらに記号の種類を増やさないことにした。
 また [ i ][ iː] とでは、音の長さだけでなく「音の質」も大きく違うため、これらも「別の音」として扱う。([ i ]をそのまま伸ばしたのが[ iː]ではないことを明確にするために短母音専用に[ ɪ ]という記号を用いている辞書も多くある。

 英語の母音について種類にわけた表を上に示した。なお、この表の分類は絶対的なものではなく、着眼点・分類基準などによって何種類に分けるかは様々な説がある。ここでは「日本語の『あいうえお』という5種類に対して英語ではもっと多くの種類の母音がある」という認識を持っていただければよい。
 日本語の母音が5種類とされているのに対して英語の母音がいかに多いかが分かる。詳細については後ほど解説するが、「重母音(2重母音、3重母音)」が「1つの母音」であるという考え方が重要。それは決して2つや3つの母音がただ並んでいるというものではない。複数の母音で1つの「音節」を構成しており、あくまでもそれで1拍のリズムを作るというのが重母音の特徴である。すなわち日本語の「愛(あい=2音節)」と英語の「I(私)=1音節」は同じではない。
 
母音の調音点 ( Point of Articulation )

 ここで右の図を見ていただきたい。
 発音記号があちこちに点在して書かれているが、赤い枠は口の中の上下前後の位置を表し、左側が口の前、右側が口の奥を表す。上下はその音を発音する際に舌を構える高さと対応する。

 たとえば [ ɑ ] の音は「口の最も奥の方で、舌も最も低く構えられて発音されるということになる。

 また参考までに日本語の「アイウエオ」における調音点を青いカタカナで示した。
 見てすぐ気づくと思うが「アイウエオ」のどれ1つとして英語の母音とまったく一致していない。[ i ] と「イ」は比較的接近しているため「代用」しても伝わるが、この微妙な調音点の違いが「訛り」として感じ取られる。英語を母国語とする人の声について「音の響きが違う」という印象を持った人も多いかと思うが、それはこのように調音点の差によるものである。(実は「発音」だけではなく「発声」の差もあるのだが、ここでは発音の観点に話をしぼる)

口の開きの大きさ

 ある母音が発せられるとき、上で述べた調音点に加えて「口の開き方」もその音を決定する大きな要素となる。
 先に示した調音点の表は口の中のどの位置で音が発せられるかを示しているが、同時に右のような口の開きにも対応している。すなわち、口の前で発せられる音(表の左側)については上にいくほど口の開きが狭くなり、唇の両側を左右に引く感じとなり、下に行くほど口の開きが大きくなる。

 口の奥で発せられる音(表の右側)については上に行くほど唇を小さく丸めた構えとなっていく。表の中で最も右上にある [ uː ] の音は唇を丸めて突き出すような形である。

 表の中央には [ ə ] がある。詳しくは後で述べるが、この音は「曖昧母音」と呼ばれ、口の開き、丸め方、下の位置、あらゆる点において「中途半端でいい加減(笑)」なのである。言い換えると、「アイウエオのどれでもないともいえ、聞きようによってはどの音にも聞こえる」ともいえる。

 また表の中には口の形は示していないが i=ɪu=ʊ  という記号が表示されている。
 これらについてはそれぞれの項目の中でまた述べるが、「日本国内で市販されている一般の英和辞書」では「i」や「u」の記号が用いられているが、より専門的で高度な内容を取り扱う辞書や多くの海外で市販されている英語辞典では「ɪ」や「ʊ」の表記となっているので、その対応を示したものである。

 この2つの母音については調音点、口の開きともに他の母音との上下左右の位置関係から口の開きや丸め具合の相対的な差をつかんでいただきたい。

 英語の母音はその音が発音される口の中の位置が日本語より前後上下に極端であるということが1つのポイントといえる。日本語の「近い音」で英語の発音を代用していた人は、調音点を意識して、顎の開きや唇の丸め具合についても「日本語とは違う」構えを丁寧に身につけていくことで「出せる音の種類」をさらに増やせるようになり、もう一皮向けた英語の発音の上達が期待できる。

