(3)複数形についてのその他

 ここまでの原則的な話が理解されればあとは補足に過ぎないのですが、ときおり質問としても出てくることがらなので、軽く触れておこうと思います。

  1. 文字や数字の複数形
  2. 固有名詞の複数形
  3. 複合名詞の複数形
  4. 2種類の複数形で意味が変わる例
  5. 単数形と複数形で意味が違う

 「軽く」という割りには色々ありますね(笑)。これらについてはまだ折に触れて解説してもいいのですが、折角なのでここでいつくかの例をあげてまとめておこうかと思います。

1、文字や数字の複数形

Don't forget to dot your i's and cross your t's.
(「i」に点を打つことと「t」に横棒を引くことを忘れないこと)


His 3's often look like 8's.
(彼が書く「3」はよく「8」に見えることがある)

 本来「アポストロフィ [ apostrophe ](')」は複数形を作るために使うものではないのですが、「何の複数形か」を区切りを示してわかりやすくさせるため使われることがあります。このような場合「所有格」と見かけは区別がつきませんので、意味からどちらなのかを判断してください。
 小文字の複数形はそのまま「-s」をつけたのでは読みにくいですし「as, is」など中には別の単語と区別がつかなくなるため、「'」で区切って文字の複数であることを示しています。
 これが大文字の複数形の場合は、「'」をつけてもつけなくても構いません。特に複数の大文字からなる略号は、ただ「-s」をつけても見掛け上まず判断に迷うことはありません。

UFO

Have you ever seen any UFO's (=UFOs)?
(君は今までにUFO<未確認飛行物体>を見たことがあるかい?)

※ UFO は / jùː ef óu / と読むのが普通ですが、/ júːfoʊ / という読み方も決して間違いなわけではありません。
 また UFO は、Unidentified Flying Object の頭文字を取った略語ですが、すべて小文字の ufo / ufos という表記もあります。

1970's ( nineteen seventies と読む)=1970年代

 これは「1970, 1971, 1972...1979」の10の数字がいずれも「 nineteen seventy- 」で始まることから、「 nineteen seventy 」で始まる年という意味の複数形です。そこから「~年代」という日本語に相当します。普通は「1970という数字が沢山ある」ではないのです(もちろん、文脈によってはその意味に使えないわけではありませんが)。

 ちなみに「ページ」を意味する普通名詞は「 page 」で、その複数形は「 pages 」ですが、それを略号として使うときは次のようになります。

p.10 = page ten(第10ページ目)

pp.10 - 20 = pages ten to twenty 10ページから20ページまで)

・「 Pの小文字」2つを並べて「 pages 」と読みます。
・「から」の部分は「-(ハイフン)」で表現します。これを日本語フォントの「~」にしないでください。(日本語フォントをインストールしていない英語話者へのメールの中で「~」を使っても正しく表示されません。)

 同様に「行」を意味する「 line 」も次のように表現します。

l.15 = line fifteen (第15行目)

ll.15 - 20 =lines fifteen to twenty(15行目から20行目まで)

「Lの小文字」を2つ並べることで「 lines 」と読みます。


2、固有名詞の複数形

 本来不可算名詞に属する固有名詞が、普通名詞に転用されると「形は固有名詞」のまま複数形を取るようになります。

three Marys and two Bills

(メアリーさん<という名の女性>が3人とビル<という名の男性>が2人)

 固有名詞を複数形にする場合、純粋な普通名詞の場合と違って「固有名詞」そのもののスペルを変化させてはいけません。だから「 Mary 」を複数にしても「 Maries 」とはしないということに注意しましょう。
 英語ネイティブの書く文章では、しばしば固有名詞の複数形を所有格のように「 Mary's / Bill's 」とアポストロフィSによって表現している例もありますが、これは1の「文字や数字の複数形」の発想の延長から来ているものです。しかし正書法(標準的とされる英語の書き方)」としては正しくないとされています。


3、複合名詞の複数形

babysitter /béɪbi sɪ̀tɚ/ babysitters /béɪbi sɪ̀tɚz/
toothbrush /túːθ brʌ̀ʃ/ toothbrushes /túːθ brʌ̀ʃɪz/
boyfriend /bɔ́ɪ frènd/ boyfriends /bɔ́ɪ frèndz/

