発音記号の習得

 この章では、一般に「発音記号」と呼ばれている IPA(International Phonetic Alphabet)について学びます。

HOMEに戻る

発音記号について

 外国語の発音を習得しようとする場合、その言語に含まれる母音や子音1つ1つについて、音の出し方から学ぶ必要があります。そのためには単語のスペルからではなく、音そのものを表す特殊な記号を一通り知る必要があります。そのために用いられる記号を一般に「発音記号」と呼んでいますが、これは正式には「IPA (International Phonetic Alphabet)」というもので、日本語では「国際音声記号」とか「国際音声字母」あるいは「万国音標文字」などとも呼ばれています。名称の問題はあまり重要ではなく、平たく「発音記号」と呼んで別に構いませんが、IPA という名前に「International」という言葉が含まれていることから分かるとおり、もともとは英語に限らず様々な言語の発音を文字で表そうとするところから定められたものです。

 IPAは国際音声学会International Phonetic Association)という組織が制定したもので、1888年に最初のシステムが制定されてから数回の改訂が行われ、より多くの言語の音声に対応するように記号が追加されたり、なくても支障のない記号が削除されるなどして、現在は2005年改訂版が最新のものとなっています。

 英語以外の言語に用いられる記号も含まれていますので、そのすべてを知る必要はありませんが、IPAがどういうものか、まずはざっと全体像を見ていただくことにしましょう。英語以外の言語音に用いられる記号も含めて眺めていきますので、見慣れない記号が沢山出てきますが、あまり気にしないで構いません。ポイントはどういう基準・根拠で各種記号が配列されているのか、「発音する」ということは口の中のどの部分をどう使うことを意味するのかなどの概略を理解することです。

 先ず顔の断面図から見ていただきます。発音の解説では習慣的に常に左を向いた状態の顔の図を用います。この顔の向きがこのあと紹介する発音記号一覧の向きとも関係してきます。

articulators

 人間が言語音を出すとき、口の様々な部分を用いて音を発するわけですが、声帯、舌、上下の顎、歯、唇など言語音を発生するために用いる体の器官のことを「調音器官」(articulatory organ)といいます。解剖学用語のような日本語でさえあまり日常的になじみのない名称も多く見られますが、解説の中で は噛み砕いた平易な言い方を用いますのでどうかご安心を。解説を通じて「軟口蓋」などの用語もいつの間にか難しく感じなくなってくるでしょう。名称はともかく、要するに「口の中の『このあたり!』」と分かればいいんです。  顎(口)の開き、唇の丸みの違い、舌のどの部分がどんな位置(高さ)に置かれるかなど様々な要素が組み合わさって個々の母音や子音としての音質的な特徴が生まれます。口の中のどの位置でその音質の特徴が最も強く決定付けられるかを「調音点point of articulation)」といいます。要するに意識としてどこでその音を出しているかということです。

 さて、この顔の向きと口の中の各パーツの位置関係にあわせるようにして母音を表す各記号を配置すると、下図のようになります。

vowels

 上の図は正式な図に補足説明の必要性から、私が多少手を加えているものです。図の中に配置された記号で表される母音は、左に書かれているものほど「口の前方」で発音され、右に書かれているものほど「口の奥の方」で発音されることを意味しています。また上下の位置関係は、「口の開き」の大小を意味していたり、「唇の丸め方」の強さを表していたりもします。

 例えば図の中で一番左上にある /i/ という記号で表される音は、「口の開きが最も狭く」、「舌の前の方が上顎に接近」して発音されるものであり、逆に図の一番右下にある /ɑ//ɒ/ のペアは「口の開きが最も大きく」、「舌の付け根に近い、口の奥」で発せられる音です。 /ɑ/ /ɒ/ の音は同じ音ではなく、/ɑ/ があくびをするときのように大きく口をあけて「ア」という音であるのに対して、/ɒ/ の記号はその「ア」の口で唇の左右の端が前に寄せられ口全体がもっと丸みを帯びた形になります。とても大きな口を開けて「オ」というと考えればよいでしょう。

 /ɑ/ の口の開きが徐々に狭くなっていくと /ʌ//ʊ/ の音へ変化していきます。一方、/ɒ/ を発音する唇の丸みを徐々に狭めていくと、/ɒ/→/ɔ/→/o/→/u/ というふうに音が変わっていきます。(/ɒ/ はイギリス英語特有の音)  図の左側では上から縦に /i/→/e/→/ɛ/→/æ/→/a/ と並んでいますが、これは「イー」というふうに唇の左右を強く引いて高い位置に舌を構えた音から徐々に口の開きが大きくなり、その分唇を左右に引く程度も弱まり、同時に舌の位置も下がってくるということになります。左の縦の列が斜めになっているのは、口を大きく開いた音では、調音点の前後の差が少なくなってくるということです。口をほとんど開けていない状態では、舌の前後のどの部分を上顎に近づけるかに大きな差がつけられますが、口を大きく開けた状態では、調音点の前後の差は縮まってきます。