   それでは、あと少しだけ発音全般についての基礎的な理解を深めてから、いよいよ、それぞれの発音記号について、その音の出し方と、その音を含む英単語の例を通じて練習に入っていくことにしよう。

【補足】
 なお本書ではアメリカ英語、イギリス英語のいずれを中心に学ぶ人にもできるだけ対応できるような解説を心がけたが、同じ発音記号であっても、英米ではその音質、発音要領に差があるので、解説文を参考にしつつ、最終的には実際の音声サンプルから発音を学んでいただきたい。インターネットには多くのオンライン辞書があるが、英米の発音を比較して音声サンプルが聞けるものとして次のものがある。ブックマークしたのち、ブラウザで別タブを開きつつ、逐一単語を入力し音声サンプルを確認することをお勧めする:
Oxford Advanced Learner's Dictionary (http://oald8.oxfordlearnersdictionaries.com/)



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023.通じる発音の3つのポイント

024.(1)母音と子音

 日本語の五十音図には、最初の行に「あいうえお」があり、以下「カ行、サ行、タ行、、、」と続いている。
 「ア行」の「あいうえお」という5つの音が日本語の「母音」である。母音とは、簡単にいうと「口の開き具合や唇の形の違い」だけによって違う音に聞こえるものであり、基本的に声が喉から口へと出て行くことを邪魔するものがない
 それに対して「子音」とは、「唇、歯、舌」などが息や声が出て行くための障害物を作るときに発せられる音のことである。たとえば「」という音はローマ字で「pa」の2文字で表されるが、「p」という音は「上下の唇を閉じ、それを息によって『破裂』される」ことによって発せらる音。この音は一瞬しか出すことができず、同じ音を長く伸ばすということができない。そして「p」音の直後に「a(あ)」を発すると、「pa」が連続的に「」という音となる。
 すなわち「ぱ(pa)」とは「子音+母音」の組み合わせによってできている音ということだ。

 「カ行」の子音は「k」、「サ行」の子音は「s(ただし「し」だけは sh )」というふうに、日本語では「ア行(母音行)」以外の音はすべて「子音+母音」という2つの音を「1文字」で表している。文字表記上で1文字であるため、「か ( k+a」を1音だと思い込んでいる日本人も実際多いのだが、音声学的にはあくまでも「か ( ka」は2つの音が連続的に発せられてできる音なのである。

 さて本論に入る前にちょっと面白い実験をご覧(お聞き?)いただこう。
 上で述べたように日本人にとっては「ひらがな1文字」が1つの音という思い込みがある。だから「逆さ言葉」というのも「ひらがなの文字単位」での逆転となっており、「しんぶんし」は逆に読んでも「しんぶんし」とされているわけだ。

 そういう感覚からなかなか脱却できない日本人学習者に「日本語もちゃんと子音+母音で発音されている」ことを実感させてみたい。

 今はPCを駆使した授業も簡単にできるのではないかと思うが、フリーソフトの音声編集ソフトを使って次のようなことをやってみた。

 右の図は「すし」というたった2文字からなる簡単な日本語を録音した音声波形である。左から右へと時間が流れているが、よく見ると
[ s-u-ʃ-i ]
 という4つの音素がそれぞれ観察できる。
 さて「すし」というたった2文字からなる簡単な言葉を逆再生したらどう聞こえるだろうか?
 「す-し」を逆に読んだ「し-す」と聞こえるのだろうか?まずは自分なりに想像してみてから次の音声サンプルを聞いてみて欲しい。

「すし」を普通に読み上げたもの
「すし」の録音を逆再生したもの

 上の「すし」の音声波形を左右逆転したのが右の図である。音素単位、つまり発音記号単位で音が逆転しているため、「すし」を逆再生しても「しす」とはならず、
[ i-ʃ-u-s ]
 の順に聞こえてくることとなる。