 これらは「名詞+名詞」の組み合わせとなっていますが後ろの名詞が意味の中心なので、それだけを複数形にします。言い換えるならば前の名詞は「形容詞的な色彩」が強くなっているため複数形にならないということです。

 もしも複合語のアクセントに関してまだ不安があるときは、「発音>様々な音声学的現象> かぶせ音素(2)複合語」のビデオでじっくり学びなおしてください。


by-stander /báɪ stæ̀ndɚ/ by-standers /báɪ stæ̀ndɚz/
looker-on /lʊ́kɚ ɔ́n/ lookers-on /lʊ́kɚz ɔ́n/

 by-stander は「stand by する人」の意味、looker-on は 「look on する人」の意味で、どちらも「傍観者、見物人」のこと。これらは名詞と別品詞が組み合わさった複合語。意味の中心となる名詞を複数形にします。


grown-up /ɡróʊnʌ̀p/ grown-ups /ɡróʊnʌ̀ps/

 構成要素に名詞がない複合名詞は、それ全体で1個の名詞とみて複数語尾をつけます。


brother-in-law /brʌ́ðɚ ɪn lɔ̀ː/ brother-in-laws /brʌ́ðɚ ɪn lɔ̀ːz/

 一見意味の中心である名詞「brother」を複数にしたくなりますが、これは習慣的に全体で1語とみなし、語尾を複数とします。 (sister-in-law, mother-in-law, father-in-lawなどすべて同様)


woman doctor /wʊ̀mən dɑ́ktɚ/(女医) women doctors /wɪ̀mɪn dɑ́ktɚz/(女医たち)
woman doctor /wʊ́mən dɑ̀ktɚ/(婦人科の医者) woman doctors /wʊ́mən dɑ̀ktɚz/(婦人科の医者たち)

woman doctor

 「女医(女性である医者)」は「 woman と doctor 」が同格的であるため、両方を複数形にします。
 ここで「 doctor 」だけを複数形にすると「婦人科の医者(その人の性別は男でもいい)」の複数形となるのでそれと区別するために「女医」では woman も複数にするとも言えます。それぞれのアクセントにも注意してください。


4、2種類の複数形で意味が変わる例

 1つの単数形を元にする2種類の複数形があり、それぞれが違った意味を表す例もあります。

penny /péni/ pennies /péniz/(ペニー貨幣が複数ある意味)
pence /péns/(ペンス=貨幣単位として)
cloth /klɔ́ːθ/ cloths /klɔ́ːθs/(布の意味での複数形)
clothes /klóʊ(ð)z/(衣類、衣服)
genius※ /dʒíːnɪəs/ geniuses /dʒíːnɪəsɪz/(天才の意味での複数形)
genii /dʒíːnɪaɪ/(守護神の意味での複数形)
brother /brʌ́ðɚ/ brothers /brʌ́ðɚz/(兄、弟の意味での複数形)
brothren /brʌ́ðərən/(信仰仲間の意味での複数形

※「天才」の意味の複数としては「 giniuses 」が一般的で、「 genii 」はラテン語の複数形をそのまま用いたものなので古めかしく、フォーマルな響きを伴います。それが「ローマ神話」などに出てくる「守護神、精霊」の意味の複数形として用いられます。。また「 genii 」は「genie (精霊)」の複数形でもあり、genie は「 genii, genies 」の複数形を持つ。


5、単数形と複数形で意味が違う例

 これは単数形の意味のまま数が複数であるという基本に加え、複数形になると単数形のときにはなかった意味が生じるものと、単数形の意味では複数形にならず、複数形になると常に特殊な意味となるものがあります。

     
arm /ɑːrm/ (腕) arms /ɑːrmz/ (「腕」の複数形の他、複数形だけに「武器」の意味がある)
color /kʌ́lɚ/ (色) colors /kʌ́lɚz/ (「色」の複数形の他、複数形だけに「軍旗」の意味がある)
letter /létɚ/ (文字、手紙) letters /létɚz/ (「文字、手紙」の複数形の他、複数形だけに「文学」の意味がある)
manner /mǽnɚ/ (方法) manners /mǽnɚz/ (「方法」の複数形の他、複数形だけに「礼儀作法」の意味がある)

good /ɡʊd/ (善) goods / ɡʊdz/ (商品)
look / lʊk/ (見ること) looks / lʊks/ (見かけ)
pain /peɪn/ (苦痛) pains /peɪnz/ (骨折り)

glass /ɡlæːs/ →  glasses /ɡlǽːsɪz/
単数形glassは「ガラス(物質名詞)」や「グラス(普通名詞)」の意味。「グラス」だけは複数形として「glasses」となれるが、「眼鏡」の意味では「glasses」と複数形しかありません。

