名詞の複数形

 英語には普通名詞の単複を言葉の形でも区別するという習慣があります。
 必要に応じて普通名詞の単数形・複数形を使い分けるということは中学の段階で習うことですが、日本語にはそういう習慣がないため、なかなか感覚にまで定着させるのは難しいことです。現実問題として言えば、英語話者から見れば外国人である私たちが名詞の単複で間違えても、あまり大きな問題が発生することはないと思われますが、これもやはり「慣れ」の問題で、日ごろから名詞の単複に問題意識を持っていれば、徐々に自然と正しい形が口をついて出るようになります。

 まずはごく基本的な普通名詞について、頭で考えるのではなく感覚的に単複の語形を選んで使えるように自分自身を訓練します。これはあとで述べる「冠詞」の使い方とからめる必要があるので、ここではごく簡単に説明しますが、

a cat (A)「どれとはいわないが、この世に多くいる猫の中から任意に取り出した1匹の猫」
a cat (B)「実際に目にしている猫であり、数は1匹」
the cat 今話者と聞き手の両方が共通理解している「その猫」
cats (A)の意味の複数形(「猫」全般を指す。「猫という動物」)
some cats (B)の意味の複数形(何匹か具体的な数字はともかくとして、少なくとも複数の猫)
the cats 1、お互いが了解している「あの猫たち」 2、世界中の猫一匹残らず)

 これらの原則的な区別をしっかり理解し、使いこなすことが重要です。だから名詞の使いこなしとは「冠詞」の用法とセットになって身につくものなのですが、たとえそれを身につけたくても、普通名詞をどうやって複数形にすればいいかが分からないとできません。
 まだまだ英文理解の直接的な手がかりとなる話に入る以前の「断片的基礎知識」の段階なのでちょっと退屈かとは思いますが、「名詞の複数形の作り方」がわからないとさすがに困りますので、ここでそれを解説します。

 一応、色々な場合をまとめて解説しますので、中にはたとえば中学校段階の方にはまだ必要ない解説も出てきます。ですから「すでに習ったことを確認する」か、ちょっと「まだ習っていないことにはどんなことがあるか先取りして眺めておく」気持ちで読んでください。学習者の現状によっても話は変わってきますが、ここで何かを暗記しようとしなくても構いません。すでに覚えていなければならないことで記憶が曖昧になっている事柄があれば、それはしっかり復習していただきたいですが、そうでなければざっと見通しておいて、あとから必要に応じて詳しく学びなおしてもよいでしょう。

 それでは、普通名詞について、その複数形の作り方を見ていくことにしましょう。

 名詞の複数形については大きくわけて3種類あります:

  1. 規則的に変化するもの
  2. 不規則な変化をするもの
  3. 単複同形(単数形と複数形で形がかわらないもの)

※中には上記1~3にまたがる名詞もあります。

 「名詞の複数形なんて簡単じゃないか。-(e)s で終らせればいいだけで、あとは多少の例外を覚えておけばOK」なんてたかをくくっている人、次の「規則的に変化するもの」だけでも、ちゃんと学ぶと意外と面倒な問題が沢山あることに気づきますよ。

(1)規則的に変化するもの

 原則としては単数形に「-s/-es」を加えるる形となります。この語尾が「複数語尾」であり、日本語の「~たち」にあたると考えてもよいのですが、日本語の「~たち」は人にしかつかず、さらにつける・つけないは自由なことも多いのに対して英語の複数形は言葉の習慣であり、つけるべき複数語尾をつけないとそれは間違いとされます。

(1)一番簡単なのは、名詞にただ「-s」をつけるだけのもの。その「-s」の発音は名詞の語尾が「有声音」か「無声音」かに合わせて [ s ], [ z ] となります。 [ s/z ] は発音するときの口の形がまったく同じであり、だから名詞語尾が有声音ならそのまま有声音、無声音なら無声音で発音するのが読みやすいからです。

名詞語尾が無声音: books, desks, pets, cats など
名詞語尾が有声音: doors, eggs, games, chairs など

(2)名詞語尾の発音が / s/z / と紛れてしまい、複数形であることが発音から明確にならない場合は、「-es / iz / 」で終わらせます( 具体的には / s, ʃ, ʒ, tʃ, dʒ / )  (ただし英語の歴史から言うと「発音しにくいから /-iz/ というふうに / i / 音を挟んだのではなく、実はもっとも古く、複数語尾はすべて「 -es 」だったのです。それが -es の e が脱落するようになり、そのまま s をつければよい形となるものが現れたというのが本当のところなのだそうです。つまり「 -es 」を / iz / と読まないと「読みにくい、聞き取りにくい」ものだけが、古い形をそのまま残したということですね。これなど「 a/an 」の使い分けの歴史に似ています。)

bus (バス) /bʌs/ buses/bʌ́sɪz/
lens (レンズ) /lenz/ lenses/lénzɪz/
box (箱) /bɑks/ boxes/bɑ́ksɪz/
bush (藪) /bʊʃ/ bushes/bʊ́ʃɪz/
bench (ベンチ) /bentʃ/ benches/béntʃɪz/
face (顔) /feɪs/ faces/féɪsɪz/

