指示代名詞

ここで学ぶこと

 ここでは指示代名詞の基本を学びますが、前項の「人称代名詞」でまだ解説しなかったことも指示代名詞との比較を踏まえて解説します。

  1. (指示代名詞の種類と人称代名詞との違い)
  2. (THAT と IT の重要な区別)
  3. (指示代名詞は「人」にも使える)
  4. (「ここ」は英語でなんと言う?)
  5. (代名詞の格の扱いに関する注意)
  6. (人称代名詞の「一般用法」)
  7. (Royal "We")

(指示代名詞の種類と人称代名詞との違い)

 次に「指示代名詞」という種類の言葉を見てみます。指示代名詞とは「指で指し示す」ように何かを具体的な名称を使わずに表す言葉であり、話者からの距離の違いによって「近称、遠称」の2種類があり、それぞれに単数と複数の区別があります。

  単数  複数 
 近称thisthese
 遠称thatthose
English Pronouns

 英語の「 thise / these, that / those 」は、物でも人でも使えます。

 日本語には「これ、それ、あれ」というふうに「近称、中間称、遠称」の3種類があるのに対して英語には2種類しかないということです。つまり英語の指示代名詞は、話者から近い・遠いだけで区別されます
 ということは「日本語の中間称」である「それ」は、何かを指差して使うとき「 that の意味の一部」に含まれるということなのです。

 ここで多くの学習者は混乱してきます。「あれ??『それ』って it じゃないの? thatit はどう違うの?」と。

 さあ、前の項目で学習したばかりのことをここでも復習しますよ。
he / she / it 」は「人称代名詞」でしたね?人称代名詞とは「すでに現れた名詞の繰り返しを避けて使われる言葉」ですね。(この「人称」という言葉に「人」という文字が含まれているからといって「人間を指す言葉」だと誤解しないようにしてください。文法における「人称」とは「野球の背番号」のようなものであり、話者を含むかどうかによって便宜的に「1,2,3」の番号がつけられているだけであり、人間以外のものを指すこともあるのです。)
 それに対して「 that 」は指示代名詞です。何かを指差して示している言葉です。

 ですから、日本語として「それ」という言葉が、「今話題にでたそれ」の意味なら itであり、「あなたが手にしているそれ」なら thatです。日本語の「それ」は、英語の「人称代名詞」と「指示代名詞」のどちらの意味にもなるうるのです。人称代名詞it は、文脈をうけての「それ」であり、話者や聞き手からの距離は問題になりません。すでに話題に登場した男性の名前の代わりに he を使うことの延長として理解してください。

会話A
A: I met Mr. Williams last night.

B: Oh, he is my uncle.



会話B
A: I saw a very big, black dog out there.

B: Ah, it / that is my dog.


 会話Bで「 it / that 」のいずれも用いることができます。英語ネイティブでもこの違いを敏感に感じて使い分けている人がどれだけいるかは疑問ですが、厳密に言いますと、it 」はAさんの会話の中に登場した「 a very big, black dog 」を受けて「the very big, black dog」という言葉の繰り返しを避けて用いられた人称代名詞であり、それは会話Aで「Mr.William」の代わりに「he」を使うのと同じ発想によります。一方、thatは「外にいる犬」を心理的に指差す気持ちで用いられた語であり、指示代名詞です。

 このように「内容を受けて言葉の繰り返しを避ける」のが人称代名詞であり、「話者との距離に応じてthis/thatを使い分け、指差して対象を示す」のが指示代名詞ということなのです。




(THAT と IT の重要な区別)

That's right.(その通りです)

 この言い方では、あまり「 It's right.」というのは耳にしません。その理由は「It is right to ...」という仮主語の構文の出だしに聞こえてしまうことと区別する気持ちが働くため、that が好まれるとも言えるでしょう。

 しかし「 It's right.」という言い方がないわけではありません。時として「 That's right. 」と「 It's right.」では「反対の意味」を表すことさえあります。次の例を見てください。

 今、太郎君が英語の書物を読んでいるとします。そして「見たことのない単語」に出会いました。その単語はすでに知っている別の単語とほんの少しだけスペルが違っていて、「あれ?これってあの単語のミススペルじゃないのかな?」と思いました。
 ちょうどそばに英語ネイティブの友人がいるので尋ねてみることにしました。

Taro: Look here. I've never seen this word. I think this word is mis-spelled.

