(2)不規則な変化をするもの
子供は言語習得の天才です。 このビデオに出てくる2歳半の女の子もスポンジが水を吸収するように新しい単語を覚えていきます。 しかし名詞の複数形など、ちょっとした不規則なことで間違えたりもしますが、それも経験を通じて修正されていきます。 「mouse(ねずみ)」の複数形を一般的な -s による複数形で「 mouses 」にしてしまったりするのは日本人の初学者だけではないのです。そういう間違いは上達のステップ。怖がらず、恥ずかしがらず、間違いながら上達するものなのです。 ちなみにこのビデオ、登場人物はアメリカ英語を、ナレーションはイギリス英語で、2種類の発音を同時に学べます。 それではビデオの女の子に負けないように、名詞の不規則変化を学ぶことにしましょう。 |
語尾を「-(e)s」で終わらせることで複数形とするものを「規則変化」とするのに対して、「不規則変化」をする名詞には次のようなものがあります。
(1)母音が変化するもの
foot が feet となるように単語の中の母音が変化して複数形となるもののこと。これは一見母音が変化することで複数を表すと見えますが、英語の歴史から言うと、実はそうではなく、foot の語尾に複数標識がつけられ、音声学的な理由からその影響を受けて母音も変化した時期があり、その後語尾の複数標識が脱落し、母音変化だけが形として残ったものだそうです。まあ、このあたりは現代英語を学ぶ上であまり重要なことではないかも知れませんが、一応事実として補足だけしておきます。(英語で「変母音複数」と呼ばれるものはすべてこの原理によるそうです。)
foot | (足) | [ fút ] | → | feet | [ fíːt ] | 母音変化による複数 [ u ] → [ iː ] |
tooth | (歯) | [ túːθ ] | → | teeth | [ tíːθ ] | 母音変化による複数 [ uː ] → [ iː ] |
goose | (がちょう) | [ gúːs ] | → | geese | [ gíːs ] | 母音変化による複数 [ uː ] → [ iː ] |
man | (男の人) | [ mǽn ] | → | men | [ mén ] | 母音変化による複数 [ ǽ ] → [ é ] |
woman | (女の人) | [ wúmən ] | → | women | [ wímin ] | 第1、第2音節とも不規則に変化 |
gentleman | (紳士) | [ dʒéntlmən ] | → | gentlemen | [ dʒéntlmən ] | アクセントのない-man, -men は弱形発音 [ -mən ] で同じ |
snowman | (雪だるま) | [ snóumæ̀n ] | → | snowmen | [ snóumèn ] | -man, -men にも第2アクセントがあり弱形化しない |
louse | (しらみ) | [ láus ] | → | lice | [ láis ] | 母音発音の変化だけでなく語尾のスペル変化にも注意 |
mouse | (ハツカネズミ) | [ máus ] | → | mice | [ máis ] | 母音発音の変化だけでなく語尾のスペル変化にも注意 |
発音として注意しなければならないのは「 man → men 」では確かに母音部分の発音が変わっていますが、「 gentleman/gentlemen 」では、「 gentle- 」のみにアクセントがあり、「 -man/-men 」はいずれも曖昧母音 [ -mən ] で発音は変わらないということ。しかし「 snowman 」では、「 snow- 」に第1アクセントがあり、なおかつ「 -man/-men 」にも第2アクセントがあるため、「 -man/-men 」の発音も [ -mæ̀n / -mèn ] と変わっています。
また「 louse → lice 」、「 mouse → mice 」では、単複で「 s / c 」とスペルまで違っていることにも注意しましょう。
(2)語尾が -en となるもの
古い時代の英語では、「弱変化複数」というものがあり、ほとんど廃れてしまいましたが、日常的によく使われる一部の単語にはそれが名残として生きています。この -en という語尾を取る不規則複数の単語がそれです。つまり「 -(e)s 」で終わらせることで複数にするのが「原則」となった現代英語から見れば不規則・例外的であっても、この変化は歴史的に見れば「英語本来」とも言えるわけです。
child | (子供) | /tʃáɪld/ | → | children | /tʃɪ́ldrən/ | |
brother | (信仰仲間) | /brʌ́ðɚ/ | → | brothren | /brʌ́ðərən/ | (「信仰仲間」という意味の場合だけ。通常の「兄弟」の意味では、brothers /brʌ́ðɚz/) |
ox | (雄牛) | /ɑːks/ | → | oxen | /ɑ́ːksn/ |
(3)外国語の複数形をそのまま使うもの