※原則として単語の意味や発音記号は書きません。もし意味のわからない単語があったり、単数形の発音も分からない場合は goo辞書をご参照ください。(自らが一手間かけるのも単語を覚える上では大切な経験となります。)

★注意1:もとの単数形が最初から「 -e 」で終わっている場合は、「 -s 」のみを加えますが、単数形のとき発音されなかった「 e 」も複数になったときは [ iz ] の発音の一部となります。

★注意2:日本人が英単語を「カタカナ読み」してしまうと「month」などをつい「monthes」としてしまいがちですが、「month」の語尾は [ θ ] 音なのでこれはまったくの原則通りです。

month (月)[ mʌ́nθ ] months[ mʌ́nθs ]
bath (入浴)[ bǽθ ] baths[ bǽθs ]
cloth [ klɔ́ːθ ] cloths[ klɔ́ːθs ] (ただし clothes [ klóu(ð)z ] は「衣類」の意味)

★注意3:複数形の語尾は「発音」によって決まるものであり、スペルで決まるのではありません。ここを混同しないように。

stomach(胃) /stʌ́mək/ stomachs /stʌ́məks/  ( ch は [ k ] と発音)

★注意4:文字を複数形にする場合、ただ「 -s 」をつけて構いせんが、見た目にわかりにくくなるため、「 's」をつけることも多くあります。特に小文字を複数形にすると「as, is」など別の単語に見えてしまいますので、小文字の複数形はすべて「's」で複数にするべきでしょう。

There are two t's in 'hitting'.

(hittingという語には t の文字が2つあります)

I have five A's and three B's. 

(私<の成績に>は、Aが5つ、Bが3つある)

★注意5: house という単語はやや変則的で「 houses 」の発音が「 [ z ] の前方同化(「様々な音声学的現象」の「066.同化」参照)して、もとの単数形「 house 」の語尾が有声音化し [ háuziz ] という発音になります。

(3)単数形の語尾が「 o 」1個で終わるタイプの名詞には要注意!これは「 -es 」をつけるものと「 -s 」だけをつけるものがあり、さらに加えてそのどちらでもいいというもさえあります。

potato /pətéɪtoʊ/ potatoes /pətéɪtoʊz/
tomato /təméɪtoʊ/ tomatoes /təméɪtoʊz/
hero /híːroʊ/ heroes /híːroʊz/
echo /ékoʊ/ echoes /ékoʊz/

 これら「 -es 」をつける「 -o 」で終わる単語は日常的に馴染みの深い名詞であることが多いと言われます。一方、語源的に別の単語の省略形に由来するものは、-s だけをつけます。これらはたとえば「 photographs 」がまずあり、そこから「 graph 」が脱落したと考えればよいでしょう。

piano /pɪǽːnoʊ/ (<pianoforte) pianos /pɪǽːnoʊz/
photo /fóʊtoʊ/ (<photograph) photos /fóʊtoʊz/
kilo /kíːloʊ/ (<kilogram, kilometer, etc) kilos /kíːloʊz/
auto /ɔ́ːtoʊ/ (<automobile) autos /ɔ́ːtoʊz/

 このように「 -o」で終わる単数形は、その複数形の作り方がまちまちに見えます。「日常的に馴染みがある」とか「もともと別の単語の短縮形だ」と言われても、英語を学び始めた人たちにとって、そんなことピンと来ませんよね。ですから、基本としては、「 -o 」で終わる単語は(確信が持てなければ)辞書で複数形をきちんと確認するというのが一番でしょう。

banjo /bǽndʒoʊ/ →   banjos, banjoes /bǽndʒoʊz/
mosquito /məskíːtoʊ/ →   mosquitos, mosquitoes /məskíːtoʊz/
mango /mǽŋɡoʊ/ →   mangos, mangoes /mǽŋɡoʊz/
zero /zíːroʊ/ →   zeros, zeroes /zíːroʊz/
volcano /vɑːlkéinoʊ/ →   volcanos, volcanoes /vɑːlkéinoʊz/