(ねえ、これ見て。こんな単語見たことなんだけど、これってミススペルだよね。)

 その言葉に英語ネイティブの John 君が次のように返事したとしましょう。

(1) That's right.

(2) It's right.

(1)の「That's right.」は「その通り」=「君の言う通り」の意味です。つまり、太郎君の「 I think this words is mis-spelled.」という意見が正しいと述べています。ということは、太郎君が見つけた見慣れない単語のスペルは「間違い」ですね。
 文法的に「 that 」は指示代名詞ですから、「太郎君の発言」を心理的に指差して、その内容を that と言っています。つまり、
That's right.
= What you said is right.

= Your opinion is right.


 ということですね。

(2)の「It's right.」の「 it 」は人称代名詞ですから、前に出た名詞の繰り返しを避けたもの、つまり「 the word 」を指します。つまり
 The word is right.

(その単語は正しい)
 という意味になります。

 このように前後関係によっては「 That's right.」と「 It's right.」は同じ意味にならないこともあるのです。指示代名詞と人称代名詞の「働きの違い」をよく理解しましょう。

that's right




(指示代名詞は「人」にも使える)

This is my father.  日本語で「これは私の父です」とそばに立っている人物を紹介するのは「人に向かって『これ』とは何だ」と叱られてしまいそうですが、英語で「 This is my father. 」はまったく失礼ではない自然な言い方です。すでにちらりと話題に出ましたが、日本語の文化では「人間を指差す」というのは失礼とされており、直接指し示さず、その周囲や方向という漠然としたものを指すことで婉曲さを出すことが言葉の礼儀とされています。「~様に『おかれましては』」などというのも、人を場所に転換することで「オブラートにくるんだ」ような表現として直接さを回避しているわけです。




(「ここ」は英語でなんと言う?)

 もしあなたが外国のどこかで道に迷って「ここはどこですか?」と人に尋ねるとして「Where is here?」とはいえません。
 「here」は代名詞ではなく副詞であるため「Where is here?」は主語のない珍妙な英文になってしまうからです。それを言うなら
Where am I?

(私はどこにいるのですか?)
 あるいは、
Where are we?

(私たちはどこにいるのですか?)
と表現します。
 英語でも「 from here 」というある種の決まり文句の中では here を代名詞的に用いることがありますが、基本としては「 here / there 」は副詞だと覚えておいてください。ですから「ここ(此処)」を英語で表現するなら「 this place 」がそれに相当します。つまり「 Where is this place? 」は正しい表現です。(が、道に迷ったなら「 What is this place? 」とその場所の地名などを聞く方がより自然です。)

 なお「 this/that 」は、使い方によっては代名詞でもあり、形容詞(指示形容詞)でもあり、さらには副詞でもありえますから、これも固定的に暗記したりしないように注意しましょう。

That is my book.(「あれ」は私の本だ。=thisは指示代名詞)

That book is mine.(「あの」本は私のものだ。=thatは指示形容詞)

I can't run that fast.(私は「あんなに」速くは走れない。=thatは副詞)




(代名詞の格の扱いに関する注意)

 これは代名詞だけに関する問題ではなく、接続詞や前置詞といった他品詞とのからみでもあるのですが、英語ネイティブの中には品詞というものを深く意識せず言葉を使っている人も多く、現実の会話などでは本来文法的でないとされる言い方が普通に使われることもあります。

Me and my father went to the zoo yesterday.(非常に口語的)

My father and I went to the zoo yesterday.

 「me and my father」はそれで主部(S)になっているので、正しくは「 My father and I 」とすべきところ。しかし子供の会話などを中心として「me and ~」の言い方が普通に見られます。極めてくだけた口語表現で、しつけの厳しい家庭なら「 my father and I 」と言い直させることさえあります。(さらに語順について言えば、「 I 」はあとから出すのが礼儀。「 you 」は「 you and he 」のように他の代名詞より先に出すのが同じく礼儀とされます。ただし「悪い内容」について述べるとき(例: I and he were arrested for speeding.<スピード違反でつかまった>)は、その逆で「 I 」が先に来ます。)

 また「It's me.」という表現になると、「 It's I. 」以上に浸透しており、もはや「 It's me. 」を間違いだと指摘する人もほとんどいなくなっています。文法的には「主格補語」といって「 it=I 」の関係であるため、代名詞も主格であるべきところですが、「 It's I. 」は現実にはかなり格式ばったものの言い方とされています。最初の例「 me and my father 」は真似ることを勧めませんが、「 It's me. 」は安心して使って大丈夫です。もちろん、正式な文書の中で「 It's I. 」と書くことはまったく正しいことです。

 代名詞の格については特に接続詞や前置詞の直後に注意してください。

Love Triangle


(1) He loves you more than I.