 この図には英語に用いられない母音を表す記号もグレー文字で示されていますが、このような図の見方が理解できると、大まかにでもそれらの記号が表す音をどうやって出すのか想像がつくかと思います。

 この後個別に解説する英語の母音は青文字で示されている他、標準のIPA図には含まれない補助記号として赤文字の /ɚ/ という記号を、特にアメリカ英語の発音を解説するために追加しました。

 また日本語の母音との比較を行うため、緑文字で日本語の「アイウエオ」の母音の調音点を重ねて示してあります。英語と日本語の母音について、調音点を比較するため、英語の母音にはピンクの背景を、日本語の母音にはブルーの背景をつけました。こうして比較してみるとすぐ分かるのは、英語の母音は( 中央のものを除いて)大きく前後上下に離れて分布しているのに対して、日本語の母音はすべてそれより中央よりに分布しているということです。

 それはつまり、日本語の「アイウエオ」の発音は、舌や顎の動きがあまり極端ではなく、口の動きが小さめに抑えられた中で発音されるのに対して、英語の母音は、日本語よりずっと狭い口の開きから、もっと 大きな口の開きまで使い、口のもっと前方や奥の方でも発音されるということです。このような違いがあるため、日本語の母音の発音習慣のまま英語を発音しますと、英語話者の耳にはモゴモゴとしたメリハリのない口ごもった音に聞こえます。通じやすい明瞭な英語の発音を心がけるには、まず「口の動きを極 端にして、唇をはっきり動かして発音する」ことがポイントになります。

 次に子音を表すIPAを見てみましょう。これまた見たことのない不思議な記号が沢山含まれていますね。先に述べたように英語以外の言語に使われる子音も含まれているからですが、英語に用いられる子音は黄色のハイライトで示してあります。

consonants

 子音の一覧について何点か注意事項を述べますと:


(1)配置としては、図の左ほど口の前方、右ほど口の奥で発音されるように並んでいます。これは母音の場合と同じですね。表の上の見出し部分を見ますと、「口の中のどの部分を使ってその音を出すか」によって色々な名称がつけられています。難しそうな音声学用語が使われていますが、覚える必要はありません。要するにどうやってその音を出せばいいかが分かればよいのですから。

 例えば一番左の「両唇音」というのは「上下の唇」を使って出す音ということ。その使い方は、上下の唇を閉じたり、それを息や声で破ったり、あるいは非常に小さくすぼめることで音を出したりと様々です。

 「両唇音(bilabial)」:上下の唇両方を使って出す音

 「唇歯音(labiodental)」(:/f/音のように唇と歯の接触によって出す音

 「歯音(dental)」:舌の先端部分と歯を組み合わせて出す音。上下の歯の間に舌を挟む音。

 「歯茎音(aveclar)」:舌先(tongue tip)が上歯茎に接触するか、近づいて出される音。

 「後部歯茎音(postaveclar)」:舌の先端よりやや中央より(tongue blade)が、上歯茎より少し奥の上顎(硬口蓋)に、接触・接近して出される音。

 「反転音(retroflex)」:舌先が巻き上げられて発音される音。

 「口蓋音(palatal)」:舌の中央かやや前あたりが硬口蓋に接近して出される音。

 「軟口蓋音(velar)」:舌の後部が隆起して、上顎奥の柔らかい部分と接触して出される音。

 「口蓋垂音(uvlar)」と「咽頭音(pharygeal)」は英語にまったくない音なので無視します。

 一番右の「声門音(glottal)」は原則的に英語にはない音と見なして問題ありませんが、実際にはこの音が現れる場面があります。このクエスチョンマークに似た / ʔ / の記号は「声門閉鎖音glottal stop)」といって、喉の奥をつめるようにして音を止めるものです。「子音」といっても「音がない」のでわかりにくいかも知れませんが、「あ、あ、あ、あ」と母音を小刻みに発音してみると、音を切るために喉の奥で声を止めているのが分かるでしょう。その「声を止める動き」がこの声門閉鎖音です。辞書を引いても滅多にお目にかかれない記号ですが、「uh-uh」のような発音では2つの母音の合間にこの声門閉鎖音 /ʔ/ が現れます。この声門閉鎖音は「音の止め方」であり、この記号自体が音というのではないとも言えるため、単語のスペルで特定の文字が対応することはありません。必要に応じてまた取り上げて説明したいと思います。



(2)左の縦の欄は、「音の種類」の名称が書かれており、これまた難しそうな音声学用語ばかりですが、もちろん暗記する必要はなく、個別の記号の発音要領の中で簡単に説明しますからどうか安心してください。

 「破裂音(plosive)」:一旦息や声を何らかの方法で止め、それを強い息や声で破るようにしたとき一瞬発せられる音。上下の唇を閉じた状態から息で破れば /p/、声で破れば /b/ になります。口の中のどこで、どんなパーツを使って声や息を止めるかには様々な方法があり、「舌先と上歯茎」を使えば /t/, /d/ の音、舌の付け根を上顎の奥の柔らかい部分(軟口蓋)に付けた状態から破裂させれば /k/, /g/ の音となるわけです。なお、「破裂音」を出すためには、必ず先に「閉鎖」が行われていなければならず、その閉鎖を息または声で破った瞬間に出るのが破裂音です。