 「すし」なんていうシンプルな言葉でさえ本当に音声学的な意味での「逆さ言葉」はなれない者には意外な結果だろう。まして「しんぶんし」や「たけやぶやけた」なんて想像もつかないのではないだろうか。

 ところで「赤坂(あかさか)」を録音して逆再生したらどうなる?
 「すし」でさえ予想外だった人には、4文字の「あかさか」を逆再生してもきっと意味不明な言葉になるに違いないと思うことだろう。ところが、ひらがなの「あかさか」を逆に書いたら「かさかあ」になってしまい、とても逆さ言葉とは呼べないのだが、これを発音記号で書くと、
[ a-k-a-s-a-k-a ]
であり、これはなんと逆に読んでも同じなのだ。

「あかさか」と普通に読み上げた音声
「あかさか」の録音を逆再生したもの

 通常再生に比べると逆再生は、抑揚が妙な感じだったり音が急に切れたりする不自然さはあるが、確かに「あかさか」と聞こえる。これからも「あかさか」は
[ a-k-a-s-a-k-a ]
 という「7つの音素」が連続的に発せられた音だと確認できる。

 「英語の発音記号」を学ぶ必要性を単に言葉で伝えてもなかなか実感が伴わないかも知れないが、こういうちょっとした実験を通じて、日ごろ無意識に発している日本語でも「子音」と「母音」の連続で成り立っており、表記上は1文字のひらがなであっても、複数の音素の組み合わせを表しているということが実感されるだろう。少なくとも言葉の音というのが、子音、母音という、小さな単位からできていると納得することが大切だ。そこが分かれば「子音だけを仮名で書くことができない」=「英語の発音を仮名では書き表せない」=「発音記号を習得しないと英語の読みは分からない」と理解される。


 このように日本語では、母音が単独で発音される以外は、基本的に「子音+母音」の組み合わせの繰り返しで発音され、子音だけが単独で発音されることはない。なお日本語の音声学的現象として母音が消失し、子音単独の音となることがある(例:「~です」の「す」)が、これについては今は触れない。

 それに対して英語では、子音、母音を常にそれぞれ単独の音として考えるため、[ ka ] は誰もが2つの音だと認識する。ということは [ k ] だけを単独で発音することも容易にできるのであり、あらゆる他の子音も単独で発音されることが全く珍しくない。特に語尾が子音で終わる場合、そこに「ありもしない母音」を発音してしまうのがカタカナ発音に慣らされた日本人の悪い癖なので、まずはこれを矯正する必要がある。日本人が英語の発音を学ぶ際には、「母音の支えなしに子音を単独で発音できるようになる」ことが第一歩と言えるだろう。
 英語では子音1つを単独で発音するばかりでなく、2つ以上の子音が(間に母音を挟むことなく)連続して発せられることも多くある。たとえば「stress」という単語は発音記号で見ると

[ strés ]

 であり「st」、「tr」の間には母音がない。「str」と3つの子音が連続して発せられてから「e」の母音が発音される。さらに語尾「s」も母音があとに続くことなく単独で発音される。
 一方、カタカナのストレスを発音記号で表現すると[su・to・re・su]となる。英語本来の発音とくらべてみると[su]の[u]、[to]の[o]、最後の[su]の[u]と、3つも母音が余計に混じりこんでいる。すなわち本来の英語の発音からは非常にかけはなれた音になってしまっているということだ。日本人がカタカナ読みで英単語を発音しても通じない理由がここにある。