 英語本来の語彙に「 -o 」で終わるものはもともとなく、これらは外国語から取り入れられた外来語です。
 英語に多少なれてくると自然と理解されることですが、英単語には非常に多くの「外来語(外国語から取り入れられた語彙)」がまじっており、それは日本人が外来語と純粋な大和言葉とに精神的な距離感を違って感じるのと同じく、英語話者にとっても外来語は、「やや外国語っぽいイメージ」がつきまとうものです。そのようなものは、「ただ -s をつける」傾向が強く、一方、より深く英語文化に浸透した単語は、完全な英単語としてみなされるようになり、そうなると「 -es 」の語尾をつける傾向が出てきます。
 その理由は「外来語」という精神的距離の遠さが「外国語由来の言葉だから形を変えないで、そのまま使って、ただ -s をつけよう」と感じさせるからです。古くから英単語である場合は、母音で終わる単語には「-es」をつけるもなので、外来語であっても、日常的な使用頻度が高くなり「身近に感じられる」ようになると、そういう「昔から英単語だった」ものと同じ扱いを受けるようになってきます。
 上記のように「どちらも使われる」というのは、外国語由来の英単語が、完全な英単語になる「過渡期」にあるものと言えます。だからいかにも外来語という扱いもされるし、すでに完全な英単語という扱いをする人も大勢いるという現状があるわけです。このような「揺れ」が現実に存在することからも、「名詞の単複」ということさえ「人が決めたルールに従っている」のではなく、英語文化を共有する人々の「感性」によってそのスペルなどが定着していることがわかります。

buffalo /bʌ́fəloʊ/ buffalo, buffalos, buffaloes /bʌ́fəloʊz/

 この「 buffalo 」にいたっては、あとで述べる「単複同形」まであり、「 -os 」という外来語扱いの複数形と「 -oes 」という英語としてすっかり浸透した複数形を加え、3通りの複数形が辞書的には認められています。単複同形についてはあとで詳しく述べますが、「群をなして生活する生き物」によくある傾向で、もともと群につけられた名称が個体にもそのまま用いられたのが単複同形です。だから buffalo という動物も英語文化の中では「群生動物」というイメージが先行する人たちもいて、その人たちはこの単語を単複同形で使いますが、 buffalo に馴染みのない地方にいる英語話者たちは、 dog, cat 同様に単なる動物なわけです。そして  buffalo という o で終わる「外来語」との日常的距離感によって「 -os/-oes 」のどちらを主に使うかという傾向性が出ているわけです。(こうなってくると「規則変化」と言いながら、ちっとも規則的でないように思えてきますね。)
 ちなみに個人的な経験の範囲内では、「buffalo」の複数形は?という質問に対して、圧倒的多数の英語ネイティブが「buffaloだ。複数形も同じだ」と答えています。辞書的には、3通りの複数形すべてが認められていることを知らない人もかなりいる印象です。

余談ですが、こんな英文があります

 Buffalo buffalo Buffalo buffalo buffalo buffalo Buffalo buffalo.

 一見して、ただ「buffalo」が、8つ並んでいるだけ(なぜか大文字、小文字が混じっていますが)で、とても「英文」には見えませんが、これでちゃんと意味の通った文なんです。一種の言葉遊びとして英語圏ではかなり有名なものです。

文法的に正しい英文で、同音異義語および同音異字がいかに難解な構文を作り出せるかを示した一例である。バッファロー大学准教授のウィリアム・J・ラパポートが最初にこの文を示した1972年以降、たびたび諸文献で議論されている (Wikipedia)

 これは「baffalo」という単語が次の意味に使われることを利用したものです:

  1. ニューヨーク州バッファロー市(またはその他の「バッファロー」という名の場所)。本文では動物の前に形容詞的に用いられている。
  2. 動物のバッファロー。複数形は "buffaloes" や "buffalos" となるが、単複同形も取ることができ、ここでは冠詞を避けるため複数形として "buffalo" が用いられている。
  3. 動詞の buffalo で、「いじめる」、「惑わす」、「欺く」、「怖がらせる」を意味する。

 このように「普通名詞(無冠詞複数)」、「地名」、「動詞」としての意味を組み合わせると:
[Those] (Buffalo buffalo) [whom] (Buffalo buffalo buffalo) //buffalo (Buffalo buffalo).
バッファロー市のバッファローおびえさせるバッファロー市のバッファローは、// バッファロー市のバッファローおびえさせる
 となるわけです。( [Those], [whom] は文構造をわかりやすくするため補ったもので、なくても文は成立します。)

(4)「 -f, -fe 」で終わる単語も要注意!これらは先の「 house /haus/ →houses /háʊzɪz/ 」と同様に複数語尾の -es を [ iz ] と発音し、それが前方同化を起こす(=直前の子音を有声化する)ことで [ f ][ v ] となるケースが原則。しかし、そうならない例外もあります。またやはり、どちらでもいいという例もあります。