 「鼻音(nasal)」:唇や舌などで声が口から出て行くのを止めた状態で、鼻から声を出す音。

 「顫動音(trill)」:「せんどうおん」と読みます。簡単に言えば「ふるえ音」。表の中ではアルファベット小文字の “r” の文字がありますが、これはスペイン語などに見られる「rrrrrrr」という連続的なふるえの発音にIPAではこの文字が当てられているからです。一方、英語の “r” には「接近音」という中に見える “r” の文字をひっくり返したような記号(turned-r) が使われており、辞書によっては「read」という単語の発音を / ɹiːd/ というふうに示してあるものもあります。ただし大半の辞書では、あえてスペイン語など英語以外の言語の “r” と区別せず /r/ 記号を英語の “r” にも用いているようです。英語1言語の中で /r//ɹ/の両方が現れて区別しなければならないことはないので、目に慣れた /r/ で済ませてしまっても通常は問題ないでしょう。本サイトでも、英語の “r” 音を表すのに、あえて /ɹ/ 記号を使うことはせず、/r/ を用いることにしますが、IPAではそういう区別がされていることを知っておけば、今後様々な辞書を使うとき、この記号に出会っても驚かずに済むでしょう。

※本サイト管理者が運営する Round-ER Online Shcool は EnglishCentralのサイトを利用しますが、EnglishCentral サイト内で使用されている IPA は、 英語のRの発音として /ɹ/ の記号を用いています。

 「単顫音(tap/flap)」:「たんせんおん」と読みます。簡単に言えば「1回だけはじきが起きる音」です。英語名で「flap」や「tap」ということから想像できるかと思うのですが、普通の /r/ に一見よく似ていて紛らわしい / ɾ/ という記号(どこが違うか分かりますか?「r」の縦棒の上の部分がちょっと違うでしょ?)が表すのは、日本語の「らりるれろ」の音だと言えます。舌先で上の歯の付け根近くの歯茎を1回だけ軽く叩くようにして発音します。(だから日本語の「ら行」子音は Lの音ではないのです。)

 「摩擦音(fricative)」:歯と唇、小さくすぼめた唇、歯と舌、上顎と舌などで狭い隙間を作り、そこから息が声が出て行くときに空気と調音器官が摩擦を起こして発生する音です。

 「摩擦側音(lateral fricative)」:英語にない音なので無視します。

 「接近音(approximant)」:例えば英語の “r” の音は、舌先が少し巻き上がるように持ち上げられ、舌の先端近くが上顎の硬い部分のすぐそばまで寄せられた隙間から声が出る音です。アメリカ英語では、舌先が巻き上がらず、舌の中央から後ろにかけて全体が上顎に接近してこの音が発音されることもあります。結果的に出される音は同じように聞こえます。

 また標準のIPAの表には含まれていないのですが、/w/ の音をこの「接近音」に含めることにしました。/w/ 音の扱いについては何種類かの考え方がありますが、私としては最も重要な発音ポイントを「小さくすぼめて突き出された唇」の形にあると考え、「狭くすぼめられた唇」を声が通過することを「接近音」の一種としたいと思います。なお、/w/ の発音では舌の付け根が軟口蓋に向けて隆起するため、その舌の動きに重点を置いて、軟口蓋音に分類している人もいます。言うまでもなく発音の習得を目指す学習者にとって、学術的な分類方法は問題ではなく、要するにどうすればこの /w/ 音が正しく出せるかさえ分かれば問題ありません。

 「接近側音(lateral approximant)」:単に「側音(lateral)」とも言います。舌先が上歯茎に接触したままの状態から、声が舌の左右両側を回りこんで出て行くことからこう呼ばれます。

 なおこの表には現れていませんが、chips や jeep の最初の子音は / tʃ// dʒ/ という2つの子音文字の合体で表され、これを「破擦音(affricate)」といいます。つまり /t//d/ の「破裂音」と / ʃ//ʒ/ の「摩擦音」に連続的に移る音です。破裂と摩擦を瞬間的に順に行うため、この表の分類では記入すべき場所がありません。(人によってはあとの子音である摩擦音の中に含めていることもある。)



(3)子音の多くは、同じ口の構えで声を出すか出さないの違いで「有声音」と「無声音」のペアが発音できますが、すべての子音にそのペアがあるわけではありません。有声音だけで無声音のない子音がいくつかありますが、「無声音しかない子音」はありません。

 このように「口のどこで、どんなふうにして音を出すか」を基準として様々な記号によって多くの言語音を表そうとしたのが IPA (Internatinal Phonetic Alphabet) です。難しいことが分からなくても「色々な音の出し方があって、いろいろな記号が使われているのだな」という程度に理解するだけでも今は構いません。「これは確かに仮名で表せない音がいっぱいある」と分かることが一番大事です。


ページトップへ HOMEへ 次の項目へ

inserted by FC2 system