英語の子音
ここからは英語の子音の解説・練習に入ります。
母音は音節の要となり、「聞こえ(Audibility)」を支えますが、子音は原則として単独で音節を構成できません。子音は母音の前あるいは後に吸着することで母音によってその聞こえの明確さを与えられます。例外的に「子音音節」というものもあるのですが、これも厳密には「曖昧母音」が発音されているか、子音の中でも半母音的性質を帯びているため音節となりうる例外的なものです。子音音節についてはまた別途解説します。
英語の母音が厳密には1つも日本語と完全に共通したものがないと述べました通り、子音についても日本語とまったく同じものはありません。日本語の子音で代用しても支障のないものもありますが、そもそも日本語に近似音さえない子音もありますので、そういうものは音の出し方から覚えなければなりませんし、一見日本語の子音で代用が聞きそうな「h」や「t」などでさえ英語特有の音の出し方があります。
日本語の五十音は歴史的な経緯もあって、かなり変則的な音の並びになっています。たとえば「さ行」では「sa, SHI, su, se, so」と「s行」に「SH行」が混じっていますし、「タ行」も「ta,CHI, TSU, te, to」と共通の子音とはなっていません。
ですから、英語の子音を学ぶときにも日本語の五十音やローマ字を参考にしないようにしましょう。英語の音として独自に学ぶ構えを持ってください。
有声音と無声音
英語の子音の習得を効率的に進めるためには「有声音」と「無声音」について理解しておくとよいでしょう。なぜならば、多くの子音は「まったく同じ音の出し方」で声によってその音を出すか、息によって出すかだけの違いとして音声学的なペアをなしているからです。
すべての子音についてそのような有声音・無声音のペアがあるわけではありませんが、ペアとなっているものだけで16子音、すなわち8組あります。(前の項目の一覧表で黄色の欄で2つの子音が並んでいるものが、無声音と有声音のペアです。この表で数えると7組しかないように見えますが、それは / tʃ /, / dʒ / が、2連続子音のため、表に含まれていないからです。)
すべての音素は、肺から送り出された呼気が、喉、口腔(口の中の空間)、歯、唇、または鼻腔(鼻の奥の空間)、鼻の穴という経路をたどって外に出ることで発生しますが、喉を通過するときに「声帯の振動」を伴うか伴わないかによって「有声音」と「無声音」に分かれます。
確認方法は簡単で、手を喉に当てながら何かの音を出してみて、手に喉の振動を感じれば有声音、感じなければ無声音です。声を出さずにゆっくりと息だけを吐いたり吸ったりしてみてください。喉に当てた手には特に振動は感じられませんね。これは声帯が振動していないからです。次に「あー」と声を出してみると手にはっきりと振動がかんじられます。これが声帯の振動です。声帯は口の中を覗き込んでも見えない位置にありますが、その振動はこのようにして確認することができます。
ちなみに日本語には「濁音」という言葉がありますが、これは音声学の用語ではなく「仮名で表記したとき濁点(゛)をつける」という表記上の形式についての名称です。濁音はすべて有声音ですが、有声音のすべてが濁音ではありません。たとえば母音は全部有声音ですが、「あ」に濁音をつけるのは漫画のセリフの中だけですね。
また「は」、「ぱ」、「ば」は同じ「は」をベースにして右上に「半濁点(゜)」や「濁点(゛)」をつけて区別しますが、これはなんら音声学的な対応になっていません。つまり日本語でいう「濁音」はなんら「にごった音」ではなく、無声音を有声化させたものですらありませんし、「半濁音」にいたっては「半分にごった」音など音声学的はまったく存在しません。英語とは直接関係ありませんが、日本語の「濁音、半濁音」はまっ たく「音の性質」を現す言葉でないということは知っておきましょう。
どんな音でも「ひそひそ声」で話すときは無声音になってしまいます。これは声帯を振動させないように発声することで「声をひそめている」からです。発音練習においては、このような「かすれ声」は含まれません。
英語では8組の「有声音・無声音」のペアとなる子音があると述べましたが、ペアをなしていない子音はすべて有声音で、無声音しかない子音としては唯一 /h/ があります。
技能の習得を主要目的とする意味においては、音声学の用語を覚える必要はないのですが、「有声音」と「無声音」という言葉は、文法的な説明にも用いられますので、覚えておいた方がよいでしょう。
たとえば名詞の複数形語尾 -s をどう発音するかをルールとして暗記した人もいるかと思います。
「pen」の複数形「pens」では「-s」が / z / と発音されるのに対して、「book」の複数形「books」では「-s」を / s / と発音しますね。これは「人が決めたルール」なのではなく、複数形語尾の「-s」の直前の音の出し方をそのまま続けた結果に過ぎません。つまり、pen という単語の末尾はn であり、これは有声音です。一方、book の語尾 k は無声音。複数語尾のスペル s を / z/s / のいずれで読むかは、直前の声帯の振動状態をそのまま維持するのが「発音しやすい」ため、無声音で終わっている単語についた -s はそのまま無声音として、有声音語尾の単語についた -s は声帯の振動をそのまま保って有声音 / z / の発音がなされるわけです。早い話が「そう発音した方が読みやすい」というだけの理由なのです。
さて、有声音と無声音の違いが理解できましたら、いよいよ具体的な英語の子音について学んでいく ことにしましょう。
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