これも多くの例がありますが、ここでは一例をあげるにとどめます。


6、複数形しかない名詞

 「絶対複数」という呼ばれるもので、単数形を持たない複数形。つまりイメージとして何かがペアになってはじめてなりたつ物を指すことが多く、そのようなものは「片方」だけでは物として成り立たなくなってしまう。しかし中にはペアの片方だけを意味できる単数形もある。

gloves /ɡlʌ́vz/(単数形 glove なら片方の手袋)
compasses /kʌ́mpəsɪz/(コンパス)
shoes /ʃuːz/(単数形 shoe なら片方の靴)
glasses /ɡlǽːsɪz/(眼鏡)
socks /sɑks/(単数形 sock なら靴下)
scissors /sɪ́zɚz/(ハサミ)
trousers /tráʊzɚz/(ズボン)
pants /pæːnts/(ズボンやショートパンツなどの総称)
panties /pǽntiz/(パンティ)

 このようにペアで成り立つ品物は一般的に、「 a pair of 」をつけることで「1つ(1セット)」を表し、2つ以上は、two pairs of というふうに「 pair 」を複数形にして数えられます。
 上に上げた名詞は原則として「複数形しかなく、名詞としての単数形がない」という変わったものですが、形容詞的に用いられるときは単数形のままになります。それは「形容詞には複数形がない(=複数形になったら、それは名詞)」だからです。
(例)
Scissor Hands(「映画の題名」で「両手が挟みになっている人造人間」の話)
shoe box(一足の靴を入れるための靴箱)<これを「2つの靴(=一足)」を入れるのだからshoes boxと考えなくてよい。ちなみに「下駄箱」は a shoe cupboardshoe shelves などといいます。

※「 compasses (コンパス)」だけはなぜか、「 a compass 」という単数形でも「 a pair of compasses 」と同じ意味に用いることができます。

Scissor Hands Shoebox
scissor hands shoebox


 次にあげるのは複数形がもはや形式的となり、複数の意味をすでに失っているものです。歴史的には確かに複数形に由来するのですが、今では語形は複数形でも単数名詞として使われます。学術名、ゲームの種目名、病名などによく見られます。

mathematics /mæ̀θəmǽtɪks/ (数学)
linguistics /lɪ̀ŋɡwɪ́stɪks/ (言語学)
economics /ìːkənɑ́mɪks/ (経済学)
politics /pɑ́ːlətɪks/ (政治学)
billiards /bɪ́ljɚdz/ (ビリヤード)
cards /kɑːrdz/ (トランプゲーム)
measles /míːzlz/ (はしか)
mumps /mʌmps/ (おたふく風邪)
news /njuːz/ (ニュース)




n  Oxford の辞書にも UFO の発音として / jùː ef óu / のほか、/ júːfoʊ / を認めている(→OALD 参照)のですが、ほとんどの人は / jùː ef óu / とアルファベット文字をそのまま読む方法を採っているようです。
 次の2つのビデオの中でもやはり / jùː ef óu / の読み方がされています。
 ちなみにUFOが1機の場合、不定冠詞は「 an 」ではなく「 a 」でよいのです。スペルが母音文字Uで始まっていても、「発音」としては you と同じ / j / (=Y子音)で始まっているからです。これは the universe の the を / ðə / と読むのと同じことですね。



 とても平易な英語なので日本語字幕は不要でしょう。

 前半は色々な職業について。後半は scissors という単語が現れます。またビデオ全体を通じて、これまでに学んだ色々なタイプの名詞が登場しますので、このような易しい教材を通じて、感覚的に適切な名詞のつかいこなしに習熟しましょう。

 さっと聞き流して理解できたらよしではなく、こういう言葉が自然に口をつく感覚を磨いてください。名詞の単複の使い分け、状況に応じた冠詞の使いこなし(冠詞をつけない場合を含めて)など、「実際に使われている文章に口を十分なじませる」ことを優先し、文法的理解は、その裏づけとして学ぶのが正しい姿勢です。


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