 子音を単独で発音できることが英語本来の発音を習得する上で非常に重要であると述べたが、母音についても日本語の「あいうえお」には含まれない発音が英語にはある。というか、厳密に言えば英語の母音すべてが日本語とは違うのである。たとえ「a pen」の「a」、「it」の「i」「put」の「u」、「pen」の「e」、「lot」の「o」といった誰でも簡単に発音できそうで、カタカナでも書き表せそうに思える音であっても、日本語の「アイウエオ」とは違う音なのである。だからすべての発音記号について「音の出し方」を丁寧に学んでいって欲しい。



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025.(2)音節

 「音節」とは音声学的に定義すると「音の連続の中で、際立った音を中心にした『聞こえ(audibility)』の単位」のこととなるが、簡単に言えば「母音を中心にその前後に子音がくっついて」1つの単位となる。日本語では仮名で書けばその仮名1文字1文字が自動的に1音節となる。どの仮名にも1つずつの母音が含まれているからだ。(例外は「ん」であり、これは日本語の中で唯一、音節を作れる単独子音である)

 英語の音節も母音の数だけできるが、語尾部分だけは「子音音節」が発生することがある。ただしこれは後ほど詳しいく説明する「曖昧母音」がさらに弱形化して脱落したものと考えるので、それを含めてやはりそこには母音があるとみなせば、音節数と単語に含まれる母音の数は一致することとなる。
 音節とは単語が持つ「拍」の数でもあり、たとえば言葉にメロディをつけ歌おうとするとき、いくつの音符を割り振ればいいかが音節数と一致する。ということは、英語という言語が持つリズムを正しく表現するには、単語の音節を正しく理解し発音することが必要となってくる。
 さきほど例にあげた「stress」はこれで「1音節」である。リズム的には「蚊(か)」という音と同じ長さとも言える。一方、「ストレス」という日本語は4音節であり、「カマキリ」と同じ長さ。「蚊」というところを「かまきり」といえば当然通じないのも納得できるだろう。音節というのはこれくらい重要なのだ。

 日本人は単語の長さを文字数で感じる。だから beautiful (8文字)はかなり長い単語に見える。しかし英語話者にとって単語の長さとは「音節数」によって感じられるものである。だから beautiful は、

[ bjúː-ti-fəl ]

 という3音節であり、日本語の「トマト」と感覚的には同じ長さと聞こえている。
 日本人が「 beautiful 」を長い単語だと思うのは「ビューティフル」というカタカナ発音が5音節であるのもその理由だ。
 スペルの文字数だけで一見長そうに見える単語であっても、音節数で把握してみると英単語にはそれほど長い単語はないのがわかってくる。つまり、発音が上達すると「多くの英単語が短く簡単に見えてくる(それが事実なのだが)」ようになり、単語の習得もそれだけ容易になってくる。
 英語話者からしてみれば「御茶ノ水女子大前」などという駅名は、なんと11音節 (o-cha-no-mi-zu-jo-shi-da-i-ma-e) であり、「よくもまあ、日本人はこんなに長い地名を覚えられるものだ!」と驚くそうだ。日本人はこの長い地名でさえ「御茶ノ水」+「女子大」+「前」という、せいぜい3つの単位として把握されるので、特別長い言葉だとは感じない。
 逆を言えば、日本人であっても英語の発音の基礎を固め、正しく子音・母音を発音でき、音節をきちんと発音できるようになれば、あらゆる英単語は簡単に思えるようになるということである。



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026.(3)アクセント

 通じる発音の第3のポイントは「アクセント(accent)」である。これは「ストレス(stress)」ともいい、単語のどの音節を強く発音するかのことである。英語は「強弱アクセント」を用いる言語であり、それに対して日本語は「ピッチアクセント(抑揚)」を用いる言語である。
 強弱アクセントとは、たとえばピアノの鍵盤で同じ音を連続して弾いたとしても、鍵盤を叩く強さに変化を持たせること。「トン、トン、トン」という3泊の2泊目だけを強く「トントントン」とたたけば、第2音節にアクセントを置いたことになる。たとえメロディがどう上下しようと関係なく、どこを「強く」発音したかが英語のアクセントである。
 それに対して日本語はメロディの上下(高低)がアクセントとなる。「箸、端」のような違いは「は」と「し」のどちらを高く発音するかで区別され、音の強さではない。
 多くの場合「高く発音しようとすれば強くなり、低く発音しようとすれば弱くなる」傾向があるが、あくまでも「強弱」と「高低」は区別して認識して欲しい。

