聞き取り能力向上の練習方法

 古くから英語教育でその有効性が確認されているリスニングの練習方法としては次のようなものがあります:

  1. シャドーイング(Shadowing)
  2. オーバーラッピング(Overlapping)
  3. ディクテーション(Dictation)

shadow

 1のシャドーイングというのは「shadow(影)」を動詞化した「影になる、影のようにあとからついていく」という意味の shodowing であり、聞こえてくる音声を追いかけるように発音していく練習方法です。テキストなどは見ないで、耳から聞こえてくる音声だけを頼りにしつつ、同じ言葉を自分の口で言い続けるというものです。

 英文の意味が分からなくても、「音真似」を続けるだけで多少は可能ですが、長くは続かないでしょう。

 これは英語音声でなく、日本語でやっても決して簡単なものではありません。人間というのは1つのことに注意を払うとその他の注意が散漫になる傾向にありますので、「聞く」ことに夢中になると口がお留守になりますし、言うことに気を取られていると、その間に流れ来る音声を聞き漏らします。

 聞こえてくる音声をそのまま口で言い続けるというのは、「聞く」作業と「話す」作業を感覚的に切り離すというか、機械的な処理を続けるものなので、慣れないと思ったほどうまくいきません。

 ものの試しに日本語のニュース番組のビデオを用意してください。Youtubeでも何でも構いません。そのニュースを再生し、アナウンサーの音声をその場で「まったく同じ」に口で言い続けてみてください。初めてやってみて5分も続いたら素晴らしい才能があると言えるでしょう。

interpreter

 実はこのシャドーイング、同時通訳の基礎訓練にも用いられており、聞こえてくる言語が英語、口から出る言語が日本語という別言語(その逆もやるわけですが)になっているという違いだけで、基本要領は同じなんです。通訳までできるほどのレベルになりますと、「英語が理解できる、英語が話せる」のは当然のことですので、あとは耳から聞こえてきた言語情報を口からは別言語にしてアウトプットするという「機械的作業」に徹するわけです。そこで「聞く」ことと「話す」ことを感覚的に切り離しつつ、耳も口も、どちらも止まってしなわない訓練が必要になるというわけです。

 英語学習は必ずしも翻訳や通訳を目的としているわけではなく、まずは英語そのものが使えるようになることを目指しますので、耳から聞こえてくる言語と口から出る言語は同じで構いません。最初、日本語のニュース番組などで練習してみて、次に比較的スピードのゆったりした英語素材に挑戦してみるとよいでしょう。

 2のオーバーラッピングは、英文テキストが用意できるとき、それを目で見ながら、聞こえてくる音声に「自分の声を重ねて」読む練習をするものです。シャドーイングでは耳から音声が聞こえてくるまで真似のしようがありませんが、こちらはテキストを読みながらですから、聞こえてくる音声と「同時」に自分でも英文を読むことができます。

 オーバーラッピングの練習ポイントは「英語ネイティブの音声にぴったりと自分の発音を重ねる」ように練習することです。緩急も、抑揚も、「お手本」の声とできる限りまったく同じように重ねて読むようにします。そうすることで自分が持っている(日本語的な)発音の習慣とのずれが認識され、英語本来の切るべきところ、つなげるべきところ、声の高低やピッチの上下など、あらゆる発音要素を総合的に訓練します。

 もちろん同じ英文でも人によって読み方には個性がありますので、お手本の読み方がすべてではないのですが、まずは英語ネイティブの発音に自分の発音を重ね合わせる練習によって、これまで学んだ様々な音声学的現象や抑揚などの言語習慣を実感を伴いながら体得していくことで大きな進歩が期待できます。

 あれこれと多くの素材に手を出すよりも、まずは1つの音声素材にしぼって、完成度の高いオーバーラッピングができるまでじっくりと練習してください。最初はごく短い素材で構いません。慣れるに従って、1分、2分、3分以上の原稿でも練習しましょう。なかなか適切な素材を入手するのは困難かも知れませんが、今の時代インターネットがありますので、根気よくさがせばyoutubeなどでも英語字幕のついたスピーチなどを見つけられると思います。また検索で「リスニング」などをキーワードにして、この目的にあった音声素材を提供しているサイトを見つけられるかも知れません。もちろん、市販の英語CD付教 材などを活用するのも大いに結構なことです。

