聞き取り

発音について、これまで能動的な側面から解説してきましたが、ここでは「聞き取る」と いう受動的な技能について見て行きましょう。

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聞き取りの能力とは

 これまで言語学習における発音の重要性を踏まえ、英語という言語に含まれる個々の母音・子音の正しい音の出し方から、単語、フレーズ、文章という大きな単位について「意味に即して読める」ための解説・練習を行ってきました。

 音声によるコミュニケーションには、自らが言葉を発するという能動的な側面と、相手の言葉を聞いて理解する受動的な2つの側面があります。これまでは「話す」能力の基礎としての発音に焦点を当ててきましので、ここからは「聞き取る」という受動的な技能についても述べていくことにしましょう。

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 概念として「話す」と「聞き取る」という2つの側面に分けて考えることができますが、「音声コミュニケーション」という1つの範疇に含めることも、もちろん可能です。自らの発音を鍛えることは、そのまま自分が認識できる言語音のレパートリーを拡大することですので、自然と聞き取りの能力向上にもつながっています

 ところで「聞き取れる」というのは、現実にどのような能力を指しているのでしょうか。英語という日本語にはない音を用いて発音される言語の習得では、「音が出せる、聞き取れる」という側面が第一歩の基礎ではありますが、音が聞き取れれば「相手の言うことが理解できる」とは限りません。

 音声コミュニケーションにおいて、「聞き取る」とは:

  1. 英語という言語に使われている個々の音素を聴覚的に把握できる。
  2. それらの音の組み合わせとして「単語」や「フレーズ」が発音を通じて把握される。
  3. 話者の意図・心理が音声的に様々な変化をもたらしたとき、それを機敏に理解できる。
  4. 耳から聞こえてきた順番に意味を理解し、和訳することなく相手の発言を解釈できる。
  5. 話の流れを正確に捉え、「予測をもって」相手の発言を聞くことができる。

 などの様々な技能が総合され、はじめて可能となります。

 上記のうち、1や2は、「音声認識」の範囲ですので、今まで学んできた「母音や子音の発音」がそのまま当てはまりますが、「聞き取る」ということは「音を聞き取る」以上に「意味を聞き取る」ことができてこそ、コミュニケーションの技能といえるものです。

 よく考えてみると、上記1から5のどれも、私たち日本人が日本語を聞き取れている理由としても当てはまっていることがわかるでしょう。生まれてからずっと日本語環境の中にいた私たちは、特に意識して何らかの技能を訓練してきたという自覚がないと思いますが、自分が属する言語文化の中で用いられる音素を長い時間をかけて習得してきたのです。最初は上手に発音できなかったのが、膨大な時間を通じて多くの音に接し、それを模倣し、間違えたり修正されたりもしたのです。

 英語における「聞き取り」の技能向上を目指すとき「なぜ私は日本語が聞き取れているのだろう」という素朴な疑問からスタートしてみることも、有効な手がかりを与えてくれます。


1、英語という言語に使われている個々の音素を聴覚的に把握できる。

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 日本人が日本語を聞き取れる理由は、その発音に習熟しているからです。これは「耳が慣れている」ともいえますが、それ以上に「自分自身が日本語の音を出せるから」です。これを英語技能に置き換えて言うと、英語の発音記号を正しく読めない人が、英語を聞き取れる理由はない、ということになります。ローマ字的に読むのではなく、英語という外国語が持つ、日本語にない音を白紙の状態から身につけるプロセスが必要となり、だからこそこれまで多くのページを割いて細やかに英語の発音を解説してきたわけです。

 書かれた文章を理解する際であっても、読者はそれを(黙読も含め)読み上げて音声イメージに一旦変換し、その音を通じて意味を感じているのです。聞き取りにおいても、聞こえてきた音を自分の中でリアルタイムに復唱しています。自分が日ごろ用いている音と違った発音によって(=強い訛りで)外国人が日本語を話したときなどは、一度頭の中で自分が日ごろ用いている音声で「言い直して」からその言葉を理解しています。

 音声認識の能力という観点だけから言うと「自分で同じ言葉を繰り返せる人は、その英文が聞き取れている」とも言えるでしょう。意味のわからない言葉がまじっていても、とりあえず「音」として認識して「~とはどういう意味ですか?」などとその音の並びによって構成される語を自分でも発しながらその意味を尋ねたりもできるのは、最低限、「知らない単語の発音」だけは聴覚的に認識できているからです。


2、それらの音の組み合わせとして「単語」や「フレーズ」が発音を通じて把握される。

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 発音記号を一通り学び、練習し、辞書を引けば発音記号を見て、単語も読めるようになりました。しかしそれだけではまた文章全体を聞き取るには力不足でしょう。現実の英会話では、単語ごとに丁寧に区切って発音されず、少なくとも意味のまとまった一定の長さを一気に読みます。書かれた英文を見ると知らない単語など含まれていないのに、音声で読み上げられるとそれが聞き取れないということが初歩段階ほどよくあります。単語1つだけを発音されれば、それが何を発音したのかは聞き取れても、フレーズや文章になってくると「意味として聞き取れない」のはなぜでしょうか。