 こうなってくると原則はあっても、例外に接したときすぐそれを見抜くのはまず不可能と言えます。英語話者たちは日常でそういう例に数多く接する中で「正しい形に馴染んでいる」に過ぎず、逆を言えば、正しくない形が「耳に逆らう」という感性を作り上げているわけです。また、この種の例外は決して多くないので、先にそれらを覚えてしまい、あとは常に原則通りと考えておいてもいいでしょう。(それでも不安なときは必ず辞書で確認するのが一番です。)

原則通り(逆行同化で、前の /f/ が有声化):
knife ナイフ/naif/  knives/naivz/
wife /waif/  wives/waivz/
wolf /wʊlf/  wolves/wʊlvz/
shelf /ʃelf/  shelves/ʃelvz/
half 半分/hæːf/  halves/hæːvz/
thief 泥棒/θíːf/  thieves/θíːvz/
life 人生/laɪf/  lives/laɪvz/
leaf /líːf/  leaves/líːvz/
 
例外的(進行同化で、後の -s が無声化)
safe 金庫/seɪf/   safes/seɪfs/
chief 首長/tʃíːf/   chiefs/tʃíːfs/
mischief 迷惑/mɪ́stʃiːf/  mischiefs/mɪ́stʃiːfs/
proof 証拠/pruːf/  proofs/pruːfs/
belief 信条/bɪlíːf/  beliefs/bɪlíːfs/
gulf /ɡʌlf/  gulfs/ɡʌlfs/
cliff /klɪf/  cliffs/klɪfs/
 
どちらの形もある:
handkerchief ハンカチ /hǽŋkɚtʃìːf/   handkerchiefs /hǽŋkɚtʃìːfs, hǽŋkɚtʃìːvz/
dwarf (伝説中の)小びと /dwɑːrf/  dwarfs, dwarves /dwɑːrfs, dwɑːrvz/
turf (移植用の)芝土片 /tɚf/  turfs, turves /tɚfs, tɚvz/
hoof ひづめ /huːf/  hoofs, hooves /huːfs, huːvz/
scarf スカーフ /skɑːrf/  scarfs, scarves /skɑːrfs, skɑːrvz/
wharf 波止場 /wɑːrf/  wharfs, wharves /wɑːrfs, wɑːrvz/

※複数形に何を認めるかの記述は辞書によって若干のばらつきが認められます。

(5)複数語尾が -ths となるもの。これも少々やっかいです。本当に英語って規則通りにいかない例外だらけで、困った言語ですよね。この語尾が -ths となる単語も一応の原則らしきものはあっても例外多発でとても「ルール」とは呼びにくいものがあります。慣れるしかないということですね。(つまり使ったことのない-thで終わる名詞を複数にするときは辞書で確認ということ)

[ θs ] :進行同化による発音。つまり前の子音(無声音 /θ/ ) に続く -s がそのまま無声音で発音される例で、「それまでの声帯振動状態をそのまま保ってあとの子音を発音する」という音声学的にはもっとも原則的な発音のされかたと言えます。主に「短母音+ th 」の場合、「 -ths 」は無声音 [ θs ] で発音される傾向があります。

deaths(死) /deθs/
smiths(鍛冶屋) /smɪθs/
months(月) /mʌnθs/
breaths(呼吸) /breθs/
depths(深さ) /depθs/
lengths(長さ) /leŋθs/
ninths(9分の~) /naɪnθs/
births(誕生) /bɚθs/
hearths(炉床) /hɑːrθs/
fourths(4分の~) /fɔːrθs/
faiths(信仰) /feɪθs/
heaths(ヒース<低木>) /hiːθs/
growths(成長) /gróʊθs/

[ ðz ] :逆行同化で発音される例。あとの「-s /z/(有声音)」が、前の -th の発音を有声化させて /-ðz/ という発音になったものです。 主に「長母音(二重母音含む)+ -th 」が複数になると [ ðz ] の発音になる傾向があります。

truths(真実) /truːðz/
mouths(口) /maʊðz/
baths (入浴) /bæðz/

[ θs ], [ ðz ] どちらの発音も認められている例

cloths(布) /klɔːðz, klɔːθs/
youths(若さ) /juːθs, juːðz/
oaths(誓約) /oʊðz/
sheaths((刀剣の)さや) /ʃiːðz/

 以上が「規則的に変化するもの」です。「どこが規則的なんだ!?」と言いたくなるくらい様々な場合があって困ったものですね。


ページトップへ HOMEへ 次のページへ

inserted by FC2 system