 英語では、同じ音の組み合わせであっても、アクセントの位置が変わると単語の意味が違ってくることも多い。文章全体としてもアクセントの位置は非常に重要な意味を持つ。

I can speak English.

 という英文で「できる」という意味を強調しようと「can」にアクセントを置いて発音してしまうと、それだけで相手には「can't(できない)」の意味に聞こえてしまう。can'tは否定という「特殊」な意味であるため、そこにアクセントが置かれ、can't の「 't 」は子音であるため、聞こえは低くてもアクセントの位置によってそれが「 can't 」であると判断される。
 「できる」の意味を強めたいときは、本動詞である「 speak 」の部分をより強く発音する。これで「話せる」という意味が強まる。このように単純に日本語の発想(特に和訳)に基づいてアクセントの置き場所を判断すると思わぬ誤解を招く場合もあるので注意が必要である。

 すべての英単語には必ずどこかにアクセントがあるが、それは「単語として単独で発音された場合」であり、複数の単語がつながって1つのまとまった意味を構成する場合は、言うなれば「複数の単語が合体して大きな単語を作っている」とも考えられ、そういう大きな単位でのアクセントというものも重要なポイントとなてくる。

 「 a pen 」という2語の組み合わせについて考えてみると「a」という単語だけを単独で発音すると [ ei ] である。(知ってましたか?「ア」じゃないんですよ!嘘だと思ったら辞書で確認してください。)この [ ei ] という発音は「a」の強形発音でもあるが、特に「 a 」という単語に強調の意味を持たせる必要がないときは、「 a pen 」の[ pen ]にアクセントが置かれ、「 a 」は弱形化する。
 the, my, your, his, her など、冠詞・限定詞は前後関係から分かりきっている意味を添えることが多くあり、そのような意味として用いられる場合は、これらの単語を強く読む必要がないため、すべて弱形発音が用いられる。

 これら発音と意味などの関係は、それぞれの文法項目の中で詳しく述べるので、ここではあくまでも「アクセントを正しく発音することがいかに重要か」を認識していただければよい。


 では、あらためてまとめておこう。


(通じる英語発音の重要ポイント)
  1. 母音と子音をそれぞれ単独でも正確に発音できること

  2. 音節を意識し、正しいリズムで発音できること

  3. アクセントに注意。はっきりと正しい位置にアクセントを置くこと。
 



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027. [ æ ] [ ʌ ] [ ɑ ]

 ここに示した3種の発音は、いずれも日本語のカタカナに置き換えてしまえば「ア」と表記されてしまう。しかし英語では、はっきりと違う音であり、これらの区別がつかないと全く違う単語の区別がつかなくなってしまう。
 次の3つの単語もカタカナで発音を書こうとすれば、すべて「ハット」になってしまうが、母音の発音が異なり、意味も違う別の単語である。

hat(帽子)---- [ hǽt ]
hut(小屋)---- [ hʌ́t ]
hot(熱い)---- [ hɑ́t ]

[ æ ] の発音は「 hat 」の母音部分。「ア」と「エ」の中間の音であり、要領としては、日本語で「ア」と「エ」を交互に発音してみて、その中間となる口の構えを探す。あるいは「ア」の発音の構えをまず作り、そのままの口の形で「エ」を言おうとすれば、自然と「口の両側が横に引かれ」、この音になる。まずは次の例を通じて、この母音の発音を練習しよう:

 右の調音点の図の中で [ æ ] の音は「口の前の方で発音される」ことが分かる。また上下の位置としては [ a ] よりも上で [ ɛ, e ] よりも下にある。これは口の開きとしてもその中間であることを意味しており、[ a ] ほど大きく開かず、[ ɛ, e ] ほど横に引かない、その中間的な構えであるということ。日本語の「ア」と「エ」を同時に発音するような気持ちで発音してみよう。

apple [ ǽpl ] りんご
bat [ bǽt ] バット、こうもり
bag [ bǽg ] かばん
bad [ bǽd ] 悪い
cap [ kǽp ] ふちのない帽子 
map [ mǽp ] 地図

※通常、辞書などでは1音節の語にアクセント符号がつけられていないことが多いが、本サイトでは1音節の単語であってもアクセント符号をつけることにする。


[ ʌ ] の発音は、あまり口を大きくあけず、喉の奥で短く発音される。あっけにとられて「あっ、、」と言うときの音に似ている。英語の母音の中では、もっとも日本人にとって発音しやすい部類に入るだろう。

cut [ kʌ́t ] 切る
sun [ sʌ́n ] 太陽
run [ rʌ́n ] 走る
bus [ bʌ́s ] バス
hut [ hʌ́t ] 小屋
one [ wʌ́n ] (数字の)1、ひとつ(の)

 上の例を見てもわかるが、この発音はスペルとして「u」の文字に現れやすい。しかし「one」はスペルと発音がかけはなれている例となっている。

[ ɑ ] の発音は、母音の中でもっとも口の開きが大きな「ア」である。通常の日本語の中には現れない音で、かなり意識的に発音しないとこの音にはならない。あくびをするときくらい大きな口で発音され、調音点は口の奥の方。
 なおこの発音はアメリカ式の英語に現れる母音であり、同じ音がイギリス式では、より「オ」に近く響く母音となる。この英米の発音における対応は、辞書で [ ɑ/ɔ ] と表されていることが多い。これはスラッシュ(/)の前がアメリカ式、後ろがイギリス式発音であることを意味する。
 たとえば「hot」という単語はイギリス式発音なら「ホット」のように聞こえるが、アメリカ式発音では「ハット」の母音に聞こえる。
 本サイトでは基本的に米式の発音記号によって示すが、上記の英米発音の対応は機械的なので、イギリス式発音を練習される方はこの箇所を英式に読み替えていただきたい。

 下の表は英米式併記に慣れるためのサンプルとして「米式発音/英式発音」と表記した。
boxer [ bɑ́k-sər / bɔ́k-sə(r) ] ボクサー
doll [ dɑ́l / dɔ́l ] 人形
hot [ hɑ́t / hɔ́t ] 熱い
not [ nɑ́t / nɔ́t ] ~ではない
doctor [ dɑ́k-tər / dɔ́k-tə(r) ] 医者
clock [ klɑ́k / klɔ́k ] 時計

 boxerdoctor の発音で末尾の「 r 」の発音がイギリス式では括弧に入っている。これはどういう意味かというと、
(1) スペルに r の文字があっても通常は発音されない
(2) しかし直後に母音で始まる音がつながったときだけ明確に r が発音される
 というイギリス式発音特有の現象を示したものである。

(例)That doctor is my father.
 上の例文では doctor r is の「i」が追いかけている。この場合は [ dɔ́ktəriz ] と発音されることとなる。

 英語の発音はカタカナで表記できないと、これまで繰り返し述べてきたが、上記「doll(人形)」など「ドール」というカタカナ発音と比較してみると、実にかけ離れていることが分かる。音声サンプルを聞けば「ダーオ」としか聞こえないだろう。語尾の「L」の発音が「オ」のように聞こえる理由は子音発音の中で詳しく述べるが、ここでは音声サンプルの聞けるオンライン辞書などを活用し、特に「doll」の母音に注意して、よく耳を傾け、自分でも繰り返し練習してみていただきたい。



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