 まず音声面だけから考えますと、いつくかの単語が連なって連続的に発音されたとき、そこに様々な「音声学的現象」が発生し、そのメカニズムを知らない人には「そう読んでいる」とさえ気づかないほど変化した聞こえになることが多くあります。また知識としてはそういう音声学的現象が起きると知っていても、自分がそれを練習し、「音の連結、脱落、同化」が起きた状態でのフレーズ、文を読む練習をしていないと、やはり聞き取りに苦労を感じることが多いでしょう。

 上記1と2は「自らの発音」を鍛えることで、それがそのまま「リスニング」の能力向上に直結することの理由となります。「自分が出せる音は聞き取れる」----この大原則を踏まえれば、基本習得への方針は自ずから見えてくるものです。


3、話者の意図・心理が音声的に様々な変化をもたらしたとき、それを機敏に理解できる。

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 音声学的な現象についても、一通り学び、自分自身の発音も上達してきたら、それを活用して現実に使われる例文を沢山暗誦することです。一般に発音やリスニングが苦手という相談に対するアドバイスとして「多くの英文に接してなれること」とよく言われますが、それは確かに間違ってはいないものの、これまでの1と2のステップを経た人にのみ有効なアドバイスです。

 ある例文の音読練習をする際、読むスピードを色々変えたり、ちょっとした心理的変化を読む際の強勢や抑揚に表現してみましょう。こうして「意味(=自分が言いたいこと)と音声(=自分の発音の仕方)の連動」を自らがしっかり実現できるようにするのです。最初は「覚えた例文」という感覚がぬぐえないかもしれませんが、この「練習・訓練」を重ねるにつれて、「自分自身の言葉」という実感が増してきます。またいろいろなニュアンスをこめた多くの読み方の練習をすることで、それだけ色々な人の個性的な読み方を聞き取る対応力もついてきます。

 英語のCDを聞くとか、洋楽を聴くとか、洋画を見るとか、色々ためになる学習方法はありますが、それをすれば自動的に、自然にリスニングやスピーキングが上達するかというと、そこまで甘くありません。それら現実の英語話者によるサンプルを真似て、少しでも英語的な緩急、リズムに自らの発音を近づけていくため懸命の努力を重ねなければ実力向上にはなかなかつながるものではありません。

 発音の章、特に後半で解説された様々なことがらを、十分理解し練習した人にとっては、耳にする英語CDや洋画の音声の至るところに「あ、本当に、そう発音してる!」と気づくことでしょう。


4、耳から聞こえてきた順番に意味を理解し、和訳することなく相手の発言を解釈できる。

 さて音声学的な訓練だけで「聞き取り」ができるようになるかというと、(それなしには無理なことだけは確かですが)それは「リスニング」習得の入り口を通過した段階なのです。そう聞いてがっかりしないように。入り口を通過しなければ中には入れないのですから。

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 「聞き取る」とは、言うまでもなく「音声を通じて意味を理解する」ことです。「音」が把握できても「意味」が入ってこなければ聞き取れたことにはなりません。書かれた英文があるとして、目を開けば文字も単語も見えます。しかしそれがそのまま英文を「読める」ことを意味しないのと同じです。

 文字と違って音声は、聞こえた瞬間消えていきます。次々と耳に入っては、また新しい音が聞こえてきます。そして「分からなかったところ」を巻き戻して、繰り返し聞くことは通常の会話の中ではそうそうできません。つまり聞き取れるというのは、音声による英文をリアルタイムに理解し続けられるということでもあるのです。

 さあ、ここです!非常に重要で、かつ当たり前のこと。なのにほとんどの人がそれを忘れていたり無視して英語の上達を目指し、思うような結果を出せないでいるところです。

 発話のスピードにリアルタイムで理解が追いついていくというのは、聞こえてきた英文をいちいち和訳などしていたらできるはずがありません。同時通訳という特殊技能は、専門の訓練を受けているからこそできるものであり、「英語が話せる人」がいつも耳から入ってくる英文を日本語に直し、その和訳を通じてやっと理解しているというのではありません。これが「英語を英語のまま理解する」とか「英語で考える」といわれるところなのですが、一見きわめて上級者だからこそできると思い込まれがちな「英語で考える」ということは、むしろ英語学習の初歩から(程度の差こそありますが)行うべきもっとも大切な練習ポイントなのです。英文を和訳することの方が「英語のまま理解する」ことより、さらに別の技能を要求される、より高度なことなのです。

 たとえば非常に平易な英文(This is a pen.とか、I am a boy.とか)が聞こえてきたとしましょう。あなたはそれを「和訳」してやっと理解できた気になるでしょうか?和訳しろと言われればいつでもできるでしょうが、日本語に直す手間などかけずにストレートにその英文に含まれる情報を汲み取っているのではないでしょうか。それが「聞き取れている」ということなのです。

