英語の母音

 先に一度紹介したIPAの母音一覧を再度ご覧いただきましょう。ただし今回は英語に含まれない記号は取り除きましたので、かなりすっきりとした感じに見えるかと思います。

English Vowels

 この表の中にある記号は、1文字だけで用いられるものもあれば、二重母音としてのみ現れるもの、あるいはアメリカ英語やイギリス英語特有の音を表す記号も混じっています。この解説ではアメリカ英語の発音をベースにしつつ、イギリス英語の特徴についてはその都度補足を加えていくことにします。

 なおアメリカ英語とイギリス英語では、たとえ同じ記号で表現されていても音質に違いがあり、ある1つの記号が常に固定的に同じ音を表さないことにも注意してください。ただし英米両方の発音を習得する必要はなく、自分の環境や目的に応じて、いずれか一方の発音に統一して習得するようにしてください。ですからアメリカ英語で発音を学ぼうとする人にとっては1つの記号は常に同じ音を意味しますし、イギリス英語で統一する人も同様です。

 個別の解説に入る前にまた全体像を先に眺めることにします。
 英語の母音をどのように分類し、全部でいくつの母音があると考えるかについては、どういう基準で分類するかなど複数の立場・考え方があるので、絶対的な正解があるわけではありません。ですから本書の解説は数ある考え方の中の1つであり、他の考え方に基づいて分類しても構いません。

 本サイトでは、母音全体を Simple Vowels単母音) と Complex Vowels重母音) にまず大別し、Simpleの方は「短母音(short)」と「長母音(long)」に下位分類します。 Complex の方は「(二重母音(Diphthongs)」と「三重母音(Triphthongs)」にさらに分かれます。

 単母音とは発音の開始から終了まで口の形が一定に保たれる母音のことであり、長い・短いの差はしばしば曖昧なため、長母音、短母音の区別は一応の目安に過ぎません。(そのような理由から母音の長短をあえて分けない考え方もあり、EnglishCentralの発音記号はその考え方により長音記号を用いていません。)

 短母音に分類されている音であってもあとに続く子音の種類によっては長めに発音されたり、同じ単語の母音でも地域や人によってどれくらいの長さで母音を発音するかはまちまちなことがあります。

 重母音というのは「1音節を支える1つの母音として見なされるけれども発音の開始から終了までの間に舌の位置や唇の形が変化する母音」です。二重母音と三重母音に分けることができますが、アメリカ英語については考え方によって二重母音の数がもっと少ないと見なすこともできますし、三重母音がないという考え方もあります。詳しくはそれぞれの母音の項目の中で解説します。

 下の表は、アメリカ英語とイギリス英語のそれぞれについて母音を分類したものです。本書ではいずれの場合も、単母音16、重母音10の合わせて26種類と考えることにします。(この分類基準はサイトとはまた違うものを用いることにします。)

 アメリカ英語には、イギリス英語にはない /ɚ/ という特殊な記号が含まれています。(EnglishCentralではこれに /ɝ/ の記号を用いていますが、同じ音です。)
 一方イギリス英語には、アメリカ英語の /ɚ/ に対応するかのように、イタリック体の r の文字まで含んで1つの母音と見なすものがあります。

 アメリカ英語には「Rの音色を帯びた母音r-colored vowel)」という特徴的な母音がいくつかあります。記号で見ると /ɑːr, ɔːr, ɚ, ɚː/ といったものがそれに当たります。 /ɑːr, ɔːr/ の2つについては/r/ を伴わなず、ただ母音を伸ばしただけの音 /ɑː, ɔː/ も個別の母音としてカウントしてありますが、これは今回の分類上のある基準によるものです。これについても詳細は個々の母音の解説の中で説明します。

 イギリス英語にも、アメリカ英語にはない / ɒ / というイギリス英語特有の音があります。調音点自体は、/ɑ/ と同じ口の奥にあるのですが、唇の丸め方が /ɑ/ と異なります。/ɔ/ の音でも問題はないのですが、どうも最近のイギリス英語は /ɔ/ の口の開け方が以前より大きくなってきている傾向があるようで、それを反映してか辞書でも特に英英辞典では /ɒ/ の記号を採用しているものが増えてきています。

Am vs Br

 前のページの英米ごとの母音一覧を英米対照として書き直したのが左の表です。英米の発音の違いは決して、すべての場合において機械的に対応するものではありませんが、ここでは1つの単語が英米で発音が異なる場合の典型を示しました。

 青文字はアメリカ英語特有の音でイギリス英語の中にはありません。
 赤文字の/ɒ/ はイギリス英語特有の音でアメリカ英語に含まれません。

 またイギリス英語だけに見られるイタリック体の / r / は「通常発音されないが、直後に母音が続くときだけ発音される」という音です。この音は常に単語の末尾に現れ、単語のスペルに ”r” が含まれています。

 アメリカ英語ではスペルの ”r” は常に発音として現れますが、/ɚ/ で表される音の場合、発音として最後に /r/ を添えるのではなく、母音の音質そのものが変わってしまいます。つまりイギリス英語のように /əː/ を先ず伸ばし、あとに続く母音と /r/ がリンクするという音とは異なります。

 重母音についての考え方は学説によっても異なっており、例えば“hear” という単語のアメリカ英語での発音を /hɪr/ というふうに「単母音+r」と示している辞書もあり、その捉え方では “hear” の母音は二重母音ではないと解釈されます。同様に “hair” や “pure” のアメリカ英語発音を / her/, /pjʊr/ と見なせばこれらも「単母音+r」なので二重母音ではないという解釈になります。

 その考え方を三重母音に延長しますと、”fire”, “hour” のアメリカ英語発音は、 /faɪr/, /aʊr/ と表記されることになりますので、アメリカ英語には三重母音という発音そのものが存在しないという考え方になります。

 解釈や捉え方は学説的違いではあっても、重要なのは「英語の発音ができる」ことですから、あまり細かいところにはこだわらず「考え方の違い」として理解しておけば十分です。それではいよいよ、個々の発音記号についての解説に入ることにしましょう。


ページトップへ HOMEへ 次の項目へ

inserted by FC2 system