外国語の語彙をそのまま英単語に持ち込んだものについては、もとになる外国語の複数形もそのまま持ち込まれます。これはラテン語やギリシャ語由来の学術的な語彙に見られるもので、学術的な言葉であるために語源にまで忠実に複数形ごと英語に持ち込んだわけです。しかしそのような単語でも日常的によく使われるものほど「英語化」が進み、普通の英単語のような「-(e)s」による複数形も持つことがあります。
また同じ単語を元にした複数形が意味により変わる例もあり、これらについては「日常的に馴染みのある意味」では規則変化、特殊な意味では外国語の複数形を用いるというふうに使い分けが行われています。 英語に不慣れな日本人からすれば、どの単語がラテン語やギリシャ語語源なのかなど見た目に判別できないかと思いますが、このような単語はただでさえ学術用語など難しい単語であることが多いので、初対面の際、その単語の意味を辞書で調べる際、複数形の取り方が特殊であることも同時に気づきますので、そのとき、「ああ、これがそうか」と思えばよいでしょう。
(ラテン語由来の例) | ||||||
stimulus | 刺激 | /stɪ́mjʊləs/ | → | stimuli | /stɪ́mjʊlaɪ/ | |
alumnus | 同窓生 | /əlʌ́mnəs/ | → | alumni | /əlʌ́mnaɪ/ | |
bacterium | バクテリア | /bæktɪ́riəm/ | → | bacteria | /bæktɪ́riə/ | |
focus | 焦点 | /fóʊkəs/ | → | foci, focuses | /fóʊsaɪ, fóʊkəsɪz/ | |
radius | 半径 | /réɪdiəs/ | → | radii, radiuses | /réɪdiaɪ, réɪdiəsɪz/ | |
curriculum | 履修課程 | /kəlɪ́kjələm/ | → | curricula, curriculums | /kəlɪ́kjələ, kəlɪ́kjələmz/ | |
medium | 媒体) | /míːdiəm/ | → | media, mediums | /míːdiə, míːdiəmz/ | |
genius | 天才 守護神 | /dʒíːniəs/ | → | geniuses (天才) geniusesgenii (守護神) | /dʒíːniəsɪz/ /dʒíːniaɪ/ | <日常的な意味では普通の英単語の複数形 <特殊な意味では語源に忠実な複数形 |
antenna | アンテナ 触角 | /ænténə/ | → | antennas (アンテナ) antenea (触角) | /ænténəz/ /ænténiː/ | |
datum | データ 基準点、基準線 | /déɪtəm/ /déɪtəmz/ | → | data(データ) | /déɪtə, dǽːtə/ | <アメリカ英語ではdataを物質名詞扱いし、そのまま単数形として用いる |
index | 指標 索引 | /ɪ́ndeks/ /ɪ́ndeksɪz/ | → | indeces(指標) | /ɪ́ndesiːz/ | |
appendix | 付録 盲腸 | /əpéndɪks/ /əpéndɪksɪz/ | → | appendices(付録) | /əpéndɪsiːz/ |
(ギリシャ語由来の例) | |||||
analysis | (分析) | /ənǽləsɪs/ | → | analyses | / ənǽləsìːz / |
crisis | (危機) | /kráɪsɪs/ | → | crises | /kráɪsiːz/ |
axis | (軸) | /æksɪs/ | → | axes | /æksiːz/ |
axesは「ax(e)(斧)」の規則変換による複数形でもありうるが発音が異なる。ax(e) → axes / ǽksiz / | |||||
basis | (基礎) | /béɪsɪs/ | → | bases | /béɪsiːs/ |
basesは「base(基地)」の規則変化による複数形でもありうるが発音が異なる。base → bases /béɪsɪz/ | |||||
ellipsis | (文法的省略) | /ɪlɪ́psɪs/ | → | ellipses | /ɪlɪ́psiːz/ |
「 ellipse (楕円)」の複数でもありうる。その場合は発音が /ɪlɪ́psɪz/ | |||||
phenomenon | (現象) | /fənɑ́ːmɪnən/ | → | phenomena | /fənɑ́ːmɪnə/ |
(日本語由来の例) | |||
tsunami | (津波) | → | tsunami, tsunamis |
ninja | (忍者) | → | ninja, ninjas |
samurai | (侍) | → | samurai, samurais |
kanji | (漢字) | → | kanji, kanjis |
geisha | (芸者) | → | geisha, geishas |
bon-odori | (盆踊り) | → | bon-odori, bon-odoris |