 ということは、This is a pen.や I am a boy.並みに簡単に感じられる英文が沢山あればいいということになりますね。それが文章まるごとでなくても構いません。文章の部品として使われるフレーズをナチュラルスピードで言えて、聞き取れるようにしていく。そのレパートリーが増えるに従い、「スピーキング、リスニング、リーディング、ライティング」のすべての技能が均等に向上してきます。いやでも全体が連動して技能が向上していくこととなるのです。それが正しい学習法の効果であり、皆が求めている「効率のい い英語学習」なのです。何も無理して(「無理」とは「道理がない」の意味)までリスニングやスピーキングの技能を置き去りにして、和訳の力だけを伸ばそうなんてすることはないのです。そんな「無茶苦茶な」勉強をすれば、(英語が話せなくなる・聞き取れなくなるという)副作用が出るのは当然のことではありませんか。

 さて話を戻しますが、「耳から聞こえてきた順番に英文を理解する」というのは、書かれた文章について「単語が目に入ってくる順番のまま理解していく」ことと同じです。音声だろうが文字だろうが、いかなる媒体を通じた場合であっても、「語順のまま」英語を理解するというのが「自然の摂理」なのです。それを踏まえて文法も理解できます。

 この「語順のまま」という理解方法は「直読直解」という英文の読み方ですが、これをまずはしっかり訓練することです。それにより媒体が文字から音声に変わっても、あとは練習次第でスムーズにリスニングの上達が図れます。

 教科書の英文を黙読しながら、その内容を理解しようとしますね。こんなときにさえ、あなたは「リスニングの訓練」をしていると言えるのです。どこからも英語の音声が聞こえてきていないのに、なぜ「リスニング」になるのか?と疑問に思うでしょうか。これまで述べたように「聞き取り」の能力は、発音の基礎の上に、次々と自分の中に注ぎこまれる英語の情報を、淀みなく、前にさかのぼることなく、汲み取り続ける「処理能力」のことです。ということは、書かれた英文を黙読しているときでさえ、その能力の開発を行う訓練となっており、「意味を聞き取る」練習にちゃんとつながっているのです。

 意味を正しく把握するには当然ながら語彙力文法理解の両方が必要となります。「発音だけ」を鍛えても「知らない単語」の意味がわかることはありませんし、文法構造を(感覚的にでも)理解していなければ、言葉に含まれる事実関係を正しく捉えることが困難になるでしょう。

 ですから、「発音」も「聞き取り」も、語彙や文法と切り離した別の世界にあるのではなく、互いに有機的につながり、支えあう技能なのです。発音練習しながら、例文を文法的にもしっかり理解し、文法を学びながら、例文を適切に発音するようにする。学習者自らが「総合的訓練」を常日ごろから心がけることで、身につく技能のバランスも取れてくるのです。


5、話の流れを正確に捉え、「予測をもって」相手の発言を聞くことができる。

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 日本人同士が会話しているとき、非常に多くの場合、相手がその文章を最後まで言わなくても、最終的にどんな文になるかは途中で見当がついています。これは「予測」をもって相手の話を聞いているからであり、そういう予測ができるのは、「文脈(話の流れ)を正しく捉えているから」と、もう1つ「その言語の典型的な構文(言い回し)をよく知っているから」です。

   だから英語の聞き取りでも同じようになればいいわけです。上記4までを順次重ねることで、話の流れを正しく捉え、次にどんな内容の発言が追いかけてくるはずかの予測をもって耳を傾けます。その言い回しについて、自分がすでに馴染んだ表現が使われていれば、苦もなく聞き取れてしまうでしょうね。

 そのようなレパートリーを増やすという目的をもって、例文収集の素材に洋画でも洋楽でもどんどん活用してください。そのように使うことで、洋画や洋楽が技能向上に大きく寄与するのです。「聞き流していれば自然に、、」なんて大嘘にだまされるのはもうやめましょう。英語ネイティブが英語を赤ん坊のころから習得するプロセスと、外国人である我々日本人学習者が一定の年齢になってから日本語の助けも借りながら英語の上達をしていくプロセスは違うということを忘れてはなりません。科学的根拠もなく、「赤ん坊が言葉を覚えるとき文法も習わないし、発音記号も覚えていない」なんていう、一見もっともらしいことを言って、文法学習の重要性や、音声学の基本の大切さを否定的に語る人や書物がありますが、それがいかに間違ったアプローチかを皆様はすでによく理解されていることと思います。

 さて、これで「聞き取れる」とは一体どういうことなのかが、具体的に見えてきました。自らの発音を基礎からしっかり鍛え、自然な音声学的現象まで自分の音声で実現できるようになることと、その一方で、語彙力をつけ、フレーズ単位、文章単位ですらすら言える英語のレパートリーを増やすことです。

 本サイトでは、「発音」の章の中だけでなく、「文法」や「語彙」の章の中でも EnglishCentral のビデオの埋め込みがあります。学んだ文法事項や単語の語源をすぐその場で、実際の言語活動の中で確認し、リスニングとスピーキングの力に高めしまうのです。

 考え方、方針が理解できたら、それらの目的を実現するために効果の高い具体的な訓練方法を紹介することとしましょう。


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