 どうしても格好の音声素材が見つからないときは、次のディクテーションによって、「自分でテキストを書き起こす」という手もあります。

※このサイトの随所に埋め込まれた EnglishCentral の動画には、最低でも英語字幕がついています。また字幕全体(スクリプト)をこのサイトにまるごと紹介している場合もありますので、「原稿を見ながらオーバーラッピング」をする練習には最適だと思います。
 あまり長い素材では疲れてしまいますので、1~2分程度の動画素材を使って、ネイティブの音声にぴったりと自分の声が重なるくらいまで練習してみてください。地味な練習ではありますが、2ヶ月程度これを辛抱して続けると、明らかに自分の技能(聞き取り+話す力)が伸びていることを実感するに違いありません。

dictation

 3のディクテーションは学校のテストなどに取り入れらていることも多くありますので、すでにどういうものかはご存知でしょう。要するに耳で聞いた英文を「書き取る」ことです。ディクテーションの形式としては、全文まるごと聞き取って文字にするものと、あらかじめテキストが一部虫食い(空白)で与えられており、その空白を聞き取って埋めるというものがあります。後者は初歩的、入門的で、空欄以外を「意味も分からず聞き流す」ことが許されてしまいますので、とっつきやすい分、あまり高い学習・訓練効果は期待できません。大変で面倒かも知れませんが、できるだけ全文書き取りに挑戦してみましょう。

 2のオーバーラッピングの練習をしたくても格好の素材を見つけられないときは、youtubeでオバマ大統領の演説など、内容のしっかりしたものを検索で見つけ、ディクテーションで原稿を作り、それを見ながら練習するとよいでしょう。

 ディクテーションやオーバーラッピングの練習用として作られた音声素材もあると思いますが、概して簡単すぎます。入門者が無理なく聞き取れるようにという配慮から、実際の会話とは少々かけ離れた不自然なまでのゆっくりとしたスピードで読まれていたり、聞き取りの困難な音の連結、脱落、同化をなるべく含まないように録音されていたりするからです。

 これまでの本書の内容を通じて、すでにかなり高いレベルに達している読者ならば、「英語学習者の都合」を考慮していない「現実の英語」を素材とした方が、納得のいく教材となるのではないでしょうか。短い素材としては英語のテレビコマーシャルや、ドラマのワンシーンなども楽しく学べます。その意味で、もともと教材用という意識によらず、アメリカなど英語圏で英語ネイティブを対象に放送するためのコマーシャル、芸能人インタビュー、スピーチなどが素材として豊富にある EnglishCentral からこのサイトに多くの動画を埋め込んでいるわけです。(なお EnglishCentral にも「教材用」として録音された素材もあります。)

 オーバーラッピングをする際、あらかじめ原稿を通読して、内容をよく把握しておきましょう。発音や聞き取りの練習とはいえ、「内容がわかっている」ことが一番重要ですからね。

 オーバーラッピングの練習では、最初1文単位、場合によっては文の一部だけをリピート再生しながら、自分の口(発音)を合わせていく必要があるでしょう。くれぐれも「お手本の音声を無視して勝手に自分流の読み方をしない」こと。それではオーバーラッピングの練習としての意味がありません。

heatset

 オーバーラッピングは、実に地味な練習ですが、1日わずかな時間でも継続して取り組みましょう。個人差はありますが、大体2ヶ月ほどこの練習を続けますと、「ごく自然に英文が口をつく」実感がわいてきますし、何よりも「英語が聞き取れる!」という新鮮な感覚があふれてきます。長く続けるにつれ、発音の上達も目覚ましいものになり、「海外での生活が長いのですか?」とか「アメリカのどこで英語を学んだのですか?」などと英語ネイティブからでさえ聞かれるようになることでしょう。
 「いいえ、日本から出たことがまだないんですよ」と答えたときの相手の驚く顔を楽しみにしていてください。

 オーバーラッピングの仕上げとしては、お手本の音声を流さずに自分の朗読だけを録音してみて、それを聞いて、「まだここが未熟だな」と感じる箇所を原稿にチェックを入れ、さらにお手本の音声と比較してみるとよいでしょう。

 コンピュータに詳しい方ならば、フリーソフトでも、「マルチトラックの音声編集ソフト」を入手し、別々のトラックにお手本の英語ネイティブの声と自分の声を録音すれば、簡単に発音比較ができます。


 
ブルース・リー:「水になるんだよ」



 さてそれではさっそく聞き取りの訓練をはじめましょう。
 カンフーブームの元祖、Bruce Lee のインタビューのワンシーンです。わずか35秒の短い素材で、初級レベルの動画ですから、軽い気持ちで取り組んでみましょう。

 ブルース・リーは英語ネイティブではありませんが、小気味よいテンポで、自らの言葉としての英語を話している様子が伝わってきます。字幕のスクリプトを添えますので、まず繰り返し聞いて耳を慣らしたら、ディクテーションしてみて、正しく書き取れたかをスクリプトで確認してみてください。
 その次にスクリプトを見ながら、オーバーラッピングしてみましょう。

