代名詞

 代名詞とはその名が示すとおり「名詞に代わって用いられる語」のことです。
 ですから基本としては、先に具体的な名詞がすでに登場しており、それを受けて言葉の繰り返しを避けるために名詞を代名詞にして言うのですが、ここでも日本語との言語習慣の違いを踏まえる必要があります。

 日本語では英語と違って同じ名詞を平気で繰り返し用いることが非常に多く、英文に含まれる代名詞をそのまま(いかにも代名詞らしい訳語で)和訳するとかえって不自然になることが多いのです。
 たとえば自分の父親・母親を指して「彼・彼女」という言葉は日本語では使われませんし、英語の「they」を無条件に「彼ら」と和訳して納得するのも危険なことです。英語の「they」は「女性だけの複数」かも知れませんし、犬猫などの動物を指しているかも知れませんからね。このように英語の代名詞の理解と実際の使用においては、やはり「日本語感覚からの切り離し」、「和訳に頼らない理解」が大切になってきます。

代名詞の基本理解

 まずは英語の代名詞の全体像から理解していくことにしましょう。

 名詞が下位分類として「可算・不可算」にわかれ、さらに全体で5種類に分類されたように、代名詞も下位分類として次のような種類を持ちます。

  1. 人称代名詞
  2. 指示代名詞
  3. 不定代名詞
  4. 再帰代名詞
  5. 疑問代名詞
  6. 関係代名詞

 よく聞く疑問の1つとして「日本語の『それ』は it か、それとも that か?」というものがありますが、その疑問もこれから上記各下位分類を理解する中で完全に解消されます。

 さて、英語の代名詞を学ぶ下準備として、日本語の代名詞についてほんの軽く復習してみましょう。自分の言葉がしっかりわかっていなければ、外国語との比較もできませんからね。

 日本語には「こ・そ・あ・ど」と呼ばれる言葉のグループがあります。
 「これそれあれどれ」、「っち、っち、っち、っち」、「う、う、あ、う」など、1文字目を拾うと「こそあど」となるグループのことです。
 「これ、それ、あれ、どれ」を取り上げて考えると、最初の3つ(これ、それ、あれ)は「近称、中間称、遠称」と言って、話者・聞き手から指し示すものがどういう距離関係にあるかを3種類に分けて示すものです。

これ(近称)=話者から近い
それ(中間称)=聞き手から近い
あれ(遠称)=話者・聞き手の双方からともに遠い

Japanese pronouns

 このシステムが英語にも同じようにあると思わないでください。英語には「近称」と「遠称」の2つしかなく、話者からの距離だけに依存して代名詞が使い分けられるため「中間称」にあたる単語はないのです。詳しくはあとで説明しますが、こういう言語習慣のずれを知らずにただ言葉の置き換えで英語が日本語に、日本語が英語になると思わないことがとても大切なことなのです。

this(近称)=話者から近い
that(遠称)=話者から遠い

 ところで「 you 」を「あなた」と和訳するのが定番(?)になっていますが、そもそも「あなた」とは上記「こそあど」のどれでしょうか?

古い言葉 現代語
こなた こちら
そなた そちら
あなた あちら
どなた どちら
yama no anata

 このように「あなた」とは本来「あっち側」を意味する「方向を示す」言葉だったのです。日本語では「物事を直接的に指し示す」のがしばしば失礼とされ、婉曲表現により丁寧さを表すという言語習慣があるため、相手を示す代名詞に「向こう側」という遠い方向を意味する言葉が転用されて用いられるようになりました。時代劇などでは上の「そなた」をまだよく聞きますね。

 このように歴史的な由来もからみ、日本語の代名詞と英語のそれとはかなりずれたところが多く見受けられます。ですからすでに申し上げましたとおり、くれぐれも「言葉の置き換え」で英語の代名詞が理解できるとは思わないようにしてください。これをい認識していただくことが今ここで日本語の代名詞に触れる最大の目的です。


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