英語には非常に多くの外来語がありますが、その語彙が「英単語」としてどれだけ広く認知され、その地位を確立しているかによって、複数形の作り方が変わってきます。
「 ninja 」を複数形で「 ninjas 」とするのは、それだけすでに「 ninja 」という言葉が「英訳不要」なまでに英単語としてそのまま使われるようになってきたため、英語話者にとっては身近な「英単語」となり、複数形まで英語の習慣に沿って使われるようになったものです。(上記例の中で「 tsunami 」に至っては「 tsunamic 」という形容詞まで派生しています。)
これはその英語話者が日本語や日本文化とどういう距離感を感じているかに依存するもので、「 bon-odori 」などは「 ninja 」に比べればまだまだ英語文化の中での認知が浅く、それが何であるか自体そのままでは理解できない人も多いと思われます。そのような人たちには、まったくの外国語であり、一度は「 bon-odori 」が何であるかを説明し、それを理解してもらってからは、外来語として会話で使えます。でもその段階では「 bon-odori 」という単語への精神的距離感が遠いため、複数形を「 -s」とはしません。もし、その英語話者がしばらく日本に住み、その人にとって「 bon-odori 」が「 ninja 」のように説明不要になるに従い、やがては「 bon-odoris 」という複数形にしたくなるという心理にも発展していくわけです。
逆を言えば、たとえばある英語話者が会話の中で「 daimyos 」と「大名」を複数形にして使ってきたら、それだけでその人が「大名」を説明不要の英単語として理解していることが伺えます。
外来語との「精神的距離感」というのが、その外来語を「いかにも英単語的に扱う(複数で-(e)sをつける)かどうか」のポイントとなります。上で上げたラテン語やギリシャ語由来の外来語は、「学術用語」という堅さを感じるほど精神的距離感が遠くなり、言語の複数形をそのまま取り込みますが、たとえラテン・ギリシャ語由来であっても日常化するにつれ、普通の英単語と同じ「精神的距離感」を感じるようになり、「日常用語」となれば普通に「-(e)s」による複数形を作ってしまうわけです。
これは他の言語に由来する外来語にもあてはまることで、英語にはフランス語やイタリア語などその他の言語からも多くの外来語が入っており、それらの複数形については、上記と同様の発想で「原語の複数形」を使うか「英語風の複数形」を使うかが決まってきます。
ここではただ煩雑になるだけなので、これ以上、外来語の複数については取り上げませんが、外国語本来のつづりや発音を生かして用いるほど、「遠い存在」という意識が働いており、ときにはそれが「学術的」な響きになったり「お洒落」な印象を与えたりするわけです。外来語というのは英語話者にとっても「学んで習得する」語彙であることが多いので、それを(特に原語の発音で)使うというのは教養のアピールともなるのです。
(4)単複同形(単数形と複数形で形がかわらないもの)
単数形の語形がまったく同じ形で複数形としても用いられるものもあります。これについてはそのすべてを通じてあてはまるルールはないのですが、次のような傾向性がある場合もあります。
1、群生動物の名前について、英語話者の文化の中ではその名称から真っ先にイメージされるのが「個体」としての動物ではなく、群れの姿である場合、その群れの名称を「個体」を指す場合にも使うようになったのです。
従ってある動物について馴染みの深い地方の人もいれば、そうでない人々もいて、同じ動物名であっても、それを単複同形として使うか、「dogs, cats」などのようにごく普通の名詞として使うかは地域差や個人差も出てきます。
fish | (魚) | /fɪ́ʃ/ | → | fish |
sheep | (羊) | /ʃíːp/ | → | sheep |
deer | (鹿) | /dɪ́ɚ/ | → | deer (これは多少の「揺らぎ」が認められ、deersの形を認めている辞書もあるが認めていない辞書もある) |
carp | (鯉) | /kɑːrp/ | → | carp, carps |
cod | (たら) | /kɑd/ | → | cod, cods |
trout | (ます) | /tráʊt/ | → | trout, trouts |
salmon | (さけ) | /sæmən/ | → | salmon |
buffalo | (バッファロー) | /bʌ́fəloʊ/ | → | buffalo, buffalos, buffaloes |
「 fish 」については「魚が一匹、二匹、、」と数える場合は単複同形で「 one fish, two fish...」ですが、「3種類の魚」というふうに「種類」を数える場合は「 three (kinds of) fishes 」と普通に複数形を取ります。後者は「 family, people 」などのように集合的に用いられているということです。
「 deer 」: シカ(※雄ジカはstag, hart, buck ;雌ジカは hind, doe, roe ;子ジカは fawn, calf。冒頭のビデオで2歳半の女の子が「f awn 」という単語を使っていましたね?)