 EnglishCentralの埋め込み動画は「見る、学ぶ、話す」の3つのモードがありますが、それにこだわらず、「見る(=聞き取る)」に何回も戻っても構いません。

  1. This is what it is, okay?
    こういうことなんだ、いい?

  2. I said, "Empty your mind."...
    心を空っぽにしてって言ったよね。

  3. ..."Be formless, shapeless like water."
    形が定まっていない、形がないものにするんだ、水みたいにね。

  4. Now you put water into a cup, it becomes the cup.
    さあ、水の中にカップを入れると、水はカップの形になるよね。

  5. You put water into a bottle, it becomes the bottle.
    水をびんに入れると、びんの形になる。

  6. You put it in a teapot, it becomes the teapot.
    きゅうすに入れると、きゅうすの形になる。

  7. Now, water can flow or it can crash.
    そう、水は流れることもできるし、音を立てて砕けることもできる。

  8. Be water, my friend.
    水になるんだよ。


 
スティーブ・ジョブズ: 成功の法則

 数多くの名言を残した故スティーブジョブスのインタビューから。
 約1分半ほどの動画ですが、それくらいの時間でもかなり語数が多いと思います。最初、日本語字幕を(あるいは英語字幕も)非表示にして、どれくらい耳で聞いて理解できるか試してみましょう。まったく理解できなくても落胆する必要はありません。大事なのは「どの部分が、なぜうまく聞き取れなかったのか」を冷静に分析し、正しく今後の対策を得ることです。

 日本語字幕はあくまでも参考程度に。「どう訳すか」を考える悪い習慣からできるだけ早く脱却するように努めましょう。


  1. People say you have to have a lot of passion for what you're doing...
    自分のやっていることに熱い情熱をもっていなければならない、と言われます...

  2. ...and it's totally true.
    ...全くその通りです。

  3. And the reason is, because it's so hard,..
    その理由は、非常に難しいからです、...

  4. ...that if you don't, any rational person would give up.
    ...もし情熱がなければ、理性的な人はあきらめてしまうからです。

  5. It's really hard and you have to do it over a sustained period of time.
    本当に困難で、息の長い期間やっていかなければならないのです。

  6. So, if you don't love it,...
    ですから、もしそれが大好きでなければ、...

  7. ...if you're not having fun doing it and you don't really love it,...
    ...楽しんでやっていないなら、本当に好きじゃないなら、...

  8. ...you're gonna give up.
    ...断念するでしょう。

  9. And that's what happens to most people, actually.
    実際に、大半の人がそうなのです。

  10. If you really look at the ones that ended up,..
    現実に、「社会的に見て」いわゆる成功した人を見てみると、...

  11. ...you know, being successful unquote in the eyes of society,...

  12. ...and the ones that didn't, oftentimes it's the ones that are successful love what they did,...
    ...そして、成功しなかった人を見るなら、多くの場合、成功しているのは自分のやってきたことが大好きな人です、...

  13. ...so they could persevere when, you know, it got really tough.
    ...だから、本当に困難なときも、耐えていけたのです。

  14. And the ones that didn't love it quit because they're sane, right?
    一方、やっていることがあまり好きでない人はあきらめてしまいます、だって、そういう人たちは分別があるでしょ?

  15. Who would wanna put up with this stuff if you don't love it?
    本当に好きでないなら、こんなことに我慢したいと思う人はいないでしょう。

  16. So, it's a lot of hard work and it's a lot of worrying constantly.
    それは、とても重労働で、いつも心配が絶えないのです。

  17. And if you don't love it, you're gonna fail.
    大好きでなければ、失敗します。

  18. So, you've gotta love it, you've gotta have passion,...
    ですから、それが大好きでなければならないのです、情熱を持っていなければならないのです、...

  19. ...and I think that's the high order bit.
    ...それが上位ビットだと思います。

  20. The second thing is you've gotta be a really good talent scout.
    2番目には、本当に高い才能を持ったスカウトでなければなりません。

  21. 'Cause no matter how smart you are, you need a team of great people.
    なぜなら、自分がどんなに頭がよくても、優秀な人材のチームが必要だからです。

  22. And you've gotta figure out how to size people up fairly quickly,...
    人をかなり素早く評価する方法を見つけ出なければなりません、...

  23. ...make decisions without knowing people too well,...
    ...人を知りすぎることなく決断しなければなりません、...

  24. ...and hire them and, you know, see how you do, and refine your intuition.
    ...そして、人を採用して、自分のやり方を知って、直感を磨かなければなりません。

  25. And be able to help, you know, build an organization that can eventually just build itself,...
    そうして、いずれは自ら立ち上がっていくような組織を築くのを促進できなければなりません、...

  26. ...'cause you need great people around you.
    ...というのも、自分の周りにはすぐれた人材が必要だからです。


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