(2) He loves you more than me.

 これは「 I / me 」では文章の意味自体が違ってきます。(1)(2)はそれぞれ次の文章を省略したものです。

(1) He loves you more than I (do)=than I love you

(2) He loves you more than (he loves) me.

 つまり、1では、「 He loves you. 」と「I love you. 」を比較しており、「 than I 」は「私があなたを愛する以上に」の意味。
 2では、「 He loves you.」と「He loves me.」の比較であり、「 than me 」は「彼は私を愛する以上にあなたを愛している」の意味。
 この違いが「 I/me 」だけに現れており、これを取り違えると文意全体が変わってしまいます。

between you and me (just) between you and me

(私とあなたの間で;ここだけの話だけど)

 「between」は前置詞ですから、名詞・代名詞の「目的格」としか結びつきません。したがってこれをbetween you and I 」とするのは単なる間違いです。にもかかわらず現実の英語ネイティブの会話ではこれもたまに聞かれます。
 英語ネイティブの間でしばしば見られる「文法に対する誤解」があるのですが、「 me and my father 」のような言い方が正しくないと注意され「 me を I に直される」経験をしたり、「 It's me 」が本来の文法では「 It's I. 」だと聞いたりすると、その文法的根拠(主格だから I だとか)を知らず、安直に「ああ、そうか。me は粗野な言葉で、I は丁寧で綺麗な言葉なのか」というふうに思い込むことがあります。その結果、本来 meが正しい「 between you and me 」のような場合まで間違った類推から「 between you and I 」としてしまうのです。このあたりのたてわけは文法から英語を学ぶ日本人の方がかえって間違えないという面白い傾向があります。




(人称代名詞の「一般用法」)

(1) They speak English in the US.(アメリカでは英語が話される)

(2) Do you speak English in the US?(アメリカでは英語が話されますか?)

(3) We use hiragana, katakana and kanji in Japan.(日本では平仮名、カタカナ、漢字が使われます)

 これらは特定の誰かを指すのではなく、1なら「アメリカ人たち」全般、2なら「聞き手を含めてのアメリカ人全般」、3は「話者を含めての日本人全般」を意味する代名詞。
 同様の用法に書籍の中で著者が読者全般に対して呼びかける意味で使われる「 you(「読者の皆さん」の意味)」もあります。
 また書籍の中では「 Editorial "We"」と呼ばれる特殊な we があり、たとえ1人の著者であっても、その著者の独善的な言葉という響きを避けるため「編集部一同」のような意味合いで用いられます。




(Royal "We")

 王などがみずからを指して「We」という1人称複数の代名詞を用いますが、これは「自らの意思=国民の総意」という発想が背景にあるもので、他の格も「 our, us, ours 」となりますが、「 ourselves 」だけは「 ourself 」という独自の語形が使われます。
 なお最近では王族なども国民の視線に立つという親近感をもった言葉遣いになってきており、ごく普通に1人称として「 I 」を使うことも珍しくなくなってきているそうです。(国王に知り合いがいないので直接はよく知りません(笑))




マイケル・ジョーダン:
「だから俺は成功する」
 わずか30秒の短いクリップですが、一流アスリートのぴりっと味のある一言です。
 「 That's right. 」と同じく、「 That's why. 」の that も指示代名詞。つまり「その前の発言内容」を指すものです。


  1. I missed more than 9,000 shots in my career.
    プロ人生で、9000本以上のシュートをはずした。

  2. I've lost almost 300 games.
    300試合ほど負けた。

  3. 26 times, I've been entrusted to take the game-winning shot and missed.
    26回、試合を決めるシュートを任されて、はずした。

  4. I've failed over and over, and over again in my life...
    何度も、何度も、人生で何度も失敗してきた...

  5. ...and that is why I succeed.
    ...だから俺は成功する。


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