英語の文法は決して「理論から導き出された」ものではありません。だからこそ、こういう不統一さや理屈で単純に縛り切れない事例が多く存在するのです。理屈から言えば「 dog, cat 」を個体としてみなし、1匹、2匹、、と数えるのに対して「魚」やその個別種である「 carp, cod, salmon, trout 」などを単複同形として扱う理由がありません。まして「 carp, cod, trout 」には規則変化としての複数形も用いられることがあるのに「 salmon 」だけは広く単複同形のみとされているのも実につじつまの合わない妙なことです。つまりこういう事例から「英語という言語が多くの点で不合理であり、システム的に多くの欠陥も抱えている」ということを知るべきだと思います。
「 buffalo 」に至っては、単複同形として使う人、規則変化の複数形を使う人、さらに複数形の語尾を「 -os, -oes 」とする人がいるなど、もう規則もなにもあったものではありませんね。(ただし私個人の交友範囲を通じての個人的印象としては「 buffalo 」を単複同形と見なしている人が多数派のようではあります。)
※ちなみに buffalo の3種類の複数( buffalo, buffalos, buffaloes )について、仮説的な域を脱しませんが、概ね次のようなことが言えると思われます。
- もともと buffalo は外来語。さらに「群生動物」としてのイメージが強い。そのため単複同形がまず好んで用いられる。
- buffalo を「個体の名称」として受け取っている人にとっても外来語という意識が強いと buffalos と「直接-sのみをつける」複数形を用いたくなる。これは piano→pianos などにも見られるもので、「母音で終わる名詞には、-esをつけるのが純粋な英単語における複数形の作り方」だが、外来語については、もとの単語にそのまま-sをつけて複数形とする。
- buffalo という単語に対してさらに精神的距離感が近くなり、外来語という意識がほとんどなくなると、純粋な英単語にならって「母音で終わる名詞には -es をつける」方法で複数形を作るようになる。
ことによると大勢の英語話者にインタビューして、「あなたは buffalo の複数形としてどの形を常用しますか?そしてbuffaloは、あなたにとってどの程度身近な存在ですか?」などを尋ねると、好んで用いる複数形と、その人の生活環境の中の buffalo の位置づけとの間になんらかの相関関係が見出せるかも知れませんが、現代はテレビ、インターネットにより地域的差異はあまり顕著でなくなってきており、地理的条件が必ずしも情報的位置づけを意味しなくなってきています。
私の限られた交友範囲では、単複同形の buffalo を使う人が圧倒多数でした。
2、その他の単複同形
Japanese | (日本人) | /dʒæ̀ːpəníːz/ | → | Japanese |
Chinese | (中国人) | /tʃaɪníːz/ | → | Chinese |
Javanese | (ジャワ島人) | /dʒæ̀vəníːz/ | → | Javanese |
yen | (円[通貨単位]) | /jen/ | → | yen |
percent | (パーセント) | /pɚsént/ | → | percent |
語尾が「 -ese 」で終わる固有形容詞(国名、地名)に由来する名詞は複数形にしないのが習慣。これといった理由は見当たりませんが、地名を形容詞化した形をそのまま名詞としても用いるようになったことと関係があるのかも知れません。
「 yen 」が単複同形なのに「 dollars 」は複数形があるというのも根拠がありませんが、yen が英語圏以外の「外国通貨単位」であることから「外来語は複数形にしない」習慣が適用されていると考えられます。
「 percent 」については「100につき」=「per cent」という由来があり、それを1語として発音したものなので、意味から考えても「cent(100)」を複数形にしてしまうのは理屈に合わないと言えます。(仮に「 per cents 」にしてしまうと「数百あたりにつき」の意味を成すこととなってしまい、もはや「パーセント(100あたりにつき)」ではなくなるからです。)
情報不足の言い訳をするわけではないのですが、このサイトはあくまでも「英語学習の指針」を伝えることが最大の主眼であるため、個々の文法事項についてありとあらゆる事例を紹介することはしません。名詞の複数形の問題についても、ここで触れていないことがらがまだありますが、このサイトとして解説すべき「発想」や「英語話者の心理」という角度からの話は十分したかと思いますので、これくらいでこの項については終わりにします。さらに詳しい具体例を学びたい方は市販の文法書などをご参照ください。
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